見張りの一日
「ジリリリリリリリリリリリリッ」
今日も時間通り目覚ましが鳴る。
「・・んっ・・・」
毎日早くから起きるのは億劫だが、この音を聞くと起きなければ、と思うくらいには順応しているようだ。
これから仕事だ・・・と思うと少し憂欝な気分になる。
まぁ、それを言ってもはじまらないので、憂鬱を振り払い、顔を洗い、歯を磨き、朝食を食べ、また歯を磨き、着替え、
こうして俺の、いつも通りの見張りの仕事がはじまる。
最初の仕事は、まだ起きていないだろう同僚を起こしに行くところからだ。
正直、俺が起こしに行くこと自体がおかしい気がするのだが、気にしたら負けだろう。飲みに行ったときには奢ってもらう事もあるしな。
見張りの仕事は、基本的に2~3人で行う、これは1人に問題が起きた時に、もう1人が伝令役となるためだ。
なので、同僚とのコミュニケーションも仕事の内なのだ。
おっと・・そんなことを考えているうちに起きてきたようだ。
「おぉ、おはようさん」
「あぁ、おはよう。今日も迎えに来てもらって悪いな」
悪いという割に悪びれてないように聞こえるが、これが素だと分かっているので気にしない。
付き合いが長いが、悪い奴じゃないの良く知っているしな。
「じゃ、今日も仕事に行くか、柵周辺の見回りからだな」
「了解だ!」
さっき「最初の仕事は」とか言ったが、俺たちの仕事なんて異常がないかの見回りと、不測の事態への対処ぐらいだろう。
「こっちは一通り見まわったが問題なさそうだ!」
「こっちも問題ないみたいだ」
とりあえず1周して見回ったが大きな以上は見つからないようだ。
気になる事と言えば、北側の方が少し古くなっているぐらいだろう、これは後で報告しておこうと思う。
「いったん区切って飯にするか」
「そうだなっ!正直腹が減って、頭も回らなくなってきたところだ」
「おいおい・・・頭なんて使ってるのか!?」
「ひ、ひどいなぁ・・俺だって頭ぐらい・・」
「さ、飯にするか!」
「・・・・は~、分かったよ」
軽くからかいながら適当なテーブル席に腰を落ち着かせる。
このテーブル席は、外で弁当を食べる事の多い見張りのために用意されたものらしい。
「ふぁぁ~~ぁぁあ、眠くなってきたなぁ」
「ホントにな」
俺は相槌を打ちながら、重い瞼が閉じないように必死に眠気と戦っていた。
今日は何事もなく一日が終わるだろうなぁ、とか思っていたが、その思いとは裏腹に甲高いサイレンの音が鳴り響いた。
続いて、
「脱走だっ!!繰り返す、脱走したのがいる!」
ああ、またか。不測の事態ってやつだ。
そう考えた所で手近なスピーカーから詳しい場所や外見についての情報が流れる、ちょうどそれに耳を傾けた時、
「・・・・どうやら、俺たちの仕事のようだな」
「ああ、サクッと終わらせて飲みにでも行くか」
少し先にある柵のあたりを見て、それから俺は、こういう時のために携帯を許された武器を構える。
握りやすい形をし、先端が筒状になっている。
その武器を持った時、ちょうど握るであろうあたりにある引き金に指をかける。
そして、いくつかの深呼吸の後、そっとそれを構えると、
「ふーーーっ・・・・・・・」「ズドン」
引き金を引いた。
目の前で脱走したのが倒れている。
こちらを見て何かをつぶやいている。
そして、それは、
やがて動かなくなった。
「また脱走か・・」
「何年かに一度くらいはあるんだよな、あいつら何がしたいんだ?」
「さあな、俺達には分からんよ・・・・それなりの自由は与えているんだけどな」
「なんだったか・・・上の人たちが言ってたな・・たしか・・・・・」
「品種改良、だったか?」
「それだっ!なんでも色々な遺伝子を組み合わせて実験してるらしい。いいのが出来たら世紀の発見だ、とか騒いでたよ」
「それじゃ失敗したのは?」
「処分だってよ、失敗したなら必要ない、逃げ出したのを置いとくほどの面倒は見られないってさ」
「そしてそれが俺たちの仕事ってわけだ」
「ま、そうだな。とりあえず今日の事は忘れて、飲みにでも行くか」
同じような柵がならぶ前で、失敗作を前に男達はつぶやいた。