新しい仲間
今回長めです
エリンはゆっくりと目を覚ました。思えばあの時以来ちゃんとした寝床で寝るのは初めてだった。でも、なぜここで寝ていたのか、エリンはついさっきまでの出来事を思い出す。
自分の目の前でクボタは急に苦しみだして意識を失った。大賢者は心配はないと言って魔法の力でもってクボタを寝室まで運ぶ。
エリンは心配だった。大賢者は大丈夫だと言ったが納得できなかった。そばにいたいと思った。クボタが目を覚ましたとき自分がそばにいれば安心するだろうから。
だけど不覚にもエリンはクボタが目を覚ます前に眠ってしまった。そしてエリンが目を覚ましたときクボタはいなかった。
エリンは悲しかった。置いてきぼりにされたと思ったから。頬を涙が伝う。そんな状況のなかで寝室に聖女が入ってくる。エリンはそこに母の面影を見る。
思わず叫ぶ。
「お母様」
驚いた聖女ではあったが何も言わず抱きついてきたエリンを受けとめ抱きしめる。本当はまだまだ甘えたい盛りの少女、だけどその役目を担う本当の母親はもうこの世にはいない。聖女はこの時だけはこの子の母親でありたいと思うのだった。
そんなことがあったとは知らないクボタは激怒していた。シスターデルマによる長時間による説教を受けた後、俺は悪くない、悪いのは大賢者のほうだと訴えてはみたものの、受け入れられるはずもなく、行き先を失った怒りを発散すべく、魔法をぶつける相手を探していた。
違和感を感じてふと上空を見上げると視界に入ってきたのは二匹のワイバーン
(「ワイバーン ドラゴンの亜種、ドラゴンではではあるが頭が悪く本能のままに行動する。聞く耳を持たず他のドラゴンからすれば迷惑な存在 補食対象になるので人類にとっても非常に迷惑」)
図鑑の説明が頭に入ってくるがえらいいわれようである。じゃあ仕留めても問題ないなと思った瞬間、魔法が発動、
「アイスジャベイン」
頭のなかでそう唱えると二本の氷でできた槍が飛んできて二匹のワイバーンの脳天を貫く。
(「その時々の状況、思考に合わせて最適な魔法を選択し自動で発動」)
脳内でそういう説明がなされる。
「すごいなこれ、俺の魔法はAI機能搭載か」と怒りを忘れて喜ぶクボタ
「そんなわけないでしよ、私の魔力をあなたの魔力に同調させて私が飛ばしたのよ、AI機能がなんなのか知らないけれど」
ボケられたらツッコミのが礼儀、だけど声の主を発見できない。
「ここよ、ここ、見下げてごらん」
ふと下を見るとちっちゃいオッサンではなく可愛らしい少女
思わず転けそうになるがちっちゃいオッサンではないのでここは我慢する
「とんでもない魔力を感じたからきてみればただの人間じゃない。試しに同調させてみればこんな結果に。あなた、本当に人間、何者なの」
失礼だな、その質問そっくりお返しするよ」
「あら、ごめんなさい。私はあなた方人間が妖精と呼ぶ存在。それでお分かりかしら」
「妖精ですか、それで俺が人間だと何か問題でも。それに魔力を同調させるとどういうことだ」
「質問に答える前に、あなた、私が妖精だって言っても驚かないのね。人間にとっては私達は希少な存在なはず」
「この世界、何でもありだからね。むしろ次は何が出てくるか楽しみだ」
「なら、上を見なさい。その次がきたわよ」
上空を見上げれば漆黒に彩られた大きな鳥が三羽、
(「グリフォン 神獣に分類される大型の鳥。人の言葉を話し、人類との意志疎通が可能。頭脳明晰で空気を読むことに長けている。地域によって神と崇めらたり畏敬な存在と認識されたりする」)
図鑑の解説はワイバーンと違って良い印象を持たせるようになっていた。
「そこの人間よ」
早速グリフォンから呼びかけられる。相手は神とも崇められる存在、慎重にいかなければ、とクボタは身を引き締める。
「人間よ、オヌシ本当に人間か」
「はい、ただの人間です」
「そんなわけあるか、そのとんでもない魔力、人間が持つものとは思えぬ」
(全くどいつもこいつも、俺が魔力持つのがそんなに気にいらんか)
そう思ったクボタではあったが口にはださない。
「この魔力は大賢者ソアルより授かったもの、グリフォン様といえどもあれこれ言われる筋はないと」
「なるほどそういうことか、これは失礼した。オヌシあの大賢者に相当気にいられたようだのう。それなら安心じゃな」
「??」
「詳しい話はそこの妖精に聞けばよかろう。話の腰を折ってしまったようじゃからのう」
「??」
「それではグリフォン様、ここから先は私が説明しますね。だいぶ混乱しているようだから」
「うむ、後は任せた」
そう言ってグリフォンは飛び去っていった。一羽だけで
「簡単に言うとこの子達の面倒を見ろってこと、この子達、一人立ちの時期なんだけどグリフォン様にしてみれば不安なのよ。ワイバーンがうようよしているし。この子達まだまだ戦えないの。あなたがワイバーンを倒したの見てあなたに託そうと思ったの」
「いやいやそれはあんたがやったんだろう」
「あなたの魔力がなければ倒せなかった。それに大賢者ソアルが後ろ楯になっているなら安心だし」
(グリフォンに全幅の信頼をおかれる大賢者って、あの婆さんどんだけすごいんだ)
「で、さっきの話の続き。魔力を同調させるって話。自動で発動というのは間違い。私が発動させたの。選択したのも私、でもそのもととなる魔力と魔法はあなたのもの、要はあなたのちからを私が制御したということ。あなた、自分の力なのにまともに制御できていないし、明らかに訓練不足ね」
「それは仕方ない。今日授かったところだし、とりあえず何かやっておこうかと思ってたんだけど」
「はぁ、もう頭痛くなってきた。授かったばかりでどうしてこんなにあふれるほどの魔力がでてくるのよ。あなた、本当になんなのよ」
妖精は半ばあきれたように吐き捨てた。
しかし、何か吹っ切れたように真剣な表情になり話を続ける。
「まあいいや、それでね、あなたのその魔力を制御するのに私が力を貸そうと思うの」
「というと」
「あなたにとりついて行動を共にするの、私達は魔力がないと存在できないの。だから魔力のない場所には行けないから行動範囲がかなり限られる。でもあなたにとりつけば常に魔力が供給されるからどこへでも行けるようになる。
心配はいらないわ。とりついても私の意思で離れられるから常にとりついてわけじゃないから」
妖精はそう言うとクボタの意識の中に自分自身をとりこませる。
「おい、俺の意思は無視か、まだなにも言ってないぞ」
「あなたに拒否権はないわ、私にとってはいいことづくめだし、貴方にとってもいいことだと思うの。これからよろしくね」
こうなってはもうどうしようもない。仕方がないので押し付けられたグリフォンの子供を引き連れ教会に戻るのだった
ちなみに撃墜したワイバーンは何かやらかさないかと心配して追いかけてきたフェンリル達がおいしくいだだいたとのこと。
こんなの食えるなら一生ついていきますぜと言わんばかりの表情だったとか。彼らはフェンリルとしてはまだ成長途上らしくワイバーンなど飛行できる魔物相手だと分が悪いらしい。
フェンリルいわく
飛行できるやつは嫌いだ