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救われない話

「ほらよ、今日の分だ」

「はい、ありがとうございます」

次は・・・村への配達か。


僕には、お金が必要だ。

だから、こうして毎日お金を稼いでいる、そうして月末に送っているんだ。

「最近はだいぶ稼げるようになってきたか・・・」

この分なら、あと数年ってところか・・・明日も仕事だ、もう寝よう。


「待っててくれ、僕は頑張るから・・・・」




 我が家には、病気の娘がいる。

いろんなお医者さまに診てもらったが、なかなかに重い病気らしい。

村一番のお医者さまなら出来る手術で、治る可能性は五分五分らしい・・・

でも私たちはあきらめない、だって両親が娘を見捨てたらお終いでしょ!

それに最近、娘のうわさが広がって村中から募金が集まるようにもなってきたしね。

中には結構な額を送ってくれる人もいるし。


・・・でもね・・実は私たちにはもう一人子供がいてね。

娘の病気が分かったころから、良く分からない事ごちゃごちゃ言って家を出て行っちゃったの、きっと自分だけ嫌になって逃げたのよ。

酷い息子・・・いや、もう息子でも何でもないわ、あんなの・・・




 私ね、病気なの。

お医者さまでも治すのが難しいって。

一度は、あきらめたの。

でもね・・・そんな私を助ける人たちが現れたのっ!

とてもうれしかったわ!

毎月お金を、私の手術のためのお金を送ってくれる人たちもいてねっ、すごくたくさんのお金を届けてくれる人もいるのよ。

毎回違う封筒だけど、がんばれ とか、絶対助けるから とかの手紙が入ってるから・・・きっと同じ人なの。

何回か返事も書いたわ。

だからね、もう少し頑張ろうと思うの、私。


・・・でもね、悲しい事もあったの。

私には兄がいたの。だけどね、あの人は私を・・いや私たち家族を見捨てて自分だけ家を出ていったの。

酷いでしょ?・・・私も最初は嘘だと思ったの。だけど、お母さんもお父さんもアイツはもう家族じゃないって、薄情者だって言ってたの。

実際その通りで、あれから数年、あの人は一度だって戻ってこなかったわ。

それで気づいちゃったの・・・あぁ、あの人は私たちを見捨てたんだって。






 あれからどれくら経っただろうか・・・

お金を稼いでは送る日々・・もう嫌だ。

俺と同じくらいの奴らは、好きにお金を稼いで好きに使って。

好きなもの食って、好きに遊んで。

なんで俺だけが・・・。


あぁ、疲れた。

もう帰りたい。俺じゃ、俺が、頑張る必要なんてないんじゃないか・・・?


えっと、今日はこれから・・・・配達か。

そのあとは・・・


あと少し、あと少しだ・・そうしたら。






 あれから長かった・・・・

正直逃げてしまおうと思ったことも一度や二度ではない。

だけど、その度に送られてきた手紙の返事を見て、あぁ俺も頑張らないとって思った。

そうして頑張ったからこそ、やっと・・・終わった。

・・・最後の稼ぎは、さっき村に送るように頼んできた。

あとは村に戻って・・戻って・・・

「うぅっ、やっと・・やっとぉ・・かへれるぅ・・・うううぅ」


「ここのトンネルをまっすぐだったか」

なつかしいな・・何度か通るうちに見つけたこの近道、村まであとちょっと・・・


ドガァァン


「だ・・・ん?今なんか音がしたような?」


ドゴォォォォオオオ

ドガァァァアアア


「えっ!?」





え?なん・・・・え・・・れは?

・・むい・・いたい・・らだが動かな・・・・っ!?手がっ!

・・れはいったいどうし・・・!?

そういえ・・右手のかんか・・・がないよう・・・?

っ!?あれは・・・まさかっ!?俺の・・・・・・・


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

こんな・・・でし・・・なんて

村に・・・・・・・えるんだ・・・・・

いやだいやだいやだいやだいやだやだやだやだ・・・

・・・・・・・やだやだや・・・・

・・・・・・・や・・・・・・








 あれから親切な人のおかげで私の病気は完治した。

毎回違う封筒・・・それでも同じような、私を思いやる言葉・・・

私はこの人に惹かれていた、会ってみたいと思った、けれどそれは叶わなくて、それでも私は覚えている。

この恩を覚えている。


病気が完治した後は数年のリハビリ生活の後、もと通り・・・とまではいかなくとも、それまでよりももっと良い生活に戻れた。

お父さんとお母さんは私のための治療費を集める運動やそれ以外の仕事が評価されて、「完全病気撲滅の会」の会長・副会長に任命された。

今は、

「あなたが完治して本当に良かった・・・」

「そうだな、これも色々な人のおかげだ。なぁ母さん、俺たちも会長になったんだし、娘のような人を減らせるってできないかな?」

「っ!?それよ!名案だわ、あなた!」

という事で今ではその会の人たちと一緒に、私のような病気にかかっていても治療費がないような人のために援助をしたり集めたりしている。


一方、私はというと、あれから家族ができたわ、結婚したの!

今では、とても優しくて頼りがいのある夫と、可愛くて素直な子供が二人もいるわ。

今では思うの私、あの時の頑張りや辛さが、今の幸せにつながっているんだって。

頑張って、努力して、つらいことを耐え抜いた人は・・救われるって。

だから、お父さんとお母さん、そして頑張った私は今、こんなに幸せなのよ!


あとは・・・

・・・・残念だけど、兄は・・・あの人はあれから一度も帰ってないわ。

完全に私たちを見捨てたの・・あの人は。

お父さんとお母さんは、あんなクズ、どうせどっかで野垂れ死にしてる、とか言ってた。

私は

「そうだね・・・」

としか言えなかった。

正直今でも許せないわ、当然よね、あの人は私も見捨てたんだもの。

死んでても自業自得としか思えないわ、それでも私は恨まない。

なんでかって?

それは一番つらい時に私を支えてくれた両親、今を一緒に生きる家族、そして・・・

・・・いつも少なくない額のお金と一緒に励ましの手紙を送ってくれた親切な人のおかげ。

「あぁ、いつか会えないかなぁ・・・」

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