柵の向こうの獣
この村で私は生まれ、育った。
周りは自然に囲まれて、そこそこ活気もあって、それなりの自由とともにある、この村で。
よくありそうな普通の村だけど、ここにはあまり人が来ない、というより私も聞いたことがあるだけで村以外の人を見たことがない。
原因は分かっている・・・この村を囲うように高い柵があるからだ、
家ぐらいの高さはあるだろうか、きっとこれのせいで周りの人がこの村に来られないに決まっている。
今より子供の頃に村の大人たちに聞いたら、この柵は守るためにあるものだって、そう言ってた。
最初聞いた時は、それなら仕方がないな とか思ってたけど今では違う、
私は村以外の人を見てみたい、外の世界を見てみたい、
今ではそう考えるようになって、考え出したら止まらなくなって、もう一度、村の大人に聞いてみた。
「ねぇ、あの柵は、なんであるの」
「あの柵はね、守るためにあるんだよ」
「守るって、、何から?」
「柵の向こうにいる、獣たちからさ」
「でも、柵の向こうには獣以外もいるかもしれないよ、私はそれを見てみたい」
「いいや、柵の向こうは獣たちしかいないよ、間違っても外に出ようなんて思ってはいけない」
こんなやりとりがあったけど、私は全然納得できなかった。
大人たちが勝手に、外との交流を拒んでいるんだと思った。
だから、村の子供たちに話してみた、
「私たち子供だけで、村の外に出てみない?」
「どうして?」
「私は村以外の人を見てみたい、村の外を見てみたい、みんなもそう思うことがあるでしょ?」
「確かにあるよ・・・でも柵の向こうは危ないって、獣がいるんだって、どの大人もみんな言ってたよ」
「そうかもしれない、でも違うかもしれない、大人たちは実際には見てない事を言ってるだけかもしれない」
この言葉に半分くらいの子供は納得し、もう半分くらいは悩んでいた、
それでも違うと思える子供はいなかったみたいだ。
「今日の夜、村の北側にある柵の所から私は外に行く、納得できたら一緒に来てほしい」
それだけ言って解散し、夜になった。
村の大人はみんな寝たころ、足音を立てないようにそっと出かけて、北側の柵の前に来た。
もうみんな集まっているようで、私以外の子供は3人だった。
「ここの柵は壊れかけてて、少し下を蹴ると外れるんだ」
そう言って、私は前から調べていた通りに柵を壊した。
子供一人通り抜けられそうな穴ができ、そこを通って、私たちは、外に出た。
「・・・」
「・・・これが外・・」
軽く周りを見渡した、村とはあまり変わらないような景色が広がっているが、その先に柵はない。
ここを進めば何かあるかもしれない、という思いから期待と不安が混ざったような落ち着かない感覚におそわれた。
じゃあ、少し歩いてみようか そう言おうと足を前に出した瞬間、
ズドン という音が鳴り、ネチャっとしたものが顔にかかった。
「へ?」
そう言葉をこぼす間にも、同じ音が2度響く、
わけが分からなかった、
今の音なんだろう、そう聞こうと振り返った私の目には、先ほどまで一緒にいた子供だっただろう何かがあった。
怖くなった私は走り出した、ただ夢中に、どこに向かうわけでもなく、
走って、走って、さらに走って、たどり着いた先は柵だった。
たまたま戻ってこれたのだろうか? という思いと、戻ってこれた という安心感から出る時に使った柵の穴を探した。
でも、探しても探しても見つからない、ここにあるはずの穴が。
「なんで!?」
「どうしてないのっ!?」
あふれる感情を抑えきれずにそうこぼしながら、必死に探したところで私は気が付いた、
「この柵・・・私たちの村のものと少し色が違う??」
口に出ていたのか、思っただけなのか、そんな考えが浮かんだ瞬間、
ズドン 先ほどと同じ音が私の後ろで響き、お腹に痛みが走った、
思わず手を当てると、先程顔にかかったネチャっとした液体がついている。
痛みに顔をしかめながら、朦朧とする意識で音のした方を確認する。
何かがいた、数は2つだろうか、
『それ』は見たこともない姿で、意味の分からない音を発している・・・いや、どうやら会話しているようだ。
寒くなり、遠のく意識の中、そんな事を考えながら、私は大人たちの言葉を思い出していた、
--柵の向こうには獣がいる
--柵の向こうは危険だ
そういえば誰も獣が危険だとは言ってなかった・・・もしかして、
そう考えた所で、私の意識は途切れた
「また脱走か・・」
「何年かに一度くらいはあるんだよな、あいつら何がしたいんだ?」
「さあな、俺達には分からんよ・・・・それなりの自由は与えているんだけどな」
同じような、柵で囲まれた『何か』が建ち並ぶ場所、その『何か』の内の一つの前で男たちはつぶやいた。