国王を回避するために兄上を王にします!
「聖女じゃなくて、魔女なんだが」と同一の世界観となっております。
単体でも楽しめるようにはなっていますが上記の物を読めばより楽しめるようにはなっているかと(?)
さらっと読んで楽しんで頂けたら幸いです。
「コリアンダー兄上! ピンク頭…じゃなかった。ストロベリーブロンドヘアをした女性を見かけたら要注意してください」
ここは王城の植物エリア。その中でも王族のみしか入れない温室。
そこに僕──クライスト・レッチーノ・オレアと兄──コリアンダー・アルベキーナ・オレアが対面している。
書類を睨んでいた目をこちらに向け一拍置いた後「おぉ! 我が弟よ! どうしたのだ!」とわざとらしく言い放った。
相変わらずの軽い人だ。とても第1王子だとは思えないなとポーカーフェイスの裏で密かに思った。
しかしこれでもこの国──オレア王国の第1王子だ。第2王子の僕よりも高度な教育を受けているはずだ。だから切れ者であることに違いは無いのだが…如何せん態度に知性が現れない。知らない人から見ればセインの馬鹿王子と良い勝負だとでも言いそうだ。現に僕も少し思ってたりする。が、父である国王や宰相からの強い信頼があるのだからセインの馬鹿王子とは違うのだろう。
「この国は今じゃ周辺各国から一目置かれている存在です。いつ如何なる時何が起こるか分かりません。セインの二の舞にならないよう刺客にはお気を付けください」
「ハッ! セイン王国の馬鹿王子と一緒にしないでくれ我が弟よ! 俺はあの馬鹿と違って優秀だからなッ!」
何度も思うが高笑いし自信ありげに語るその姿からは知性が感じられない。本当にただの馬鹿なんじゃないか、こいつと思うくらいには。
「ですが邪神マルグレットからの報復がないとは言いきれません。新たに邪神の手先が現れてこの国を崩壊させる可能性も少なくは無いです。なので次期国王として身近周辺にはより一層警戒して頂けるとこちらも助かるのですが」
「フンッ! そこら辺の女を寄越されても俺は靡かないわッ! そこら辺の女で鼻の下を伸ばすようなやつはセインの王子で十分だ! 俺は女神オリーブ様のように美しく気高く聡明で心優しいオリーブ様のようなお方を! もはやオリーブ様の婿になりたいッッ!」
何度も思うが知性が感じられない。
兄が護衛を連れて城下町に降りてとある場所に行っていることを頭の片隅で思い出した。
「娼館に出入りしていると耳にしたのですが」
兄はわざとらしく肩を大きく揺らし、視線を泳がせる。口を開いては閉じてを繰り返した。まるでその姿は魚のようで。
小さくため息を付いた。それに反応した兄は慌てて弁解をする。
「ち、違うからなッ!? お前が想像していることは一切無いッ! じょ…お、女とそ、そういうことはしてないッ! ただ情報提供してもらっているだけでッ!」
そこら辺の女で満足するような男はセインの王子で十分だと先程仰っていませんでしたっけ?と出かかった言葉を飲み込む。
顔を真っ赤にして弁解している兄に冷めた目線を贈り、小さくため息を吐いた。
「真意は兎も角、体面が良くありませんので今後はお気を付けてください。……僕はそろそろ部屋に戻ります。……先程ウィステリア様がお探しになっていましたので早めに向かわれると良いかと」
「…母上が? 分かった。クライスト…お前も気を付けろよ」
護衛を連れて温室を後にする。
僕はセイン王国のことを学んでいる時に突如として前世の記憶が甦った。前世の自分は別の世界で生きていて何より女だった。最初は困惑したが今ではすっかり落ち着いている。前世の人格に引っ張られることも無い。僕はクライスト・レッチーノ・オレア。オレア王国の第2王子のままだ。前世の記憶を思い出すのは本来なら小さい頃、それこそ人格形成時期に甦るのが定番らしい。僕のように当然甦る場合もあるが人格が変わるということは僕にはない。
そもそも前世の記憶が朧気で現在の僕にそれほどの影響が少ないため僕は今のままなのだろう。それに、前世の僕と今の僕を比べれば今の僕の方が優れている。だから変わらないのだろうと僕は結論する。
さて影響が少ないとは言ったが影響がないという訳では無い。前世の記憶によるとこの世界は乙女ゲームと呼ばれるものだそうだ。物語とチェスのような遊びを合体させたもの。
残念ながらその内容を前世の僕は知らないようで断片的な情報しか得ることは出来なかった。しかしこれくらいで十分でも合った。
主人公が学園へと通い攻略対象とイベント…とやらの祭りごとを重ね親密度を最大にまで上げるとハッピーエンド…幸せな結末に終わるという物語。
兄が攻略対象の1人であり、主人公がピンク頭。そして兄が婚約者と婚約破棄をし、兄が王となって主人公と幸せに暮らしましたという物語が存在するようだが、現実ではありえない。
きっと父は兄を廃嫡し、僕を次期国王に指名するだろう。それは嫌だ。心底嫌だ。僕のような小心で臆病者は臣下くらいが丁度いいのだ。もしそうなってしまえば同盟を結んでない国に亡命するだろう。
それを阻止するためにはやはり兄が王になる事が重要だ。故にピンク頭の女に要注意しなければならない。
物語の内容を知らないがセイン王国を見ればそれは自ずと分かるものだ。
「フェンネル。セイン王国について隅々まで調べあげてくれ」
「承知致しました」
物語の内容と酷似したセイン王国での婚約破棄それからの滅び。これを深く知ることで国の崩壊引いては僕の次期国王を阻止できるはずだ。
セイン王国の滅びについては有名だ。なんせ我が国の信仰対象、女神オリーブ様が直々に天罰を与えたからだ。
僕が生まれる数十年前。乙女ゲームのような物語と同じようにセイン王国の王子は婚約者との婚約破棄をしたのだ。それからというもののセイン王国は荒れに荒れた。善良な人間が虐げられ、悪意のある人間が好き勝手なことをしていた。
そのような有様となった国を見て女神オリーブ様は嘆き悲しみそして──天罰を下した。
最初は小さな芽だった。しかしそれは悪意を糧に成長する悪魔の苗だった。悪意だけを栄養値とし、善性なものを外に排斥する木だったのだ。
その芽は1日で成人女性の背丈を超えた。2日になれば成人男性を見下ろすくらいの大きさへ。あっという間に、大樹が生まれ、そして──国を飲み込んだ。
女神オリーブの天罰を恐れた周辺各国は一斉にオレア王国との同盟を持ちかけたのだ。
故に父──国王陛下は多くの妻に囲まれ多くの子供が生まれた。
僕の母はこの国の王妃。つまるところ正妃だ。しかし僕は第2王子。ここがまた厄介どころだ。
正当な王位継承者は僕だと持ち上げる貴族が存在するからだ。僕は王になどなりたくは無いのに、だ。
だから僕は兄を推す。兄の母は側妃だが同盟国の元王女でもある。後ろ盾としては申し分ないし、兄の能力…あのお調子者を除けば申し分ない。
たとえ知性がなくともセインの王子のようにならなければいい。そこは兄の周辺で補えばいいのだ。まぁ、僕が臣下になるのだからそこは補えるだろう。
◆◇
フェンネルや周りの助力によりセイン王国の内情が見えてきた。まず婚約破棄をした王子の名前をシファー・セイン。第2王子だ。
えっ。思わず2度見した。第2王子なのに後に国王になったという事実に驚愕。待て待て。これはやばい。これは僕が国王なる可能性が浮上。速まる動悸を抑え、深呼吸をする。落ち着け僕。続きを見ようじゃないか。
第1王子だったリュシアン・オリオール・セインは婚約破棄の現場に居合わせ、偽聖女と呼ばれた馬鹿王子の元婚約者の肩を持ちセイン王国から離れた。なおリュシアンの婚約者であるマナリア・アミレス・ヨフィールジュ公爵令嬢もついて行ったとのこと。
「馬鹿王子の元婚約者について情報が少ないが」
「魔力測定に引っかかった平民のようでそれ以前の情報とそれ以降の情報がまったく無く…」
平民であればしかないだろう。しかし本当に聖女だったのだろうか。邪神マルグレットの聖女はレイナ・フルーベリで間違いない。だとするのならば彼女は一体どの神の寵愛を授かっていたのだろうか。
「女神オリーブ様からの寵愛か…?」
まあそれは置いといて。
婚約破棄まで一連の流れを記憶に叩き込み、様々な状況を予想し、その対処に時間を割く。
今まで休学していた学園に復帰し、兄に接触しようと学園に潜り込むとそこには驚きの光景が合った。
僕も護衛騎士もポーカーフェイスを忘れて目を丸くした。あまりの予想外。こんな予想を誰ができたと思うくらいに僕達の予想斜め上の現実がそこには合った。
「やぁ、我が弟よ! 復帰祝いに来週開催されるパーティーに出ないか? クライスト好みのストロベリーブロンドヘアの令嬢が沢山いるぞッ!」
一体何がどうしてこうなってしまったのだろうか。
数ヶ月ぶりに合った兄の周りにはピンク頭…ことストロベリーブロンドヘアの令嬢が兄を囲っていた。
前世ではこれをハーレムと言ってたなと少し現実逃避しながらも警戒すべきピンク頭がたくさん。
さて、兄はどう言った魂胆なのだろうか。
兄だけを連れ出し王族専用のカフェテラスへと連れ込み問いただす。
「あれほどストロベリーブロンドヘアの女性に気を付けてと言ったではありませんか! アレは一体どういうことです!?」
「まあまあ、敵の敵は味方だろう!?」
「違います」
「敵を欺くには味方からと言うじゃないか」
「あのピンク頭は味方なのですか?」
「俺とクライストはストロベリーブロンドヘアの女性が好きだと言いふらしていたらああなった」
さらっと僕まで頭に入っているのはなんでしょうね。殴った方がいいのでしょうか?
「ま、あんな令嬢たちに靡く俺じゃないさッ! 俺はオリーブ様のような方がッ!好みであってッ!──」
「そんな話は良いですから、どうするのですあれらは」
「放置だ。俺があんなのに鼻の下を伸ばすわけないだろう? あいつらは結局俺の婚約者の地位が欲しいだけさ」
兄の言うことは最もだが。兄があの令嬢たちに靡かないという保証はない。むしろ、令嬢たちの画策によって陥れられる方が高い気が。……兄は僕を試しているのだろうか? 僕が彼女たちを見分け引導を渡すことができるかどうかを。それともただ単にハーレムを築きたいだけなのか。
しばらくして編入生がやってきた。男爵家の隠し子だと言われてやってきた男爵令嬢。
まるでセインの婚約破棄を見ているかのような体験をした。彼女──アリー・フォードが恐らく物語の主人公だ。
フェンネルにフォード家を調査するよう命令する。
すると埃を叩けば叩くほどゴミが蔓延したのだ。違法な取引の数々。中には口に出しては言えないような残虐非道な行いの数々。そしてフォード家の圧政に苦しむ善良な者達。
それだけではなく国家転覆を画策する計画も出てきた。
フォード家を断罪するためにアリー・フォードを利用する。
勝手に墓穴を掘ってくれれば楽だが…さてどうなるやら。
◆◇
兄は馬鹿だった。もしかしたら筋金入りの馬鹿だったのかもしれない。
あれほどそこらの令嬢には靡かないと自信満々に言っておいてアリー・フォードに現を抜かしていた。
「アリー……君をずっと見ていたい」
熱に浮かされた瞳でアリー嬢を見つめてる兄上。
それに照れながらもふふと笑うアリー嬢の目は野心に満ちていた。
「コリアン様。わたくし…もっとコリアン様と仲良くなりたいですわ」
「そうだね。俺もアリーのことをもっと知りたい。アリーのお父様はどんな方かな」
「まぁ! わたくしではなくてお父様のことを聞くのね! 酷いわ!」
「誤解だよアリー。いずれアリーのお父様にご挨拶に向かうだろう? その時に無礼を働いたら怒ってしまうかもしれない。だからその時のためにアリーのお父様のことをよく知りたいんだ。将来のために、ね?」
「2人の将来のために…ふふ!」
人通りの多い場所で観衆に見せつけるように寄り添っている2人。高貴な令嬢達は作法のなっていないアリー嬢を睨みつけていた。しかし、手を出すことはしない。令嬢達よりも高貴な方…つまるとこ僕や兄上が居るためだ。
それから日を追う事に2人の中は縮まり、ついにはその時がやって来てしまったのだ。何度も忠告したにも関わらずここまで来てしまった。
運命の強制力なんて言葉があるがそうなのかもしれない。兄がアリー嬢に惚れるのも運命という名の必然だったのかもしれない。
だが、まだだ。フォード家の不正は全て僕の手元にある。この場でフォード家を断罪し、アリー嬢を兄上から切り離す。
「アリー・フォード男爵令嬢! それからエイプルトン・フォード男爵! この場を借りて、宣言する!」
「お待ちください兄上!」
「ハッ!なんだ我が弟よ! この大事な宣告の場に」
卒業パーティー。各家の親も同伴する相当規模のあるパーティーだ。社交界に出る前の練習の場であるが本番でもあるこの場所。
兄の言葉に一同はフォード家と兄を交互に見るのだった。
「僕、クライスト・レッチーノ・オレアはフォード男爵を摘発します」
僕の言葉に貴族達はざわめき1部の貴族は安堵の表情を浮かべて頷いた。
フォード家による不正をフェンネルによって暴かれる。次々と出てくる不正にフォード男爵は「偽造だ! 嘘偽りだ!」と異を唱えるが僕は第2王子。僕の臣下であるフェンネルは僕の手であり彼が発掘した証拠の数々を偽装だと言うのであればそれは僕が偽装していると言っているものだ。引いては僕への侮辱でありそれは結果的に王族へ侮辱に繋がる。
それを分からないほど馬鹿では無いはずだ。
現に段々と真っ青になっていくフォード男爵の顔は中々に愉快だ。
その隣で「私は関係ないわ! 私は無実よ! 一切の関わりはないのよ!」と叫んでるアリー嬢は期待を込めて兄の名前を叫ぶ。
「私は騙されたのよ! 私は被害者だわ!」
「国家転覆を目論見、そのために兄上に近付き、ハニートラップを実行した人を被害者だとは思えませんが」
「違うのよ! 私じゃないわ! 全てお父様がやったことで、私は関係ないわ!」
醜く喚くアリーの言葉にフォード男爵は声を荒らげた。
「なっ!? お前が全て上手くいくと言ったからそれにかけたんじゃないか! なのに失敗しやがって! このクソが! お前なんぞ引き取らなければ良かった! お前さえ居なければ私は順調に爵位をあげて行ったのに!」
痴態でしかなかった。お互いに責任の押し付け合い。見るに堪えないあまりにも醜い争い。
「コリアン様! コリアン様なら分かってくれるわよね!!」
大きな目をうるうると潤ませ自分はか弱い令嬢なんだという主張をする。
「アリー・フォード男爵令嬢とエイプルトン・フォード男爵。オレア王国第1王子コリアンダー・アルベキーナ・オレアの権限に基き両者ともに処刑を言い渡す!」
「なっ──」
「どうして!? 私は被害者なのよ!? コリアン様!どうして!! 愛を育んだのに!?」
僕は少し驚いた。馬鹿だと思ってた兄はきっとアリー嬢との婚約を発表するのだろうと。まさか処刑を言い渡すとは。思ってみなかったことだ。だが、これで僕は安心して兄上の臣下に下れるだろう。
「アリー嬢。君は勘違いしているだけだ。俺は一言もお前を愛しているなどと言った覚えはない」
「でも!!! 2人の将来のためにって! わたくしをずっと見ていたいって! もっとわたくしのことを知りたいと! 言ったじゃないですか!!」
兄はゾッとするほど冷えた眼差しでアリー嬢を射抜く。
ひっと小さく悲鳴を上げたのはアリー嬢だった。小刻みに震え、小動物のように狩られる獲物のように顔を真っ青にした。
「あぁ、確かに言ったな。監視するためにずっと見ていたかったと。アリー嬢の口から不正の証言が聞きたくてもっと君のことを知りたいとも言ったな。あぁ、そうそう。フォード男爵の不正が大きく君がその不正を知っているかどうかの確認のために聞いたんだった。君たち2人が断罪される将来のために必要なことだったな」
その言葉にハッとして僕は記憶を思い返す。確かに兄は直接的な言葉を言っていなかった。勘違いするギリギリの言葉を兄はあえて言っていたのだ。一体どこまで計算尽くされていたんだ。僕がこの場でフォード家を断罪するのも計算に入っていたのだろうか。入っていたのだろう。でなければあの言葉をすらっと出てこない。
「そんな…っ」
苦しげに呟いたその言葉は小さく反響し不協和音を奏いた。
兵士の手によって2人は捉えられ牢屋へと連行される。
後日2人の処刑の日付を決めた。そしてフォード家の背後にいた全ての貴族を秘密裏に粛清し、その功績は全て僕の物となった。
実際は兄の功績だと言うのにフォード家を真っ先に摘発したのは僕だということで僕の手柄となってしまった。
たまたま廊下で兄上と対面したのでずっと疑問に思っていたことを問う。どこからどこまで計算尽くされていたのだろうか。僕の計算も含んでのあの行動だったとするのなら兄の目的は一体なにか。
「兄上は一体どこまで計算尽くしていたのですか」
「おぉ、我が弟よ! ちょうど陛下から呼ばれているところだったんだ。一緒に行こうじゃないかッ!」
おどけたようなお調子者。知性の感じられない出涸らし王子のような対応。
今ではこれを演技だと断言出来るが知らない人から見れば操りやすい相手と思うのだろう。
本来とは真逆だ。一つ一つの動作は洗練されていて、全てが計算尽くされているのだ。
玉座の間までの道程、兄を注意深く観察したが演技だと分かっていないと中々見抜けない。知らないと見抜けないだろう。
「第1王子コリアンダー・アルベキーナ・オレア」
「第2王子クライスト・レッチーノ・オレアです」
兵士に告げると扉が開かれ、玉座の間へ足を踏み入れる。
そこには文官と宰相、国王陛下のみが居た。文官の格好をした人が数人居るためなんらかの公的な記録がこれから記されるのだろう。
「両者とも面を上げて良い」
にっこりとどこか悪戯っ子のような笑みを浮かべる父──国王陛下。
なんだか嫌な予感がすると第六感が騒ぎ始めた。今日はきっと最悪な日になる。ただの直感でしか無いが、なんとなくそうなる気がするのだ。
「これより両者のどちらかを王太子として任命する」
ポーカーフェイスを保ちながら兄上になれ!と心の中で繰り返し祈る。
だがこういう時の直感というものは当たりやすいものだ。
文官が僕と兄上の功績を述べていく。
僕はフォード家を摘発したことにより国民からの支持が高く、また貴族からの信頼も寄せられた。特にフォード家に虐げられていた国民は僕を強く推しているそうで感謝状などが多数寄せられているとのこと。
反対に兄上はアリー嬢に現を抜かした王子として対面が悪く、また僕が兄上の過ちを止めたことで兄上思いの弟として評価が上がってしまった。
これらの評価、それから評判を垣間見ても王として相応しいのは第2王子の方だということがこの場には居ない各貴族からの書状が複数存在した。
「これらの評価により私は──第2王子クライスト・レッチーノ・オレアを王太子として任命する」
事実上次期国王が確定した瞬間だった。
引き攣った笑みを浮かべながら表面的には喜び、今よりも精進することを述べた。
各解散したあと兄上と父を捕まえ、問い詰めた。
「何故僕が王太子なんですか!? 兄上の方が相応しいでしょう!? あの出来事はほぼ兄上が行ったことで僕はお零れを貰っただけにすぎません!!」
「そう言えばクライスト。さっきどこまでが計算尽くしているのか聞いてたよな?」
ニコニコしながら先程の問いを今答えやると兄が言った。
この状況でその言葉が出てくるなど最悪でしかない。セインの馬鹿王子だったら察することは無理だったかもしれないが僕はそこまで馬鹿ではない。
「お前が王太子に、次期国王になるために全部計算尽くしんだぜ? いやぁー上手くいって良かった良かった。じゃ国王は任せたぜ弟よ!」
そう言って去っていく兄の背中を見て深い溜息を吐いた。
そんな僕の肩をぽんと叩き励ますのは実の父親で現国王。
「まあまあ、気を落とすな。国王も悪くないぞ」
「嫌です。絶対に嫌なんですが!僕は臣下くらいが丁度いいのにはずなのに……!! だいたいなぜ僕が王太子なんですか!? 兄上が第1王子なのだから普通に兄上でしょう!?」
「正妃の子であるお前は王位継承権第1位だろうに…。まあどちらにせよクライストは王位を継ぐしか道はなかったのだよ…」
「あ、兄上がいます…僕じゃなくとも」
「女神様がクライストを王にせよと仰っておるから他の道はそもそも存在しなかったのだ。あとはどう貴族たちに納得させるかだけだった。それも見事成功し、民衆からも信頼を得た。これで王にならないとなったらそれこそ民が憤るし、そうならないようコリアンダーが動くだろう。ま、頑張れ」
女神様からの神託ということに絶句し、元から他に道がないと断言され憤り通り越して呆然としてしまった。
後日、僕の護衛騎士であるフェンネルが実は兄上の影であり、ずっと僕を王太子にするよう差し向けていたことが明らかとなった。
元より王太子になる以外の道が本当になかったことを知り、どこかの国へ亡命しようと動くがいち早くその行動に気付いたフェンネルによって阻止されてしまった。
数日後国全体に向けて第2王子の僕が王太子に決まったことが知らされた。
国民は王太子になった僕を祝福し、賢王となることが期待され確定された。逃げ場が|無くなった瞬間だ。
◇◆
「初めまして私はネレイス・ブランショ。ブランショ公爵令嬢です」
「初めまして僕はクライスト・レッチーノ・オレア」
ストロベリーブロンドヘアを靡かせて優雅なカーテシーをするブランショ公爵令嬢。
「以前から密かにお慕いしておりました。これからもお慕いし致しますのでどうか末永くよろしくお願いします」
ネレイス・ブランショ公爵令嬢は本来であれば兄の婚約者だった。物語で悪役令嬢として仕立てあげられ兄に婚約破棄され、傷物にされる女の子。
一体兄は何を考えているのだろうか。吐きたくなる溜息をグッと抑え、色々と突っ込みたくなる現象を1つずつ押さえていこうと決めるのだった。
お慕いしていたという告白は後回しにまずはソレを指摘しなければ。
「ところで以前お見かけした時は確かプラチナブロンドだった気が……?」
「はい、その通りでございます。以前、殿下がストロベリーブロンドヘアの女性がお好きだと聞いたのでそのようにしてみました」
「違うよ!?!?」
兄の策略に見事ハマってしまった僕はこれから王太子としての生活とネレイス嬢との恋の予感が待っていたのだった。