9.エルフの覚悟
何とか無事に終わったようだと、リーンは死体と化したワイバーン――否、『ドラゴン』を遠視の魔法で眺めながら一つ息を吐き出した。
自分はほぼ見ていただけであったのだが、むしろだからこそ余計に疲労を感じたような気がする。
家族が戦っているのを眺めているぐらいならば、自分で戦った方が遥かに楽であった。
誰にも怪しまれる事がないようにと、神経を尖らせながらさり気なく魔法を使って援護したせいもあるのかもしれないが。
まあ、その場にいないのだから、ここまで気を使う必要はなかったのかもしれないが、万が一ということもある。
だがその甲斐あって、多分誰もリーンが手出しをしたことには気付いていないはずだ。
あとはそのうち、さり気なく兄と父の怪我を治療すれば、言うことはない。
随分と回りくどいことをしたものの、きっとその意味はあったことだろう。
何はともあれ、これで一段落である。
「さて……しかし問題は、まだ一段落でしかない、といったところなのじゃな」
もうこちらは大丈夫なはずだ。
しかし、まだ疑問が残されているし、何よりも全員揃ってはいない。
そしておそらく……その二つは、一つへと繋がっている。
疑問に関しては、単純だ。
あのドラゴンは、何故ここにいたのかということである。
あのドラゴンは、ドラゴンにしては弱すぎた。
下手をすれば、それこそワイバーンよりも弱かったのではないだろうか。
だがそれも、ある意味では当然だ。
あのドラゴンは、おそらく生後一ヶ月といったところだからである。
普通ならば人前に出てくる時期ではなく……いや、あるいは、だからこそか。
だから、森の中で隠れるようにして、寝ていた。
身を隠すのにちょうどいい森を発見したら、その近くに偶然人里があった、といったことであるならば、辻褄は合う。
……あるいは。
「ついでに餌としての役割も兼ねていた、ということも考えられるのじゃな」
しかし何にせよ、いるべき存在がいないということだけは確かだ。
親である。
ついでに言えば、確かワイバーンとされている存在は二匹いる可能性があるということであり、千年前であればドラゴン程度楽に狩れたであろう人物の姿は現在見当たらないということか。
加えて言うならば、本人の言によればそんな力は既にないらしい。
「ふむ……どうしたもんかの」
そんなことを呟きながら、リーンは一つ息を吐き出した。
「――ははっ」
思わず、笑いが零れ落ちた。
分かっていたはずではあった。
――自分に勝ち目がないことなど、分かっていたはずなのだ。
それでも、予想以上に手も足も出なかったことに、笑うしかなかったのである。
分かってたのに、もしかしたら、なんて思っていたなんて――
「……まったく、我ながら度し難いわね」
呟きながら、ごぼりと、赤黒い液体を吐き出す。
自分の末路を指し示すようなそれを眺めながら、しかしオリヴィアが思い出すのは、何故だかいつかの師の言葉であった。
「……ハイエルフでも、血の色は同じなのじゃな、とか……あの人は、人のことを何だと思っているのかしら。――ねえ、そう思わない?」
地面に横たわりながら、オリヴィアは眼前のそれに向けて言葉を投げかけた。
文字通りの意味で見上げるほどに大きく、全長は二十メートルほどか。
生物として考えると馬鹿げた大きさではあるが、最も馬鹿らしいのはこれでも小さい方だということだろう。
ドラゴンであった。
ぎょろりと見下ろす瞳の中には、知性の色が見て取れる。
だが、こちらの言葉に応える様子がないのは、人間の言葉が理解出来ないのか、話せないのか、あるいは話す気がないのか。
「……ま、どれでもいいことだけれど」
言いながら、ゆっくりと立ち上がった。
幸いにも四肢は健在だが、それだけでもある。
痛みがないのは魔法で消しているからで、きっと内部は酷いことになっていることだろう。
だがドラゴンを相手にしてその程度で済んでいるのならば、むしろ僥倖だ。
ワイバーンに何とか勝てる程度の今の自分では、ドラゴン相手に勝ち目がないことなど始めから分かっていたことであり……そう、本当に最初から全て、承知の上でのことであった。
この身はエルフだ。
エルフにとって森は庭同然であり、そこで何が起きているのか程度のことが、分からないわけがない。
この森にいるのがワイバーンではなくドラゴンだということも、二匹いるということも、片方が生まれたばかりの子供で、片方がその親だということも。
森に足を踏み入れた瞬間に理解出来た。
しかし、そのままを伝えたところで意味はないだろうことも分かっていた。
マティアス達は引くことはないだろうし……そうなれば、間違いなく師が手を出すことになる。
師は何だかんだ言って、身内に甘い。
マティアス達のことを家族としてしっかり認識しているということは、師の言動から明らかだ。
家族が死ぬとなれば確実に自分との約束などは守られないだろうという確信があるし、自分との約束に価値がないことなど最初から分かっていたことである。
だが、そうすれば誰も死なずに済むだろうが、あの家族の仲は壊れてしまう可能性が高い。
幼体のドラゴンであれば誤魔化しが利く程度の魔法行使で済むかもしれないが、成体のドラゴンを倒すのであればさすがに不可能だろうからだ。
そしてそれほどの魔法を放つことなど、自分でも不可能だということは皆分かっている。
となれば、疑惑が向く先は一つしかない。
師が欠落者であることを考えれば、尚更に。
それは最悪な結末で、誰も、オリヴィアですらも望んでいない結末だ。
あの夜に語った言葉は心の底からのものである。
……あるいは、自分は既に失ってしまった家族というものを、勝手に重ねて見てしまっているだけなのかもしれないが、それでも壊れて欲しくないと思っているのは事実だ。
だからこそ、オリヴィアは今ここにいる。
オリヴィアがこのドラゴンを倒しさえすれば、それで全て上手くいくのだ。
エルフが一人死ぬことになるだろうが、その程度は許容範囲だろう。
不出来な弟子が死ぬだけで……なら、師にとって何の問題もあるまい。
師が自身で言っていた言葉だ。
魔導士がある日唐突に死ぬことなど、珍しいことでもない。
オリヴィアが死を迎える日は、今日この時であった。
それだけのことだ。
否、本来であれば千年以上前に死んでいたはずなのだから、何一つ惜しむことなどあるまい。
無論、死なずに済むならそれが一番ではあるのだが……ここまでの時点でそれは不可能だということを悟っている。
やはり、現代魔法では成体のドラゴンに勝つのは不可能なようだ。
ドラゴンというのは非常に強大な力を持った種族ではあるが、その理由は主に内部に膨大な魔力を有しているためである。
その魔力はドラゴンの身体を覆い、強力な対物理・魔法の効果を持つ障壁と化す。
しかもその障壁を維持したままで、攻撃までしてくるのだ。
結果、ドラゴンは攻防に優れた存在となるのである。
これを倒す方法は非常に単純だ。
何らかの手段で、その障壁を貫けばいいだけである。
ただし単純ではあるが、簡単かどうかはまた別の話だ。
実際千年前では、魔導士見習いですら障壁を貫く事が出来ず一方的に蹂躙されるだけであった。
無論魔導士以外は言うに及ばずであり、ドラゴンに対抗出来たのは数少ない魔導士だけだったのである。
まあ、障壁を貫けさえすれば、基本的に巨体であるドラゴンは良い的でしかなかったので、魔導士にとっては下手をすればワイバーンよりも容易く狩れる相手でしかなかったが。
オリヴィアも何度か倒した事があり……だが、だからこそよく知っている。
それが可能だったのは、古代魔法の圧倒的な火力があってこそだ。
火力という点では遥かに劣化してしまっている現代魔法では、太刀打ち出来る要素がない。
確かに自分は師とは異なり、千年前の肉体を維持している。
だが千年前の魔導士は全員そうだが、魔導士があれだけの戦力を有していたのは、全て魔法で底上げしていたからなのだ。
身体能力を強化し、障壁を張り巡らし、圧倒的な火力を遠近問わず放つことが出来ていたから、ドラゴンが百匹いようとも構わず狩ることが出来たのである。
そのほぼ全てを封じられてしまった今の自分では、ドラゴンに勝ち目がないことなど自明の理でしかなかった。
……だが、無駄死にするだけであったのならば、オリヴィアはこの場にはいない。
何と言われようとも、強引に師達をこの森から連れ去っただろう。
そうしなかったのは、勝てはせずともドラゴンを倒す方法があるからであった。
そもそも、古代魔法が使えなくなったのは、魔導結界により魔力を外部に放出する事が出来なくなったからである。
厳密に言えば、放出された魔力は他の魔力と反発し合い、弾かれてしまう。
そしてこの世界は、万物に魔力が宿っている。
それは世界ですら例外ではない。
要するに、魔力を身体の外に放出した瞬間反発してしまうということで、だから実質的に魔力を外部に放出することは出来ないのである。
ドラゴンが魔力で障壁を纏えるのは、あくまでも自身に魔力を流しているだけだからだ。
外部に放出してはいないので弾かれることはなく、現代魔法が成立しているのも同種の理由による。
現代魔法は、世界に溢れている魔力を用いるからこそ、使用が可能なのだ。
同時にそれは、攻撃魔法が著しく劣化してしまっている理由でもある。
世界の魔力を使っても、相手にも魔力あるため大半が弾かれてしまうのだ。
魔法が顕現しても、その魔法は魔力によって成り立っている。
炎を作ろうが氷を作ろうが、どちらにしても弾かれてしまう、というわけだ。
そのせいもあって、現代では回復魔法も激しく劣化している。
擦り傷を治す程度ならばともかく、千年前のように失われた四肢を再生するなどということは不可能だ。
だからこそ、何故師は古代魔法を問題なく使う事が出来るのか、というところではあるのだが……あるいは、欠落者だからなのかもしれない。
欠落者という名に反し、彼らは何かが欠けているわけではない。
どちらかと言えば、多すぎるのだ。
内包している魔力量が、である。
世界の魔力へと干渉するに際し、自身の魔力は邪魔にしかならない。
そのことを生物として理解しているからか、現代の人類は内包する魔力量が千年前と比べると極端に低い者ばかりである。
そして特に低い者が、魔導士と呼ばれるほどに現代魔法に対して才を発揮するのだ。
だが欠落者は、千年前の魔導士を軽く凌駕するほどの魔力量を持って生まれる。
そのせいで世界への魔力にまったく干渉が出来ず、結果的に現代魔法は使えなくなるのだが……魔力量が多いからこそ、外部に放出する際、全て弾かれずに残るのかもしれない。
魔導結界が完璧ではないのは、ドラゴンが抜けてきてしまったあたりからも確実である。
ならば、そういったことが起こっても不思議はあるまい。
まあ、何にせよ――
「わたしには関係のないことだけれど」
千年前に魔導士であったオリヴィアは、現代の魔導士に比べれば遥かに多い魔力量を内包している……と、思われがちだが、実際にはそんなことはない。
というか、欠落者というのならば、むしろ千年前のオリヴィアこそが、欠落者であった。
何故ならば、オリヴィアの内包している魔力量は、ほぼゼロだからである。
だからこそ、現代魔法は問題なく使えるし、どころか世界でも十指に入れるほどの使い手となれたのだ。
では何故千年前に魔導士をやれていたのかと言えば、オリヴィアには内包している魔力量がほぼゼロな代わりに、二つの特徴があったからである。
一つは、世界に溢れている魔力を吸収し、自分の魔力へと一時的に変換可能だということ。
そしてもう一つが、器だけは千年前の魔導士と同等程度にあったということだ。
要するに、オリヴィアは時間さえかければ、千年前の魔導士と同じ魔力を、一時的にとはいえ身につける事が出来たのである。
そうすることで何とか魔法を使えるようになり、魔導士と呼ばれるまでに至った。
だから本来オリヴィアは、元似非魔導士と呼ばれるべきであり……だが、そんなオリヴィアだからこそ、今は出来る事がある。
そう思って、ドラゴンの姿を見据え――瞬間、ドラゴンの様子が変わった。
まるでこちらのことを嬲るように、何もせず悠然と立っていたというのに、不意に彼方の方角へと顔を向けると、直後にその口を大きく開け、激しい鳴き声を上げたのだ。
『――グオォォォォオオオオオオ!!!!』
それは、オリヴィアには怒りの咆哮のように聞こえた。
そして同時に、理解する。
どうやら向こうは、上手くやれたようだ、と。
ドラゴンが顔を向けた先は、師達のいる方角であり、たった今ドラゴンの子供の命の灯火が消えた、ということから考えるに、間違いあるまい。
「……ま、あの人ならば、当然だけれど」
オリヴィアは、師がやったに違いないと、確信を持っていた。
幼体とはいえ、ドラゴンはドラゴンだ。
直接的な戦闘力はワイバーンの方が上な可能性もあるが、莫大な魔力を持っていることに違いはないのである。
現代魔法だろうと武器だろうと、傷一つ付けることは出来まい。
倒せる可能があるとすれば、師だけだ。
師は馬車で待機しているはずだが、師にとってこの程度の距離はないも同然である。
その程度のことは、最初から想定の内であった。
ただ、問題があるとすれば……師は結構迂闊だということか。
本人は完璧だとか思っていても、抜けていることも多いのだ。
幼体のドラゴンを倒すのに大した魔法は必要ないはずだが、傍から見ていたら明らかに不自然な状況だったということになっていたとしても、不思議ではない。
もっとも、原因に至ることはないはずだ。
客観的に見れば、師は馬車にいたのである。
多少不自然であったとしても、そこで師に繋げるほどあの家の者達はぶっ飛んではいないはずだ。
それに……どうせすぐに、それどころではなくなる。
「さて……あちらは片が付いたようだし、あとは――」
こちらだけ、と、そう思った瞬間、オリヴィアは鬱蒼と生い茂る木々を見上げていた。
「な――ごほっ!?」
何が、と呟こうとした直後、口内に溢れた血を吐き出す。
そうしてとりあえず起き上がろうとし……気付いた。
自らの腹部が、ごっそりと半分ほど失われていたのである。
「……なるほど、ね」
だが、魔法で痛みを消しているせいもあってか、それを見て得られたのは納得であった。
おそらくは、ドラゴンの尻尾か爪で以て吹き飛ばされた、ということなのだろう。
攻撃されたことはおろか地面に叩きつけられたことすら認識出来なかったということは、かなりのものを叩き込まれたようだ。
下手をすればそれだけで死んでいてもおかしくはなく、今までの攻撃とは比べ物にならないものであった。
「そう……まあ、そんなことだろうと思ってはいたけれど……やっぱり、嬲られていた、ということみたいね」
力量差がどれだけあるかなど、見るまでもなく分かっていたのだ。
ここまで四肢が無事であったことを考えれば、間違いなく嬲られて遊ばれていた。
しかしそのことを理解していながら、オリヴィアはそれに乗ったのだ。
そうしなければ、時間が稼げないから。
そして、もうその必要はなくなった。
かなりギリギリであったが……間に合ったのだから、上出来だろう。
そう思ったのと、何かが空から落下し、轟音を響かせたのは同時であった。
眼前にあるのは、最早見慣れた姿。
「わざわざ空を飛んでくるなんて、どうやらかなりご立腹みたいね?」
ドラゴンに向けてそんな言葉を投げかければ、ギロリと瞳を向けられた。
先ほどまでと異なり、そこには明確な怒りがあり、殺意がある。
次の瞬間に殺されてもおかしくはない。
いや、このドラゴンはそのつもりだろう。
だが、だからこそオリヴィアは笑みを浮かべた。
予定通りだ。
この身には、現在莫大な魔力が渦巻いている。
ドラゴンと戦いながら、ずっと吸い続けていたのだ。
今この時だけは、オリヴィアの内包している魔力量は、千年前の魔導士に匹敵する。
無論、だからといって古代魔法を使うことは出来ない。
それは実験済みだし、魔導士の誰もが使うことは出来なかったのだ。
今更使えるわけがない。
しかし、魔力があることだけは確かなのだ。
そして、外に出してしまえば反発してしまうのならば、外に出さなければいいだけである。
だが障壁とするだけでは、ドラゴンに対し有効打とは成り得ない。
だからもう一つ工夫が必要だ。
たとえば……術式を身体の内側で展開するとか、である。
しかし、魔法は術式を中心にして展開するものだ。
そして術式は与えられる魔力に限りはなく、ただし許容量を超える量を与えてしまえば術式ごと自壊する。
さらに言えば、身体の内側に展開された術式は、内包する魔力の全てを吸い取ろうとしてしまうので、魔法を学ぶ時に絶対にやってはならないと教わることだ。
だがそれは、古の魔導士にとっての、最後の手段にして切り札でもある。
魔力と術式のオーバーロード。
つまりは、自爆だ。
そう決意したせいか、あるいは単純に膨大な魔力を解放し始めたからか、瞬間、ドラゴンの動きが妙にゆっくりに見えた。
口を大きく開けようとしていることを考えるに、どうやら食らいつくつもりであるらしい。
好都合であった。
自爆をしたところで、魔導結界の影響がなくなるわけではない。
かなりの威力になるはずなので、ドラゴンの障壁を貫く程度の威力は残ると予想はしているものの、攻撃してくる瞬間に合わせても正直殺しきれるかは自信がなかった。
しかし内側から自爆してやれば、さすがに死ぬだろう。
安堵の息を吐き出しながらのんびりとその時を待ちつつ、術式の展開をするのは食われた後がよさそうだと考える。
気付かれてしまえば少し面倒なことになるかもしれないので、その方が確実なはずだ。
ここまで余裕を持ってドラゴンの動きを見切る事が出来るという時点で、あるいはこのままやり合うことも可能性かもしれないが、その場合はおそらく火力が足りない。
さらには余計な警戒もさせてしまうので、やはりこれしか手段はないだろう。
だが何にせよ、これで、終わりだ。
正直なところ、こんな終わりを迎えることに悔いがないと言ったら嘘になるが……まあ、自分はこんなものだろうと納得してもいる。
魔導士達の頂点、十賢者の一人などと言われていようとも、所詮自分はこの程度なのだ。
師の前では恥ずかしくてそう名乗ることすら出来なかった時点で、そこまででしかない。
でもそんな自分でも、師のことを守る事が出来たのだ。
ならば、上出来すぎるだろう。
きっと――
「お師匠様も、褒めて――」
「――褒めるわけないじゃろうが、この馬鹿者」
言葉が聞こえたのと、眼前のドラゴンの姿が消えたのは同時であった。
吹き飛ばされた、ということに気付いたのはその数瞬後で、反射的に声の聞こえた方へと顔を向ける。
しかし、そこにいるのが誰かなんて確認するまでもなくて、だから、思わず言葉が漏れた。
「……なんで」
助けに来るなどないと思っていた。
そのはずであった。
所詮は十年程度世話になっていただけなのだ。
師と呼びどれだけ感謝し、慕っていようとも、向こうにとっては弟子とも思っていないのだろうということは分かっていた。
だから最初から、その可能性は除外していて……なのに。
純白の髪を翻しながら、すっかり見慣れたと言っていい姿で、師は呆れたような顔をしつつ溜息を吐き出したのであった。
本当は次の話と合わせて一話にしようと思っていたんですが、さすがに長すぎて無理だったので分割しました。