1話-1
どうしても足りない。
月末の諸々の支払い、それらを計算すると数千円、どうしても足りなかった。
「仕方ない。スケジュール的にしんどいけど、夜勤を入れよう」
俺は今年20歳を迎える。
高校を卒業し、大見得を切って実家を飛び出し、フリーターをしている。
祖母がよく言っていた。
「真面目に生きなさい」
くだらない。
「真面目に生きれば、きっと良いことあるよ」
ふざけんな、ババァ。
俺は、その言葉を信じて今まで生きてきた。
真面目に勉強をして、真面目に就活もした。
でも、悉く上手く行かずに、気がつけばため息をつく間もない人生だ。
ふざけんな。
学校でヤンチャをして、だらしない生活をしてるヤンキーには「悪そうでかっこいい」という理由でいつも可愛い彼女がいた。
ヤンキーにも縦社会があるらしく、先輩に可愛がられ、可愛い彼女と出来ちゃった婚をし、責任を取って結婚、多少背伸びをして工事現場などで働き、社会人として生きて、結果、幸せな家庭を築いている。
何だよこれ。ふざけんな。
「勉強できても、社会性がないねぇ君は」
前のバイト先の店長に呆れられた。
「それに比べて前田くんは愛嬌があっていい」
新しく入った茶髪の新人に笑顔を向けた。
そして、俺に
「君、もう明日から来なくていいよ」
なんだこれ。真面目になんて生きなきゃよかった。
テキトーに遊んで、悪いこといっぱいしてる人間の方が得してるじゃないか。
夜勤明けで眠い。原付を走らせながら涙が滲む。
だから、目の前に飛び出してきた男の子に気づくのに時間がかかった。
ブレーキが間に合わず、次にまともな考えが出来るようになったのは、病院に着いてからだった。