戦いは数にあらず
「新手だと」
一報を聞いたアヴェインは迎撃体制を整えようとする。
「行くのか?」
大賢者の問にアヴェインは答える。
「今戦えるのは我々だけです。しかも相手はあのリシャール。並の武将では相手にならない」
そんなに凄いやつなのか?」
「当代きっての智将といわれた武将、あなたのような臆病者が勝てるわけない。また逃げ出す気でしょう」
優秀な武将と聞いて思わず身を乗り出したクボタの問に答えたのは呼び出しに応じてこの場にやってきたエリンだった。
「あなたのような臆病者でもここでは必要な人材。傷つくのを見ておれません」
「エリン、なんか策があるのか?」
「私がこういうのを見越して色々と考えついるんでしょ。今さら前線に出でるのを怖がっているとでも?」
「エリンさ、なにか勘違いしていないか? まあいいか。それは後で話そう。そうさ、策はある」
「待て、王女様を前に出すのか。そんなことが許されるとでも」
「許すも何も。本人が出ると言っているんだ。それにすでに実戦経験済みだからな。そのへんの新兵よりよっぽど役に立つ」
「だからといって……」
「とりあえずここは俺らのやり方を見といてくれたらいい。相手が智将というなら必ず引っかかる。まて、これは孔明の罠だってね」
「しかし……」
「こういうことじゃ、ここは任せておけ」
大賢者のとりなしもあってアヴェインは引き下がった。
「さあ行こうか」
クボタとエリンはフェンリルとグリフォンを引き連れ出陣していく。
「さて、このまま攻めるべきか。城攻めには人が少なすぎる」
「何をおっしゃいますか? 今こそ攻めるべきです」
「空から降りてきた奴らはどうしている。奴らのことは我々は何も知らないのだぞ」
「斥候の報告によると街の連中は完全に武装解除しているようです。今なら戦闘にならずに制圧できます」
「そうか、できれば戦闘は避けたい。急ごう。相手のたいせいが整う前にやるぞ」
リシャールの号令のもと街に突入を開始しようとしたとき
「ちょっと待ってもらおうか」
その声に慌ててリシャールは突入を止める。
「何者だ」
「俺が何者かは関係ない。この少女に見覚えがあるだろう」
「少女だと? ああ、あれは」
リシャールは下馬してひざまつく。
「エリン王女でございますか。ご無礼をお許しください」
「久しぶりですね。リシャール。貴方のような人があのようなものに味方するとはどういう了見ですか。自身の行ないを恥じるのであれば今からでも遅くありません。我が方に下りなさい。さもなければ……」
「それはできません。王女様こそこちらへ参られたらいかがでしょうか」
「……」
「仕方ありませんな。皆のもの。此奴は王女様を語る不届き者だ。即刻捕まえろ」
捕縛しようと近寄る軍勢を遮るようにクボタが立ちふさがる。
「我々と一戦交える気が? たった一人で何ができる。さっさとどけ」
「戦いは数だと誰かは言っていたけどな。かのレオニダスは300人で1万の兵と戦ったんだ。それに比べれば」
「なんだと言うんだ、その余裕は」
「さあな、考えてみな」
クボタの余裕をみてリシャールは
「待て、何かの罠かもしれん」
その言葉を聞いたクボタは勝ちを確信する。
「掛かった。これからは俺のターンだ」