1話-3
目の前の青年はニコニコしながら、淀みなく俺に「この場所」の説明をした。
まるで何万回、何十万回同じ説明をしてきたかのように的確に。
人間は20年に一度、この裁きの場を訪れる。
ここでは20年間、その者が行った「善行」「悪行」が全て明らかにされる。
そして、
「精算するのです」
青年はカウンターの上に置かれた天秤を指差した。
銅色に鈍く光っているそれは、右の皿か白、左の皿が黒で、真ん中の支柱の上にハンドボール大の玉がついている。
「精算…」
「もちろん、キャリーオーバーも出来ます!」
青年はテレビショッピングでセールスをしているようなことを言う。
「善行だけ精算して、悪行だけをキャリーオーバーすることも…」
「ちょっと」
遮る。ちょっと待ってくれ。
「なんだよ。だから精算って」
ほんの少し目を丸くした青年は、小さな声で
「驚いた。この者はいささか察しが宜しくない」と呟いた。
聞こえてるぞ。不可思議な状況を受け入れるだけで精一杯だ。
青年は、仕方ない、とでも言いたげに、指を鳴らした。
ポンッという破裂音がして、空中に
白い衣服で頭の上に輪を浮かばせた人形と
黒い衣服で頭に2本の角が生えた人形が現れた。
2体の人形がポトリと情けない音を立てて床に落ちる。
青年はしばらく間をとってから
「いつまで寝とるんだ!起きんか馬鹿者共!」 と床に向かって叫んだ。
人形2体がふわふわと浮かび上がり
「そんなにカッカしないで下さい」
「そうですよ」
喋り出した。
もう、何が起ころうか驚くまい。
そう決めた矢先、また驚かされることになる。
白黒の人形が青年に向き直り口を揃えて挨拶した。
「ご無沙汰してます。【閻魔大王】!」