初仕事④
百人の人間がいれば百通りの答えが出るわ。おかしいともおかしくないともいえる。だったら自分が正しいと思うようにすればいいんじゃないの。他人からなんといわれようともね」
エリンは子供とは思えぬ大人の答えをだす。
もし、こういう内乱がなければいずれ人々を導く存在になるはずだった。その資質はすでに備わっていたのであろう。
クボタはおかしくないと答えてほしかったからそんな答えがかえってきてなんとも言い様のない気持ちになる。
「それよりもこれ、片付けないと」
街道脇に横たわるワイバーンの死体、このまま放置すると邪魔にしかならない。
「もちろん持って帰るさ。依頼完了の証明にもなるし」
そう言うと素早く空間収納で仕舞い込む。
「格闘家だと聞いていたけど魔法使いだったとは。テイマーなみに従獣も使うし、この人とパーティー組んだらけっこう稼げそうだね」
正気を取り戻したリーシュはレーンを見ながらそう言う。
「いや俺は格闘家だよ。昨日から魔法が使えるようになったばかりだ」
「昨日からって。初心者がこんな魔法使えるわけないでしょうが」
「まあ、頼れる相棒のおかげで使えるだけなんだけど」
「ちょっと!!あんたなに言ってるのよ」
頭のなかにエレノアの怒りの叫ぶが響く。
「なに、べらべらと素性をばらすようなこと話そうとするの。私が実体化しないことの意味がなくなっちゃうでしょうが。たまたま悪意のない人達だからよかったもののあんた迂闊すぎるのよ。悪人だったらろくな目に会わないわよ。おまけにこんなに魔力ぶちまけて」
調子にのって魔法使わせたのはお前だろうが、とクボタは反論したかったが火に油を注ぐような結果しか想像できなかったのでただ黙って怒られていた。チコちゃんに叱られないだけの知識は持っていても普段温厚な妖精に思い切り叱られているクボタであった。
エレノアの怒りはクボタの頭の中でだけで響いているのでエレノアの存在に気付かないリーシュ達三人は何が起こっているのか理解できないでいる。エレノアの姿が見えているエリンはまさしくその通りと迂闊すぎる言動をしたクボタを「あんたバカァ」とばかりに軽蔑の眼差しを向けるのだった。
考えてみれば当然のことである。生き馬の目を抜くようなこの世界で自分の身の上を晒すことは避けるべきなのだ。それがわからなかったクボタはやはり迂闊すぎた。
クボタは聖女が指摘したとおり精神面に問題があるようだ。仲間に叱責されたことによりかなりへこんでいた。江戸川の黒い鳥をそのまま大きくしたような形状をしているグーリーとフォーリーにも『バカー』とか言われないかと心配していたが二羽は誰にでも失敗はあるさとばかりにクボタに優しく寄り添うのだった。
心に受けた傷は癒えたようでクボタは次の行動に移る。すぐにへこんでしまう弱い精神の持ち主だが立ち直るのも早いようだ。
「さて、あいつらのほうはどうなっているのかな。現場まで乗せてってくれないか」
一方その頃
「こいつらのお守もりなんてするんじゃなかった」
「いや、全く。こんなに役立たずだとは思わなかった」
サーヤとマヤとともにゴブリン退治を申し付けられたフェンリル二頭は思わぬ苦戦を強いられていた。いや、フェンリルだけなら簡単な仕事であっただろう。初心者冒険者向けの最初の課題ともいえるゴブリン退治、ゴブリン自体はそんなに強いものではない。問題なのはその数である。ゴブリン自身も自分が弱いとわかっているので決して一対一では戦わない。それゆえ、フェンリル達はゴブリンの群れに斬り込んで分断させて、一対一の状況を作り出してサーヤとマヤに戦ってもらおうとしていたのだがこの二人はそれでも苦戦していた。
この二人、全く実戦経験がなかったのである。
口振りからそこそこやれるだろうと判断したクボタの完全な誤りである。
フェンリル達にとっては完全に重荷でしかない。倒しても倒しても一向に数の減らないゴブリンと役に立たない二人を守りながら戦うのはいかにフェンリルとはいえなかなかに大変である。
「兄貴よ、早く来てくれ」
フェンリル達思わずは叫びにも似た咆哮をあげる。するとはるか上空から二羽のグリフォンが現れる。ゴブリンの群れがいる上空に差し掛かるとグリフォンからクボタが大きな光を伴って降りてくる。着地した瞬間とてつもない衝撃とはいえ大音響があたり一体に響き渡る。その衝撃で回りにいたゴブリン達は吹き飛ばされて消滅する。
土煙が消えて姿を現したクボタが名乗りを挙げる。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャーン」




