□旅立ち
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□旅立ち
計画は立てた。惰性こそがスライムを縛っていたのだ。窮地に立たされた今、全ての事を一人でやる必要があり、今までそこにあった食事や寝床には改めて感謝を感じるが、冒険への渇望が勝った。
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スライムは遺跡の地下にあった宝箱から宝石を見つけた。魔力を感じたので取り込んでみる。うむ、力が湧いてくる。
passiveスキル獲得:雷耐性[rank.D+]
精神力のパラメータを底上げし、雷攻撃への耐性を大きく強化する。
activeスキル獲得:雷の槍[rank.D]
雷の魔法攻撃を放つ。その一撃は槍の突きのように、重く鋭い。
素晴らしい成果だった。なんでこんな便利なもんを皆して隠していたのやら。秘蔵しといたって、死んじまったらもう使えないだろうに。
雷の槍はとにかく便利だ。何せ初の攻撃スキルだ。これでゴブリンやウルフ程度なら一人でどうとでもなろう。
酸吐きは器官から吐き戻した毒液を射出していただけで、実の所、スキルによる攻撃ではなかった。だからかなり弱かったんだ。
どういう事かって?その辺の大きな石ころを投げ飛ばしたって、低級の土属性魔法と見た目だけは変わらないんだ。しかし、スキル攻撃には魔力が伴う。魔力を使った攻撃には守備力があっても意味がなく、精神力が強くないと防げないのだ。
いかに堅牢そうな石のゴーレムを、大きなホブゴブリンが殴っても倒せはしない。ゴーレムの守備力がホブゴブリンの攻撃力を上回るからだ。しかし、守備力の強い者は大半、精神力が弱い。そうした者には特に、スキルによる攻撃が有効になってくるのだ。
もっとも、スライムやゴブリンのようなド低級な魔物は、守備力も精神力も関係ないくらい弱いのだが。
そら、魔物が現れた。魔法の炎を操る小さな魔女っ子みたいな形の化け物。レッサーウィッチ、二匹だ。先制の火炎攻撃が来るので、胃液を吹き掛けて消す。とりあえず相殺したが、胃液はスキルじゃない。無限にあるもんじゃないんだ。
見逃してはくれそうにないから、そうそうにけりをつけよう。activeスキル【幻覚の霧】発動。rankはE-だが、少しは効いたらしい。こいつらもスライムほどではないが、低級のモンスターだしなぁ。
activeスキル【雷の槍】発動。一匹消し飛んだ。すまないね。生きる為なんだ。霧を振り払い、もう一匹がスライムに迫る。雷と炎を打ち合う内に、レッサーウィッチが激昂する。
敏捷性が上がっている。早い、やられる。
とうとう火炎がスライムに被弾し、レッサーウィッチはそれを見下ろすように空中に静止して、指をさしてきゃはきゃはと大はしゃぎだ。
activeスキル【雷の槍】発動。
ずばん。火だるまの中から雷が走り、レッサーウィッチを消し飛ばした。
このスライムに限り、精神力の高さ、すなわち魔法スキルへの抵抗力は他の個体より凄まじいものがある。だから敢えて受けたのだ。スキルによる火炎を。いやしかし、熱かった。完全に無力化とは行かないみたいだ。今のがレッサーワイバーンの火炎なら、消し飛んでいたのはスライムの方だったろう。
passiveスキル獲得:火炎耐性[rank.E-]
精神力のパラメータを底上げし、火炎攻撃への耐性を大きく強化する。
よし。また強くなれたみたいだ。
スライムは無事に遺跡を後にし、とりあえずこの故郷である大きな森を出る事から、始めてみる事にした。