戦いは数にあらず②
「どうした? たった一人を相手に何を怯んでいる。さっさとかかってきたらどうだ」
クボタはリシャールを挑発する。リシャールの後方で苛ついている配下の者を目に入れながらクボタはさらに続ける。
「当代きっての智将が聞いてあきれる。人間一人を相手にするのに躊躇するかね」
「貴様! 我が主を侮辱するか! 我慢できん。覚悟しろ」
配下の一人が耐えかねてリシャールの制止を振り切りクボタに斬りかかる。だがクボタは動かない。
「所詮は口だけか。ビビって動けないとはなぁ」
嘲る配下が繰り出す剣先をクボタは微笑を浮かべながら見つめる。
「貴様! なぜ笑ってられる。なんだその余裕は?」
配下は一瞬戸惑った。その瞬間をクボタは見逃さなかった。
繰り出された剣を両手で挟み込むように掴むとそのまま体の側面に移動させる。体制を崩した配下はその勢いに負けて倒れ込む。
「結構うまくいったね。できるもんだね」
倒れ込んできた配下の顔面にヤクザキックをぶち込みながらクボタは呟いた。
「と、いうわけだ。あんたらは敵ではないということがわかっただろ。さっさとこっちの軍門に降りな」
「何をしたんだ。貴殿は一体……、その余裕はそういうことか」
リシャールは先程の光景を見ていろいろと考え出す。
「すごいよヤスト、あんなことできるんだ」
「真剣白刃取りって技でね。まあ、余興でやったことはあったんけど、思った以上にうまくいった。おかげで予想以上の効果が出てきたね」
「どういうこと? 考えがわからないよ」
クボタの考えが理解できないことをエリンは素直に口にする。
「あのリシャールとかいう武将がただの脳筋なら今頃乱戦になっていただろう。だが智将というから色々と考えをめぐらしてむやみに戦わないだろうと思ったんだ。結果そのとおりになった。そして想定外のことが起こった。相手は焦ってくるわけだ。ということはな、普段できることができなくなる。ここまでは解るな」
「でもさ、リシャールはそう簡単にそうはならないし戸惑ったりはしないと思う。賢いし経験もあるし」
「賢いやつほど理解できない状況に陥るとかえって混乱するもんだ。余計な事を考えるからね」
「そういうもんなの」
「そういうものだ。見ろ、あれはどうしていいかわからなくなっているぞ。時間も稼げたしたたみかけるとするか」
エリンとの会話を一旦打ち切りクボタは合図を出す。
突如上空からグリフォンが二羽現れリシャールの軍勢がいる上空を旋回し始める。
「グリフォンだと、なぜここに?」
「俺らに味方してくれてんだよ。それがどういうことかわかるか? 神獣は常に正義、あんたらは朝敵なんだよ」
「そういうことか。我らはもう……」
「わかっただろう。今からでも遅くないから」
「いや、それでも我らは」
「なんでだよ。こんなの無意味だろうが。仕方ない。じゃあ戦うか、リシャールさん。ただし一対一でだ」