Epilogue.もう一度
前話と同時公開です。
ご注意ください。
「この日が来てしまった……」
繁華街にほど近い場所。そこそこの人通りがあり、にぎやかで活気が見える通り。そこにあるビルの一階が、三崎の新たな店となった。
あの事件から三ヶ月。多少傷跡は残っているが、皮膚移植などでかなり目立たなくなった。
引きつる感覚は残っているが、医者によればしばらくすれば気にならなくなる程度におさまるらしい。
治療の途中から新たな店の場所を選定していたのだが、この場所を不動産屋から勧められたのは突然のことだった。
「飲食店のテナントを探しているオーナーがおりまして」
という言葉で始まった担当者が語る条件は、三崎にとって諸手を挙げて大歓迎したい内容だった。
「怪しいとは思ったんだけれどね」
事件以降、三崎は少々のことでは動揺しなくなっていた。良く言えば図太く。悪い意味では鈍感になっている。
貸主は不動産業者が代理人になっており、建物の持ち主は法人名義。御荘の差し金かと考えた三崎だったが、結局確認は取れなかった。
内装工事は二週間前に終わり、食材も手配通りに届いている。
資金は保険によって補填されたものの他に、どこからかわからない振り込みがされていた。
それが御荘からの“約束の金”だと気付いた彼女は、散々に迷った挙句、開業資金として使わせてもらうことにしたのだ。
雇い入れたスタッフの教育も終わっていて、インターネットやチラシによる広告も出しており、前評判も悪くない手応えを確認している。
そんな新しい彼女の店は、間もなくオープンを迎える。
店の前に立ち、飾りつけや看板に問題が無いことを確認し終えると、オープンを待つ行列へと目を向けた。
「いらっしゃいませ。間もなくオープンいたします。順番にご案内いたしますので、当店の特性ベーグルをご賞味くださいませ」
「もちろん。この日を楽しみにしていたんだ」
列の先頭に立っていた男性は、目深に被った帽子の下に微笑みを添えて、三崎へと祝福を伝えた。
「おめでとう。そして、俺の願いを聞いてくれて、ありがとう」
「どういたしまして。また感想を聞かせてくださいね。時間になりました。さあ、どうぞ」
扉を開いた三崎が促すと、男性は帽子をひょいと上げて感謝を示し、店の雰囲気から味わうかのように、焼き立てのベーグルの香りに満たされた店の中へ、待ちわびた第一歩を踏み出した。
最後までお付き合いありがとうございました。
書いていて楽しい作品でしたし、自分で書いていて「食べたい」と思える内容でした。
他の作品もよろしくお願いいたします。
では、また。