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16.元最強賢者、少女の悩みを解決する

 嗤い声の響く中を、リーンはジッと少女の背中を見つめていた。


 その声が誰に向けられているのかは分かっているだろうに、少女は気にした様子もなくゆっくりと上げていた腕を下ろしていく。

 一つだけ息を吐き出すと、ザクリスに向き直った。


「……終わったわ」


「うむ、そうか! よし、戻れ!」


 その言葉に頷き、歩き出す少女の一連の動きは、妙に慣れているように見えた。

 魔法を使うべく構えるのも、何の魔法も発動しないのも、その後のやり取りも……嘲笑われるのも。

 無視しているというよりかは、常にありすぎて麻痺しているだけのようにも見え、そんな少女へと向けられる声がさらに増した。


「ははは……! 終わった……? 終わっただとよ……! 失敗しやがったくせに、まるで成功したみたいなこと言ってんじゃねえよ!」


「しかも今使おうとしてたの、フレイム・アローだろ? 魔法覚えたてのガキだって失敗しないぞ?」


「さすがは出来損ないよねえ。公爵家の恥晒しが、いつまで学院にいるつもりなんだか。とっとと家に帰ればいいのに」


「まったくだぜ。ま、恥晒しだからこそ、帰るに帰れねえんだろうがな。天才児だとか偽ってここに入りやがったんだ。帰ったら帰ったで、そのまま『処分』されるだけだろうよ。家のことを考えるんなら、むしろそうすべきだろうがな……!」


 そんな声を、聞くとはなしに聞きながら、リーンはなるほどと納得していた。

 出来損ない、という言葉は聞き覚えのあるものだったのだが、やはり間違いないようだと思ったのである。


 前世の記憶を思い出せるようになってから現在に至る前での六年間、リーンは積極的に外部の情報を集めていた。

 それは主に外のことを知るためであり、現代の常識を知るためだ。

 書物を読むだけでは限界があったため、実際の現代の様子を知ることで足りない部分を埋めようとしたのである。


 そしてその中の一つに、公爵家に天才少女が生まれた、というものがあった。

 無論リーンのことではなく、そもそもアメティスティ家のことではない。

 この国には公爵家は四つあり、そのうちの一つのことだった。


 その家の名は、マカライネン。

 何でも齢六歳にして、強大な魔物を撃退したのだという。


 が、まあ、実のところ、ここまでならばよくあることではあった。

 事実としてではなく、貴族はそういった見栄をよく張るのだ。

 ゆえに周囲は今回もそういったことなのだろうと思っていたし……だが今回は、いつもとは違った。


 その少女は、十二歳ではなく、十一歳で学院に入ることを認められたのである。

 しかも、国内最高峰の学院である、賢者学院に、だ。


 これは今までに前例のないことであった。

 つまりは、賢者学院が直々に、その少女は真に天才であると認めた、ということだ。


 しかし、そんなことがあったというのに、天才少女の話はそれ以降不自然なほどに聞かなくなった。

 学院というものは閉鎖的な環境であるため、中の話が伝わりにくいのは自然なことではあるのだが、それでも、だ。


 その代わりとばかりに聞こえてくるようになったのは、一つの噂話である。

 その年の新入生の中には魔法がまったく使えない者がいて……それは件の天才少女なのだ、という。

 そしてその少女は、出来損ないと呼ばれている、と。


 ついでに言うならば、リーンは自分と同じクラスになった者の名前を確認している。

 エリナ・マカライネン。

 そんな名前が、自分の名の下にあったのをである。


 ちなみに、マカライネン家には子供は一人しかいないという話だ。

 噂の天才少女は、紅蓮の髪を持っているという話でもあったので、まあまず間違いあるまい。


 それに、公爵家の娘ということは、顔を知られていても不思議はない……というか、むしろその方が自然だ。

 パーティーなどに出席することもあっただろうし、そういう場でお披露目があるのが当然ですらある。

 そういう場に行くことなくずっと屋敷にこもっていたリーンの方が、例外なのだ。


 もっとも、そんなところに行きたくはなかったので、リーン本人としては助かったのではあるが……ともあれ。

 彼らが彼女に対してああいった態度を取っているのも、彼女のことを色々な意味で知っているからなのだろう。


 ……そのことは、彼らの態度を肯定する理由にはなりはしないが。


「さて……では、次だ! 次は誰が行く!?」


 未だ嘲笑の声が響く中、ザクリスは特にそれを止めようとはせずに、ただ授業を先へと進めていく。

 先程同様、止めたいのであれば自分で止めてみせろということなのだろう。


 そのことを理解しているのか、緑髪の少年は笑みを深め、だがそのまま手を上げた。


「はい、それでは、次は僕が行くとしましょう。アレの次では誰がやっても同じでしょうが……ここはやはり、お手本になる者がやるべきでしょうからね」


「ふむ、そうか……よし、分かった! 次はお前だ!」


「ええ、任せてください。魔法とはこういうものなのだということを、しっかりと見せてあげますよ。誰の目にも分かるように、ね」


 そう言いながら、その目は紅蓮の少女と……次いで、リーンへと向けられる。

 そこに相変わらず嘲笑の光が宿っていたことに気付いてはいたが、どうでもいいことであった。

 魔法を見せてくれるというのならば望むところで、最初からそこにしか興味はないのだ。


 しかし、そうして今度は少年が前方へと歩き出すのを眺めながらリーンが目を細めたのは、新鮮さを感じてもいたからである。

 千年前では、こうして皆の前で魔法を披露するようなことはなかったからであった。


 それは学院でも同様で、教師が手本として魔法を見せることすら稀だったのだ。

 魔法というのは基本隠すべきだというのは、千年前の常識であった。


 ただしそれは、千年前の魔法とは、研究の成果という側面が大きかったからだろう。

 一つの魔法を作り出すのに、長ければ数十年以上、時には数百年かけることもあったというのに、魔法を見られてしまえばその成果だけを解析されてしまうのだ。

 無論解析しにくくはするものの、それでも全てを隠せるものではない。

 魔法を隠すようになったのは、ある意味では当然のことと言えた。


 それに、千年前は時に魔導士同士で争うこともあったのだ。

 その時相手の知らない魔法を使えるというのは有利な手札となったし、また無闇に争わないための抑止力ともなった。


 その結果、魔法は交換材料として成り立つようになり、そうなれば尚更魔法を隠すようになる。

 リーンとしては色々な魔法を知りたかったのでその流れは非常に不本意なものではあったが、自分一人が魔法を披露としても他に続く者がいなければ意味がない。

 交換材料がなくなってしまったら知らない魔法を知ることも出来なくなってしまうので、仕方なくリーンも隠すようになったのだ。


 ともあれ、そういったわけでこの場は非常に新鮮且つ興味深いものであり、好奇の瞳でリーンが見つめる中、少年が足を止めた。


「――風よ。我が意に従い、その力を示せ。我が前に立ち塞がる全て、その悉くを切り裂かん」


 先程の少女と同じように、少年も詠唱を紡ぎながら、ゆっくりとその右腕を持ち上げていく。

 周囲の魔力が動き、右手の先に集まり、留まったのは一瞬だ。


「――ウインド・カッター」


 トリガーの言霊が紡がれた瞬間、魔力は瞬時に風の刃と化した。

 そのまま解き放たれたかの如く前方へと飛来し、的へと激突する。

 その結果として出来た半ばまで切断された的を眺め、周囲から感嘆の声が漏れた。


「おぉー……さすがだな。あの発動速度。上級生どころか、現役の魔導士にすら劣ってないんじゃないか?」


「加えて、あの威力もさすがよねえ。あれだけの距離があったら、普通は魔法が届くだけでも十分なのに」


「うむ……確かに、見事だな! 言うことはない! さすがはAクラス筆頭だ!」


「いえいえ、この程度出来て当然ですよ。……正直なところ、少し不安もあったんですけどね」


「不安……? それだけの腕があれば、不安など感じる要素はないように思うが!?」


「確かに、僕は自分の魔法の腕に自信があります。ですが……ほら、僕の前で、下級の魔法が発動すらしなかった、という例を目にしてしまいましたからね。もしかしたら、この場に何か問題があるのかもしれない、と思ったんです。たとえば、僕達のことを試すために、魔法の発動を抑制する結界が張ってあるとか」


「ふむ……確かに王都の方にはその手の結界が張られているが、この場にはないぞ!? そんなものを張っていたら、訓練など出来ないからな!」


「はい、そのようですね。いつも通り……いえ、いつも以上に調子がよかった気がします。……ここで魔法が使えないなんて、有り得ないと思うほどに」


 そう言いながら少年は、口元に嘲笑を貼り付けつつ、歩き出した。

 その視線は相変わらず紅蓮の少女の方へと向けられており……そこで、おや、とリーンが思ったのは、今までずっと何も気にしていないとばかりに前を向いていた少女が、俯いていたからだ。


 その口元が小さく、開く。

 響いた音はない。


 だが、リーンの目にははっきりと、どうして、という形に動いたのと、ぎゅっと握り締められたその左手が映し出されていた。


 逡巡したのは一瞬。

 次の瞬間には、リーンはその少女に向けて口を開いていた。


「ふむ……実は先程から一つ聞きたい事があったのじゃが」


「……え?」


 話しかけられるとは思っていなかったのか、声をかけた瞬間、少女は数度瞬きを繰り返した。

 軽く周囲を見回した結果、間違いなく自分が話しかけられたと認識したのか、その目が訝しげに細められる。


 まあ、当然と言えば当然の反応ではあったので、気にせず、しかしリーンは首を傾げながら言葉を続けた。


「もしや、何かの訓練の最中だったりするのかの? 先程魔法が使えなかったのも、そのせいじゃろうか?」


 それはただの、純粋な疑問であった。

 少なくともリーンには、そう『見えた』からだ。


 だがその言葉をどう捉えたのか、直後に少女の瞳が一瞬だけ揺れ、周囲から笑い声が上がった。


「ははは……! おいおい、あの出来損ない、欠落者にまで馬鹿にされてやがるぜ……!?」


「うわぁ……惨めだな。ああはなりたくないもんだ」


「欠落者は欠落者でどの面下げて言ってんだって話だけどねえ。ま、面白いからいいけど」


「っ……それは、嫌味か何かのつもり? それとも……喧嘩売ってんの?」


 無論のことそんなつもりはなかったが、少女の押し殺したような声に、やはり今まで周囲からの嘲笑に何の反応もしなかったのは、慣れていたからなのだろう。

 しかしこうして面と向かって言われたことはなかったために、感情を殺しきれていない、といったところか。


 だがということは、今まで誰からも『それ』を指摘されたことはなかった、ということだ。

 オリヴィアあたりならば気付いているはずだし、だから敢えてなのかと思ったのだが……どうやらそうでもなさそうである。

 ということは、そもそもオリヴィアですら気付けていない可能性があるということか。


 それほど高等なものではないはずなのだが、後で確認してみた方がいいかもしれない、などと思いながら、リーンは目を細め、『それ』を捉える。


「別にそういうわけではないのじゃが……まあ、どうやら自分の意思で行っているわけではなさそうなのじゃし、なら壊しても問題なさそうなのじゃな」


「は……? あんた、一体何を――」


 ――ブレイク。


 少女が言葉を続けるよりも先に、リーンは軽く指を鳴らした。

 言葉で説明するよりも、この方が早そうだと思ったからである。


 瞬間、少女の身体から、ガラスが砕け散ったような音が響いた。

 少女の身体にあった『それ』――極小範囲に張られていた結界による、封印術式が砕かれた音だ。


 解析した結果、その術式の効果は、魔法の発動の阻害。

 魔法の発動を阻害するのは、魔導士を相手にするならばまず試すことでもあるため、千年前はよくやられ、その対応をするために自分へと仕掛け修行していたりしていた。

 だからこそ、敢えてであった可能性も考えていたのだが……本人が知らなかったのであれば、きっと突然魔法が使えなくなった、とでも思ったに違いない。


 まあ、どうやら、そういうことらしかった。


「……あんた、今、何を? いえ、でもあんたは……」


 何かをされた、ということは分かるのだが、何をされたのかは分からないのだろう。

 少女は困惑したような視線を向け、しかしリーンは肩をすくめる。


 これまたやはり、言葉で説明するよりも、実際にやってみた方が確実であった。


「とりあえずは、そうじゃな、もう一度魔法を使ってみたらどうじゃ? それで全ては明らかになるじゃろうからの」


「えっ……? な、何を……? そんなことしたって……どうせ……」


「はっ……おいおい、何だよ、妙な小芝居まで打ちやがって、そこまでそいつを辱めたいってか? 確かにそれはそれで楽しそうだが、今は授業中だぜ? 出来損ないが出来損ないである姿なんざ、これから幾らでも見れんだ。まあ、そいつが諦めてこっから出て行かなけりゃの話――」


「――これまた先程から思っていたことなのじゃが。いい加減黙るのじゃ、小僧。授業中であることを弁えるのは、お主の方じゃろう?」


「……は?」


 反論されると思っていなかったのか、少年が呆然とした間抜け面を晒す。


 今までリーンが何も言わなかったのは、少女に気にしている様子がなかったのと、今が授業中だからである。

 授業中だから弁えて黙っていたのであって、何も感じていなかったわけではないのだ。


 既に言った通りである。

 自分に対してのものであるならばどうでもいいが、他人へのそれは不快なだけだ。


 特に、誰かが頑張っている姿を馬鹿にするのは、殊の外不快であった。


 少女のことを、リーンは何も知らないも同然ではある。

 噂話には聞いたことはあるものの、それは知っているに含まれまい。


 つい先程会ったばかりであり、名前を教えられていなければ、そもそもたった今初めて会話を交わしたのだ。

 誰がどう見ても、他人以外の何者でもないだろう。


 しかし同時に、本当に何も知らない、というわけではなかった。

 少なくともリーンは、この少女が努力を重ねてきたのだろうということだけは分かるからだ。


 伊達に前世で千年も生きてはいないのである。

 立ち姿や、雰囲気を見れば、その程度のことを把握するのは容易かった。


 それに、先程少女が魔法を使おうとした構え。

 淀み一つなかったあの動作は、それだけで努力を重ねたのだと……いや、努力を重ねているのだと知るには十分過ぎた。


 その姿を馬鹿にする権利は、誰にもない。

 リーンがつい手を差し伸べてしまったぐらいには、その姿は尊いものなのである。


「まあ、この娘が魔法を使えば、先程のお主の魔法は霞んでしまうじゃろうからな。そこに危機感を覚えたのは分かったのじゃから、とりあえず黙ってみているといいのじゃ」


「っ……は、はぁ……!? 誰が何だと……!? テメエ、さっきから調子に乗ってんじゃねえぞ、欠落者如きが……!」


「ふむ……誰が調子に乗っているのかは、どうせすぐに分かると思うのじゃが?」


「っ……いいだろう、どうせその出来損ないは魔法なんか使えねえんだ。その時にはテメエ、どうなるか分かってんだろうな……!」


 何やら少年が凄んできていたが、その時にはリーナは少女の方へと向き直っていた。

 未だに戸惑いの抜けていない少女の背中を押すように、ポンと叩いてやる。


「ほれ、何をしているのじゃ? 先程のではお主の実力が正当に評価されんじゃろうし、もう一度やることに気後れする必要はないのじゃぞ? じゃよな?」


「ふむ……まあ実際のところ、一度しかやっては駄目とは言っていないからな! 問題ないぞ!」


 念のためにザクリスへと確認を取れば、そう言って頷きを返してきた。

 どころか、その姿はどことなく楽しげだ。

 何かが起こるということを、何となく理解しているのだろう。


 そして教師から許可が与えられたことで観念したのか、少女がゆっくりと歩を進めていく。

 先程と比べると遥かに自信なさげに、恐る恐ると言った様子であり、そんな姿を皆が黙って見つめている。


 そうして先程も立った場所へと再び訪れた少女は、何かを決意するように一つ息を吐き出すと、キッと前方を睨みつけるように見つめた。

 左腕がゆっくりと持ち上げられ、詠唱が紡がれていく。


「――炎よ。我が意に従い、その力を示せ。我が前に立ち塞がる全て、その悉くを焼き払わん」


 魔力が動き、集い、留まり……そして。


「――フレイム・アロー!」


 トリガーの言霊が紡がれた瞬間、爆発したかの如き勢いで魔力が弾け、的へと突き刺さった。

 炎の矢と化していたそれはそのまま的の中ほどまでを貫き、燃やしていく。


 その光景を眺めながら、少女の口から呆然とした声が漏れた。


「…………え? 嘘……魔法、が……?」


「ばっ、馬鹿な……!? 出来損ないが、魔法を使った、だと……!? それに……それに、これは……!?」


「……なんか、さっきのウインド・カッターより凄くなかったか?」


「そう見えた、わよねえ。発動速度も……それに、威力も」


「……あ? おい、何だと……!?」


「い、いや、気のせいだよな、気のせい!」


「そ、そうよねえ。さっきのウインド・カッターの方が、凄かったわよねえ!」


 ざわめきと驚愕が広がる中、リーンは呆然としたままの少女のところへまで歩いていくと、先程もそうしたように、もう一度その背中を叩いた。

 呆然とした顔を自らの方へと向ける少女に、肩をすくめる。


「ほれ、何が起こったのか、よく分かったじゃろ? ま、その結果として、色々と考えることはありそうじゃが」


 しかし今はとりあえず、授業中だ。


 そしてリーンがそこまで歩いてきたのは、授業を先に進めるためである。

 呆然としたままの少女をとりあえず移動させ……あとは、もう一つ。


「ふむ、ついでじゃし、次は儂がやってもいいかの?」


「む……? まあ、構わんぞ! だが……」


「よし……まあ、先程言ってしまったのじゃからの。――誰が調子に乗っているのかは、すぐに分かる、と」


 であるならば、ここで相応の結果を見せる必要があるだろう。

 少女が魔法を見せ付けることには成功したが、それはそれだ。

 リーンはまた別で見せ付ける必要がある。


 とはいえ、リーンは未だ現代魔法は使えないままであり、使えるのは古代魔法だけだ。

 最高峰の学院に勤める教師相手では、古代魔法を使えばそれとバレてしまう可能性も高いに違いない。


 だが、問題はなかった。

 リーンは六年の間で、古代魔法を現代魔法らしく偽装する方法を編み出していたからである。


 現代魔法と古代魔法の最大の違いは、魔力の波長だ。

 世界の魔力を用いる現代魔法は魔力の波長が常に一定であり、だから古代魔法を使うと容易にバレてしまう。

 そこで古代魔法を使用した時の魔力の波長を誤魔化すことで、現代魔法を使っていると思わせる、というわけだ。


 まあ正直なところまだ未完成ではあるのだが、ここに来て二つも見れたことで、より精度を高めることは出来た。

 連続して使ったりしなければ、そうそうバレることはあるまい。

 万が一バレるようなことがあったら……その時はその時に考えればいいだろう。

 実験にも最適なこの状況を逃すわけにはいかないのだ。


 そんなことを考えながら、さて何の魔法を使ったものかと考える。

 ここは折角だからそれなりに派手な魔法を使いたいところだが――


「……ま、多分問題ないじゃろう」


 現代魔法の威力はかなり劣化しているという話ではあったが、二人の魔法を見る限りでは下限ギリギリにまで威力を抑えればいけそうであった。

 本来の威力の百分の一程度になってしまうが、仕方あるまい。

 もっと何とかして抑えなければならないかと思っていたことを考えれば、嬉しい誤算と言えた。


 その上で選択するのは、やはりなるべく上の魔法だろう。

 その方が単純に派手だからだ。


 二人の放った魔法はおそらく共に下級なので、折角ではあるし最上位魔法にするとするとしよう。

 派手さで言えば雷系が一番なのだが、現代魔法での扱いが不明なので、ここは炎熱系あたりで抑えておいた方が無難か。


 そうして使うべき魔法を定めるも、首を傾げたのはすぐ傍に少女がいたままだからである。

 これから魔法を使うということは伝えたはずだが……その顔に戸惑いの表情が浮かんでいるあたり、まだ自分の今の状況を受け止め切れていないのかもしれない。


 まあ、別に邪魔になるでもないし、問題はないだろう。

 視線を的の方へと向けると、術式を展開し、魔力を流し込む。


 そして。


「――フレアバースト」


 指を鳴らすと同時に発動した瞬間、的を中心とした半径三十メートルほどが一瞬で融解し、消し飛んだ。


 熱風によって砂煙が舞い上がり、視界が閉ざされるが、それも数秒のことだ。

 視界が晴れた時には、魔法を使った結果が眼前に示されていた。


 リーンの立っているすぐ先の地面にはクレーターが出来上がり、ポッカリとした穴が出来上がっている。

 的だけではなく、地面も壁も何もかもが失われており、その光景を前にリーンは満足そうに頷いた。


「ふむ……ま、こんなもんじゃろ」


 最上位とはいえ、正直あまり強力なものでもないので、賢者学院に通うような者であれば見慣れたものである可能性はある。 

 だがさすがにこれを見せれば、調子に乗っているなどと思われることだけはあるまい。


 とりあえずはそれだけで十分だろうと、さあどうだと思いながら後ろを振り返り……ふと、首を傾げた。

 何故だか、その場にいた全員が例外なく唖然とした顔をしていたからだ。


「ふむ……? どうしたのじゃ?」


 はて何をそこまで驚いているのだろうかと思い、すぐに、そういえば欠落者とは魔法を使えないと言われているのだったかと考える。

 とはいえ、ここまで驚くことなのだろうかと思いながら、リーンは不思議そうにさらに首を傾げるのであった。

 またちょっと長くなってしまいましたが、途中で区切るような場所もないのでこのままで。

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