一悶着
「だんだん人数が増えていくのは決して気のせいではありませんよね」
口調は穏やかではあったが明らかにシスターデルマは怒っていた。
「勘違いされているかもしれませんからいっておきますがここは教会です。決して休憩所でも宿屋でもありませんから」
確かにここは教会である。神に祈りを捧げる場所であり、迷える子羊を助ける場所である。
「いや、勘違いしているわけではないんだけどね。聖女がいるんだしその護衛ということで納得してもらえないだろうか」
クボタはシスターデルマをなだめようとするがあまり効果はない。
「誰が面倒を見ると思っているんですか? 確かに聖女様がいるのはありがたいですがだからといって喜ばしい事ばかりではないんですよ。タダで運営できるわけではないのですよ」
そんなやり取りをしていると入り口の辺りで大きな音がした。何事かとシスターデルマが入り口の扉を開ける。
シスターデルマの目の前に巨大な牛が横たわっており、その横でフェンリルとグリフォンがいて、その牛を差し出すような仕草をしていた。
「これを寄贈するということですか?」
シスターデルマがそう問うとフェンリルは頷くような動きをした。
「一宿一飯の恩義に報いるため、どうぞお納めください。グリフォン、お嬢、その他ともどもこれからもよしなに願います」
と言っているように感じた。
「獣であるあなた方がこのような気遣いをなされるとは、歓喜に堪えません。どうぞごゆっくりなさってください」
とシスターデルマは態度を軟化させる。
「なるほどそういうことか」とクボタは思った。おもむろにシスターデルマに近づき、その両手をつかみ、満面の笑みを浮かべてその目を見つめる。
長らく男子禁制の生活をしていたシスターデルマにとって男にこんな態度をとられたら何もできなくしまう。
(あっ、こいつチョロインだ)
そう感じたクボタではあったが一枚金貨を取り出し握らせる。
「何をしているのです。ここは宿屋ではないと…」
間髪入れずにもう一枚握らせる。
「だから宿屋ではないと…」
仕方ないなともう一枚握らせる。
「どうぞごゆっくりお過ごしください」
完全に堕ちた。
「エリンよ、よく見ておけ。あれが大人の汚いやり口というものだ」
そう語る大賢者の横でエリンは大人の汚さを知ったのだった。