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ある土曜日  作者: hyo
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05

見ず知らずの少年を迷子案内するわけにもいかず走り回って探すうち、私は導かれるようにショッピングモールの入り口に戻っていた。

さすがは土曜日、家族やカップル、ごった返す人の流れが私の視界を塞いでいく。


広場の中心に立つ飾りっ気のない時計台が、見計らったように16時の鐘を鳴らした。

私はドッと疲れが出て、時計台の麓にスペースを見つけへなへなと寄りかかった。

行き交う人がチラチラとこちらを盗み見ていく。

待ち合わせスポットのこの場所でこんなに疲れているのも珍しいのだろう。


「だーれだ!」


ほぼ閉じかかっていた視界は、予想外にも何者の手で完全に閉ざされた。

チラチラと見られていたのは私の顔が疲れて歪んでいたからではない。

この手の主が不敵な笑みを浮かべながら、背後に忍び寄っていたからだ。

そして私には、この手の主が次にすることも手に取るように分かっていた。


私の目に被せた手を解くと、ポンッと両手で背中を叩かれた。


やれやれと振り返り、見上げるように少し顔を持ち上げる。

そこにあったのは、ニコニコと笑みを浮かべた見慣れた顔だった。



「朝から連絡してたのに、一切返事ないんだもんなぁ。」


ショッピングモールを離れ近くの河川敷を並んで歩きながら、彼はけらけらと笑った。


彼と知り合ったのは高校2年生のときだったか。

波長が合った私たちは別々の大学に進学した後も連絡を取り合っていて、お互い何かあるたびにこうして顔を合わせている。


朝からドタバタしていたせいですっかり忘れていたが、今日の夜は彼とご飯にいく約束をしていたのだ。

発信は彼からだった。

ただ、話したいことがあるなんて呼び出されるのは少し珍しかった。

そんなことも、携帯の画面を割った所から始まる今日1日のドタバタの中で、すっかり記憶の彼方に飛んで行ってしまっていたけれど。


「まぁでも、賭けには勝った」


私はそういう彼を横目でちらりと盗み見た。

夕日と呼ぶにはまだ早いが、少しオレンジ色に染まり出した陽の光を一身に受けた彼の横顔は、何か決意を決めてすっきりしたような、それでもどこかこわばっているような、長い付き合いの中であまり見たことのない顔をしていた。


でも、初めてではない。それは確かだった。


河川敷の歩道は、気持ちいいくらいに真っ直ぐに伸びている。

彼の歩くペースはゆったりとしたリズムで、私は彼に体を預けるように歩調を合わせながら、記憶の波に乗っていた。

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