まだ戦いは終わらない
「宰相って言いましたか? そう聞こえましたが」
「聞こえなかったのかな、そう申したはずだが」
クボタはその場にいた役人に伝言を頼む。
「エリンに伝えてくれ。宰相がここまでやって来た。どうするかはまかせるが一回は会ってくれと」
役人は直ちにそれを実行すべく走り去っていく。その様子を見た宰相は取り次ぎに行ったものだと思った。だが
「宰相殿、ワシを覚えておるかの。さっきの様子だと全く気づいておらんようじゃの」
大賢者にそう言われて宰相はハッと思い出した。
「重ね重ね申し訳ない。まさか大賢者殿がここにおられるとすは思いもよらなかった。しかし何故ここに?」
「状況を見てわからんか? こうなるとわかっていたからじゃ。ただ事態は予想を越えていたがの」
「そうですか。ところでこちらの御仁は?」
「国を取り戻すための切り札じゃ。オヌシも聞いておるじゃろう。この男がゼニューマを陥落させたんじゃ」
「おお、あなたが。噂には聞いていたがこうして見ると普通の男にしか見えないが……」
「戦闘中ではないからな。普段はただの一般人を装っているからさ」
会話に割り込んできたのはレジスタンスのリーダー、カネダ。
「ああ、カネダさん、あなたがあれを?」
「そうだ、まさかワイバーンを調教して空から空挺部隊を降ろすなんてこっちじゃ考えられないだろう。初陣にしてはうまくいった。恩を返したとは言わないがな」
「犠牲者が多すぎる。もっとスマートにやれないものか」
「その辺りは検討課題だな。他にも色々と研究成果が上がってきている。そのうちに実戦投入できるだろう。そうなればこんな戦いさっさと終わる。これ以上の犠牲はこっちも望んでいない」
宰相をほったらかしにしてクボタはカネダは話し込む。
「あっ、そうだ。こんな現況をつくったやつを捕まえた。煮るなり焼くなり好きにしてくれたらいい」
カネダが側にいた部下を促すと部下は拘束したある人物を引きずり出してきた。
その人物を見てクボタは驚愕した。
「あんた、何をしたんだ?」
「こいつはエリンだったっけ。あの子の所在をばらしやがった。だからここにあいつらが来たんだ。いわば元凶だ」
「あんた、スパイだったのか。すべては俺たちを騙すための芝居だったてわけか。なあ、シスターデルマ、許可は出てるんだ。どうなるかわかるよな」
シスターデルマは何も言わず黙ったままで無表情のままであった。これからの展開を想定して覚悟を決めたようであった。
「ふん、殊勝なことで。だがあんたの想いには応えられんな」
クボタはそう言うなりシスターデルマの顔面に渾身の右ストレートをぶちこむ。そのパンチをまともに受けたシスターデルマは悲鳴をあげることもできず顔を構成していた各部位を破壊された無惨な姿をさらしていた。
「その格好で生きていけばいい。簡単には死なせないからな」
クボタはいい放つ。
「いいのかそれで?」
「あの顔は一生あのままだよ。人々の奇異にさらされて生きていけばいいさ。ある意味死ぬよりつらい」
一発なぐっただけで済ましたクボタに疑問をぶつけるカネダにクボタはそう答えた。
「なるほど、そうかもしれんな」
納得するカネダだった。
そんなやりとりが続くなか町の外を見張っていた見張りから急報が入る。
「新手です。その数およそ300」