敗者の言い分③
「ご迷惑をお掛けしまして」
車椅子に乗せられた市長があらわれるとそこにいた者たちは歓喜の声をあげる。
「みんな、見てのとおりだ。市長は生きている。俺はこの人の命に従ったまでだ。市長を最高指揮官として任にあたる。それでいいか?」
「異議なし」
その場にいた者たちはそう返答する。
「カネダさんも、宰相も?」
「いまは、な。志を同じくする同志のまとめ役としてな」
回りくどい言い方ではあるが了承はえられたようだ。
「それでは早速」
「待ってくれ、今は顔出しだけにしてくれ。まだ任にあたるのはむりだ」
これからどうするのか市長の指示を仰ごうとしたクボタにグルージンがドクターストップをかける。
「本当は死んでいたんだ。三人がかりでリザクションかけてどうにかここまでしたんだ。これは奇跡だぜ」
グルージンの言葉にこの場にアルビーと聖女がいない事にクボタは初めて気づいた。
「もしかしてあの二人は…」
「心配しなくていい。ただ反動がきつすぎてな。いつ目覚めるか分からん。俺だって本当は何日か眠りたいだ。言うことは言ったからな。とりあえず後はまかせた」
そう言うとグルージンは市長が乗った車椅子を押して奥へと消えていく。
「のぞみは潰えたか…」
「あの二人に説得させようとでも思ったか」
カネダは呆れたように言った。
「もう諦めろ、所詮は敵だ」
「もう一度チャンスをくれ」
クボタは諦めない。
「いいけどさ、なぜこだわる」
「なんか腑に落ちない。あれはわざと死にがったているような気がする」
「なぜそう思う」
「理由なんてない。そう思っただけだ。じゃあ行ってくる」
クボタは再び説得を試みる。
「リシャールさん、あんたあえて死を望んでいるのはなんで? 理由を聞かせて」
クボタは疑問を率直にぶつけてみる。
「敵に捕縛された以上生きている価値はない。それだけのことだ」
「うそだね。本当は死にたくないんでしょう。部下のいる手前、去勢をはっているだけなんでしょう。本当の理由を話してくれないかな。力になれるかもしれない」
「そんなことはない」
頑な大度を崩さないリシャールに対してクボタは揺さぶりをかける。
「例えばさ、誰かが人質をとられているとかさ、弱みを握られているとか、なんか脅されているのか」
そう言いながらクボタはある程度のは確証を持った。部下の何人かの表情が明らかに変わっていた。
「もう楽になったら。助けられることなら助けるから」
クボタはたたみかける。
しかし、このあとはしばらく沈黙が続く。
クボタか言葉を発しようとしたとき
「言ってはいけません。我らに関わった者たちや親類が人質にとられているなんて」
それをいった兵士はおそらく自分が思っていることが声に出ているとは思っていなかったのだろう。だがクボタの耳にはしっかりと届いていた。