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春雷 千春の人生  作者: ドリーム
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親友咲子との再会

共に母となった親友であり恩人の咲子との再会

 昭和三十九年(1964)まもなく双子が入学すると知り、親友の咲子が久し振りに互いの子供達を連れて会おうと手紙が来た。その親友の咲子は五年前に結婚して一男一女をもうけた。千春も咲子も子育てに忙しく最近は疎遠になっているが千春にとって咲子は恩人である。確か子供は三歳と四歳になって居るはず。子供を連れて十年ぶりかに東京に出る。千春は心が踊った。小春と春樹はテレビを見て数年前に完成した東京タワーを見たいと何度も言っていた。咲子とその東京タワーの展望台で会う事に決めた。千春にとって子供を育てから初めての贅沢な一日となりそうだ。現在は廃止されているが木更津―川崎間のフエェリーがあった。三人はそのフェリーに乗り東京湾に出た。子供達は船に乗るのも海に出るのも初めてで大喜びしている。千春はそんな二人を見て思えば何もして上げられなかった。こんな母でごめんねと心で詫びた。今は元気だけと高熱を出したり怪我をしたりと、苦労がなかった訳ではない。それだけにこうして元気で入学を迎えるのは本当に嬉しかった。


 やっと苦労が報われた頃、ふっと両親の事を考えた。あれから一度も連絡していない。厳格な父だから怖くて連絡も出来なかった事は確かだが、今になって自分も親となって分る事がある。もし小春が私と同じことをしたら千春はおそらく発狂したかも知れない。六年ぶりに千春は両親に手紙を書いた。ただ住所は知らせなかった。風の頼りでは今でも酒造業は続けているらしいが細かい事は知らない。

「あなた! あなた千春から手紙よ。元気なのかしら一体どこで何をしているのよ。でも手紙が来たと云う事は生きて居るのね。それだけでも良かった」

「なんだって千春から手紙。あの親不孝者め。今更なんだっていうのだ。まさか金が底を突

き助けを求めて来たのか。だが遅い! 勘当覚悟で出ていったのだから俺は知らん」

「なんでそんな意地悪な事を言うのよ。強がり言ってもたった一人の娘よ。もっとあの子の気持ちを考えてやるべきだったのでは」

「もういい。とにかく手紙を読んで見ろ。親不孝でもたった一人の娘に違いない」


『あれから六年の月日が流れましたね。勝手に出て行った私を許してとはい言いません。お父さんもお母さんも息災でおりますか。今だから本当の事を申します。私には当時好きな人がいました。そんな時に縁談の話が持ち上がり私はどうして良いか分からなくなりました。勿論家の跡を継ぐ事は分っていました。でも好きになった人と別れる事が出来ませんでした。そしてその好きな人に私を連れて逃げる勇気があるかと問いました。もちろんと言ってくれると思いました。だがその人は優しく良い人ですが気が弱い所があり結局は私から逃げてしまいしまた。もう私も諦め、お父さんの言う通り縁談の話を引き受けようとした時、妊娠している事が分かったのです。ふしだらな女で申し訳ありません。でも気が付いたら妊娠三ヶ月になっておりました。でも別れた人は知りませんし言う気もありません。こんな事をした私をお父さんが許してくれる訳がない。更に世間の笑い者になるでしょう。仕方なく友人の力を借りて温泉旅館に仲居さんとして働かせもらい、そこで子供を産みました。いまやっと親の気持ちが分かる気がします。驚くでしょうが双子だったので本当に大変でした。今年の春に小学校に入学する予定です。娘の名を小春、息子は春樹と名付けました。私のせいで父親の居ない子ですが、とても良い子に育ちました。そうお父さんお母さんにとっては孫ですよね。出来るなら孫を見せたいのですが、こんな親不孝の産んだ子は見たくありませんよね。私は元気です。親不孝者です陰からお二人の幸せを祈っております』


「あっ貴方! 双子だってよ。しかも男と女」

 双子が生まれたと知り千春の母、春子が号泣した。親にも言えない事情があったとは。過ちを犯した千春だけを責めるのはおかしい。親にも相談出来ない状況に追い込んだ親も悪い。春子は一徹をキッと睨んだ。

「貴方が厳し過ぎるのよ。たから千春は本当の事を言えなかったのよ」

「馬鹿な、ふしだら事をした娘をどう許せと言うんだ」

「それが厳格過ぎると言うのよ。もっと娘の気持ちを尊重してやれば相談してくれたはずよ。そうすればこんな事にならなかったのに」

「それにしても相手の男はなんて野郎だ。見つけて半殺しにしてやろうか」

「今更なにを言っているのよ。その相手の人も子供が出来た事を知らないのよ。もし知って俺の子だからなんて言ったら大変よ。そんな知らない男に孫を渡せますか」

 春子は手紙が届いてから居ても立ってもいられない様子だ。一徹も落ち着かない。怒りと安堵と入り混じって複雑だ。だが双子の孫が居ると知ってどうしようか迷っている。

 こんな時に打算的だが一徹は孫が跡を継いでくれるとふっと思った。

「貴方、この手紙を見て住所は書いてないけど切手の所にある消印に木更津とあるわ」

「なんだって千春は千葉に渡っていたのか。俺達は横浜や湘南などを中心に探したのに、まさか千葉に住んでしたとは。考えてみればフェリーを使えば千葉へ簡単に渡れた。盲点を突かれたな。よしじゃあ木更津に行って見よう」

「えっ勘当だといつも言ってたじゃない」

「そりゃあ従業員の手前、そう言わないと示しが付かないだろう」


 そして千春と小春、春樹は憧れの東京タワーに登った。展望台から見る東京の景色は沢山の建物や大きなビルが出来て戦後の焼け野原のような景色と一変し驚きと感動を覚えた。子供達は大喜びしている。其処に咲子と咲子の子供二人がやって来た。三年ぶりの再会である。二人は顔が合った瞬間抱き合って喜んだ。子供達はビックリしている。

「千春、久し振り元気そうで何より」

「咲子、貴女も元気そうで。あらぁ可愛いわね。二人とも咲子に良く似ているわ。あれ? 旦那様は一緒じゃないの」

「うん、仕事が忙しくて。それに小春ちゃんと春樹くんに気を使って楽しんでおいでと送り出しくれたの」

「別に気を使わなくてもいいのに。それにしても優しい旦那さんね」

 東京タワーで楽しんだあと、お昼ご飯を六人で食べた。子供達はお子様ランチだ。乗物の器には日の丸の旗が立って居た。ハンバークとオムライスのセット。子供達は大喜びしている。そして小春と春樹は咲子の子供とすぐ仲良くなった。それを見て咲子は。

「この子達も大きくなって私達と同じく親友になれたら最高だね」

「本当ね、私もそうなって欲しい。そして咲子とは互いに白髪になっても行き来したいわね」

千春にとっても子供達にとっても忘れられない最良の日となった。また再会を約束して別れた。



つづく

あれから八年共に大人になり母となり成長した千春

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