思い込みの話
「これより裁判を始める」
その一言で僕の運命を決める裁判が始まった。
問題が起こったのは少し前、つまりは今日の夕方だ。
僕は、配達の仕事を終えて家に帰る途中だった。
配達の仕事は量を配らないとお金にならない、だから荷馬車とかを馬に引かせるのが普通だ、
でも、残念ながらお金のない僕には縁のない話で、徒歩での配達が日常となっている。
だから、今日も徒歩で帰っていた僕、そこに向かってた一台の荷馬車、
「なんだっ!?」
僕は突然のことに混乱し、叫びながらも飛びのいて回避した。
幸い、僕の飛びのいた方向とは逆に荷馬車が突っ込んでいったことで、何とか助かったと一安心。
荷馬車は勢いを殺せず、そのまま転倒、
その後しばらくして、中から出てきたのは一人のお婆さんだった。
出てきたお婆さんは、すごい形相でこちらに詰め寄り、
「あんたっ!!あんなところで何してるのっ! あんたのせいで荷馬車も配達物も酷いことになっちゃったじゃない!」
なんて罵った後も、なんでっとか、邪魔してっとか、弁償しろっとか色々言われた。
ここは荷馬車の通行も許可されているが、基本は歩行者の優先通路だ。
それでも素直に謝られたら、ここでは何もなかったことにしようかと思っていたけど、
ここまで文句しか言われないと、そんな気持ちもどこかにいってしまう。
そこでちょうど、誰かに呼ばれたのだろうか衛兵がやってきた。
僕は事情を説明しようと近づいたところ、、
「お前っ!お前かっ!歩行者を荷馬車で引きかけておいて、そのまま相手を罵り続けているという恥知らずは、」
「僕は大丈夫ですから、落ち着いてください衛兵さ・・・」
「うるさいっ、口答えは許さん」
そういって僕は衛兵に逮捕された。
「へ?・・・ち、違いますよ衛兵さん、引かれかけたのは僕の方で、」
「何を言っている!お前は配達人だろう、だったらお前が荷馬車で引きかけたのだろうがっ」
「だから違いますって、確かに僕は配達人ですが」
「だったらお前が犯人ではないか、この罪人がっ!大体相手はお婆さん、誰が見てもお前が悪いのだろうが」
正直話にならない、僕はお婆さんに向かいなおして、
「僕はやってない、そうだろう」
「ひっ、す、すいません、急に引かれかけて・・・私怖くて・・」
「は!?お前何を言って・・」
何を言っている?わけが分からない、焦りと混乱でうまく考えられなくなった僕のもとに再び衛兵が、
「そら見た事か、やっぱいお前が犯人なのだろうが、こいつを連れていけ」
と、いつの間にか集まっていた他の衛兵に指示を出し、僕は連れていかれた。
その後、いつの間にか法廷に立っているが、今でもわけがわからない。
「何か申し開きはあるか」
そう聞かれ、
「僕はやっていません、僕は引かれかけただけで、悪いのはそこにいるあんただっ」
そういって法廷の横で被害者面して立っているお婆さんに、僕は指をさした。
「うるさいっ!お前がやったんだろう」
「そうだっ」
「見苦しいぞ」
後ろからそんな声が聞こえる、なんでだ、僕は何も間違えたことはしていないのに。
そこで裁判長だろうか、目の前にいる一番偉そうな人が、
「お前は配達人か」
「はい」
「で、荷馬車での配達中にあちらのお婆さんを引いたと」
「違う」
「で、怖くなったお前は、あちらのお婆さんに罪をなすりつけようとしたと」
「だから違うって言っているだろ!」
「現にお婆さんから事情は聞いている」
そこまで言われて、いまだに被害者面しているお婆さんの方を見る、
なんだあれ、思わずカッとなり言い返そうとすると、
「早く罪を認めろっ」
「恥ずかしくないのか」
さらなる罵声が飛ぶ、もうやってられない、こいつら事実を確かめもしないで。
そう考えた所で、カンカンと音が鳴り、
「静粛にっ!諸君らの言いたい事は良く分かる」
「判決を下す」
「有罪だ、彼の者を有罪とする」
と、裁判長が告げる。
もうダメだ、なんだこれ、そう考えた僕は、
「お前ら全員おかしいっ!おかしいだろっ!!」
最後にそう叫んで、目の前が真っ暗になった。
「んっ?ここは・・」
僕はベットの上にいた、どうやら眠っていたらしい。
さっきのなんだったんだろうか、そう考えている僕の耳に、
「出ろ!これから法廷に向かう、お前の裁判だ」
どこかで聞いたような衛兵の声が聞こえた。