敗者の言い分②
「どういうことだ。臆病者と罵られるのがわかっていてわざと逃げたって」
疑問を口にする面々に向かってクボタは言う。
「それが王の命令だからさ。王の命令なら逆らえない。カネダさん、あんたらならこれが何を意味しているからわかるよね」
「ああ、わかる。おそらく戦力を温存したかったんだろう。自慢の戦力をできるだけ傷つけられないように逃したんだ。あとから援軍として外から駆けつけられるように」
カネダはそう説明した。
「でも、それじゃあ……」
「大丈夫だ。王が殺されることはない。王自らが王位の禅譲をしないと継承は認められない。まあ色々と脅かされはするだろうが。問題は精神がどれだけ持つかだけど」
「それは大丈夫、姑息な脅しに屈するほどあの人は弱くない。神経だけは図太いから」
自らの疑問に答えたカネダにエリンはそう告げた。父とは呼ばないあたりエリンはかなり王を嫌っているようだった。しかし、
「臆病者だと罵ってごめんなさい。あなたもさぞかし心苦しかったでしょう。あのひとのためにあなたが……」
「姫様、あなたのような立場の方がそう簡単に家臣に頭を下げてはいけません。主君の命とあればいかなる罵詈雑言も受けましょう」
「アヴェイン宰相……」
誤解がとけ、エリンとアヴェインは和解した。
「さて、一つ片付いた。あとはあれをどうにかできないかな。味方は多いほどいい」
「わかっている。だが難しい。何であんなに頑ななんだろうな」
「それでもどうにかしてほしい」
クボタはカネダにリシャールの説得を頼んだがカネダは難色を示す。
「交渉なんてむだだ。あの方は我々を助ける気などまったくない。さっさと殺して首でも届けたらどうだ」
「そんなことしないよ。クッコロさんは殺してはいけないのは当然でしょう。ねぇカネダさん」
「そうだったけ?」
「ちがうの?」
「なんとも言えんな。大概の場合は助けるが、お望みの通り死なせてやる場合もある。味方にできない以上望みを叶えるしかないだろう。大体そんなルールは存在しない」
諦めの表情でるカネダはそう言う。
「そうだ。こいつらは仇だ。生かしておく理由などない」
周りからもそんな声をがあがりだす。
「どうするか、お前が決めろ。指揮官だろ」
「待ってくれ。指揮官は俺じゃない」
「今更何を言っている。人を殺すことに怖気づいたか。散々殺してきただろうに」
「無抵抗なやつを殺したことはない。それに本当に指揮官は俺じゃない」
クボタはそう言ってある方向を見つめる。そしてそっと呟く。
「よかった。助かったんだ」