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役に立たない使命感②

「説明してもらおうか」

自分の身の丈に合わない力を得てしまったことに動揺していたクボタではあったが仮とはいえ自分の娘となったエリンを危険にさらした聖女に対し怒気を含めた口調で問い詰める。

「そのね、エリンちゃんを励まそうと思って」

クボタの怒気にあてられてしどもどろになりながらも聖女は説明する。

苦しみや悲しみなどから人々を解放し、癒すのが聖女の使命、だからエリンを

癒す為にやったことだと。

だが、よかれと思った行為が結果としてこうなった。どこまでも残念な女である。

当の本人は空中散歩を大いに楽しんだようである。私は大丈夫だからとクボタを止めに入るエリン感謝する聖女だったが、ここで気づくべきだったのだ。エリンぐらいの少女が危険な目にあってもこんな落ち着いた態度をとれる理由を。クボタも聖女も、大賢者すらエリンがどこにでもいる普通の少女だと思い違いをしていたのだ。

「すごいじゃない。爆裂魔法なんてそう簡単に使えるものじゃないのに」

自分が頼りにする男が新しい力を得たことを素直に喜ぶエリンは

「妖精さん、ありがとうね。これからもよろしく」

魔力のない人間には見えない妖精をはっきり認識した。

「あなた私が見えるの?魔力がないあなたが何故?」

不思議に思った妖精に対し

「見えるも何もヤストの周りにもいっぱいいる。その子たちも妖精でしょ」

そう答えるエリンに妖精は

「確かにいっぱいいる。だけどあれは精霊。厳密にいえば妖精と精霊は別物、私とは違う存在なのよ」

そういう会話を聞いているクボタは先ほどから不思議な感覚にとらわれていた。心配しなくていい、何かあれば力を貸す、自分の思うように使えばいい。精霊たちにそう言われているような気がしていた。

「どうしたクボタ」

クボタのそういう気持ちに気づいた大賢者が声をかける。

「なあ、婆さん。俺はどうすればいい」

クボタの問いに

「オヌシは精神に問題がありそうじゃ。ちょっとばかし鍛える必要があるな。ワシが今いえるのは己の弱さに向き合えということじゃ。あの子の未来の為にオヌシがやるべきことをやれるようにワシが必要なことを教えてやる」

想像していたのと違う答えに戸惑うクボタであったがエリンの幸せを考えるならやれることはやっておこうと思うのだった。


「ねえ、あなた名前は?」

「妖精なんて勝手に生まれて、勝手に消えていくもの。名前なんてないわ。名前なんて個体識別のための単なる符号でしかないもの」

「じゃあ付けてあげる。エレノアなんてどう?」

「それでいいわ」

「じゃあ決まりね」

いつも間にか仲良しになったエリンとエレノアと名付けなれた妖精の会話を聞いた大人たちはなんだか穏やかな気持ちになっていく。

「さて帰るか、シスターデルマが待っている」

大賢者の言葉に一同はうなづき家路を急ぐ。


何かが追いかけてくる気配を感じた大賢者とクボタは後ろを振り返る。それを見た聖女とエリンも振り返ると見覚えのある人組の女性がいた。

「エリン様ご無事でなりよりです」

そう声をかけた二人組であったがエリンはあえて無視し、何事もなかったように帰ろうとする。

「エリン、知り合いか?」

クボタの問いに対して

「知らない人」

と答えたきりそれ以上しゃべろうとしなかった。

エリンが嘘をついていたのはわかっていたクボタであったが何か事情があるのだろうと考え、それ以上は何も聞かなかった。

「エリン様、お待ちください」

それでも二人組は執拗につきまとう。

「知らないと言っているだろう。これ以上つきまとうなら実力行使にでるぞ」

クボタはそう脅すが二人はなお食い下がる。

「我らは決して怪しいものではない。エリン様にお目通りを願いたいだけだ」

おそらくは王室の関係者なのだろうとクボタは推測した。関わらないでと目で訴えるエリンをを抱き抱えながら

「本人が関わりたくないと言っている。早急に立ち去ってもらいたい」

と二人に告げる。

何も知らないクボタにとっては王室関係者だとしても敵か味方かわからない今の段階ではエリンのこの対応は賢明な判断のように思われた。

たが、この対応に納得できない二人はさらに食い下がる。

「失礼だが貴殿は何者だ。エリン様とずいぶん親しげだがそのお方がどういうお方かわかっているのか」

「人にものを尋ねるなら自分から名乗るべきではないのか?俺には名乗る価値すらないというのか」

少し芝居を入れた怒気を含んだ口調でクボタは告げるがこれが効果的だったようで二人は態度を改める。

「これは失礼を。我らはエリン様に護衛としてお仕えしている者、私がサーヤ、そちらにいるのが妹のマヤと申す」

正式に名乗った二人に対しクボタは態度を軟化させ、こう告げる。

「していた、ではなくしているか。あなた方はまだそのつもりかもしれないが今は俺がその役目をしている。悪いがあなた方はもうお役ご免といったところかな」

「何を言うのか。そんな事認められるか。エリン様がそんな事おっしゃる訳がない」

「言うよ。マヤにサーヤ、あなた方はもう要りません。役に立たない護衛など必要ありません。これでいいですか」

やり取りを黙って見ていたエリンだったが我慢できなくなって声を挙げる。

「嘘だ、冗談だとおっしゃってください。我らは誠心誠意お仕えしてきました。何故そんな事をおっしゃっるのですか」

エリンに直接そう言われて二人は相当ショックを受けた。

「今、私のそばには二頭のフェンリル、ロネにネルがいる。加えて聖女様に大賢者様にこのヤストがいる。役立たずのあなた方が入る余地などありません」

エリンはさらに追い打ちする。

立ち直れないぐらいショックを受けた二人に対し聖女は助け船を出す。

「この人たち味方なんだよね。だったら引き入れてもいんじゃない。味方は多い方がいいし」

「さすがは聖女様、我らにご慈悲をかけていただけるとは。これからはなお一層忠誠を誓わせていただきます」

エリンから解雇を告げられたサーヤとマヤであったがその場で聖女の護衛に再就職したのだった。

「ワシが聖女の護衛だったはず。まあいいか、ほかにやることができたし」

大賢者のその呟きはだれの耳にも入らなかった。


一同は忘れていた。面倒を見る人数が増えることによってシスターデルマの負担がさらに増えることに、一人だけ蚊帳の外に置かれたことによって彼女の逆鱗に触れたことに、とにもかくにもこうして長い一日が終わりを告げようとしていた。




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