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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第一章 異世界に来た!
8/66

優しいLPF

外に出るとそこはベルーナの店の倉庫だった。

まったく自分の家でよくやるよ…。

時間はよくわからないけど薄暗いな。

街の雰囲気から夕方…まだ夕飯の時間ではないようだ。俺は道行く人を押しのけるように商人ギルドにむかった。


商人ギルドに飛び込むと、ちょうどベルーナが告発などというものをしているようだ。飛び込んできた俺の顔をみてポカンと口を開けている。それはギルド長ラッセンも、奥さんのトルテさんも、それになんか偉そうな制服を着たおっさんも同じだ。

俺は開口一番叫んだ。

「その話は出鱈目だっ!」

と、言ったところで俺は憲兵らしき人2人に左右からとりおさえられた。

「ま、まさか本人から出向いてくるとはねぇ。ヒヒッ」

一瞬早く立ち直ったベルーナが言う。意外と立ち直りが早いな…。

「ウィル君…」

「ウィルさん…」

ラッセンさんとトルテさんが少し困ったような顔でこちらを見る。

と、偉そうな顔をしたおっさんも、驚きから立ち直り話し始めた。

「この方がそのウィルなのですね?まさかこのようなタイミングで戻ってくるとは少し驚きました。とはいえ、お話しを戻しましょうか。

ベルーナさんの告発は、このマッサージ玉の回路を作ったのは自分であり、このウィルに技術を盗み出された…という訳ですな。」

「ヒヒッそうです。」

「テメッ、この野郎適当なことっ」

暴れても憲兵さんはビクともしない。

仕方ないので改めて首と目だけ動かして周りを確認する。この偉そうなおじさんは司法士のようだ。司法士というのは街の揉め事を裁く役割の人だ。

「ふむ、その証言だけでは正しいかどうかはわかりませんね。取り敢えずお話しからすれば、あなたはこの、マッサージ玉を、作れるということになる。作っていただけますか?」

「ヒヒッ、モチロン」

そう言うとベルーナは司法士からガラス玉を受け取り回路を書き込んだ。

「ヒヒッ。できました。」

「ふむ…、これは…」

司法士が魔力を込めるとそれは振動する。

「…なるほど」

司法士はひとまず納得したようだ。

だが。違う。違うことを俺は知っている。

「違いますっ。それはマッサージ玉じゃない。俺が作った本物と比べてみて下さい!」

「ほう?同じように動いているようにみえますが…。どなたか彼の言う本物というものをお持ちではないですか?」

「あ、それなら私が…」

そういうと、トルテさんが奥に引っ込んだ。少し待っているとトルテさんが彼女のマッサージ玉を持って現れ、少し恥ずかしそうに司法士に手渡した。

司法士は左手にベルーナの、右手に俺のマッサージ玉を持ち、同時に魔力を込める。

「どれ…ふむ、確かに違う。ベルーナ氏の物のほうがらより強力に振動しておりますな。」

「ヒヒッ、それは私が日夜研究を重ねているからです。この男が、盗んだのはまだ未完成品でね、完成させてから発表しようとら思っていた所、先に未完成の盗品を発表されてしまったとらいうわけです。」

よくもまぁ、嘘八百ならべられるものだと感心してしまう。そっち方面の頭の回転は結構いいかもしれない。だが、違う。俺は落ち着いて言った。

「司法士様、そうではないんです。そのまま掛ける魔力を強めていってください。」

司法士が魔力を込めるに従ってベルーナのらものは振動は強くなるが、俺のは一定以上にはあがらない。

パリ〜ン

と、綺麗な音を立ててベルーナの物は割れた。

「こ、これは…」

「材質がガラスである以上、一定以上の力を込めたら割れます。そうならないよう、リミッターをかけているんです。それに発振回路の出力波形は荒いんです。だから、フォスに信号を入力する前にローパスフィルターを使って波形をなめらかに、動きをなめらかにしてるんです。それが私の物のほうが振動を弱く感じた理由です!」

「ろーぱすふぃるた?…専門用語はよく分かりませんが、確かにウィル君の物のほうが柔らかい動きをしていましたねぇ。」

そういいながら、司法士は割れてしまったガラス玉をそっと、テーブルにおき、ローブについたガラス片をかるくはらっている。

手に持たせたまま割らせたのはまずかったかもしれない。

冷や汗をかいたおれだが、それ以上にベルーナが慌てている。

「だ、たまされてはいけません。こいつは出来なかった事を正当化しようとしているだけなんです。」

慌てだしたベルーナを見て、俺は大分落ち着いてきた。

「ベルーナ、それは失言だろ?俺にとってお前の回路を再現するのが造作もないことなくらい分かっているはずだ。なんならこの場で作ろうか?」

「分かっているとは、どういうことかな?」

「はい、自分は昨夜からこのベルーナに監禁されていたのです。そして折檻をうけ、回路の仕組みを、教えろと言われました。」

「そ、それは…」

「司法士様、出鱈目です。耳をかしてはいけません。」

まったく、よく言うよ。

止めを、さしてやるか。

「じゃぁベルーナ。回路の仕組み、説明してみろよ。」

「そ、それは…」

ベルーナの顔が赤から青くなる。因みに囚われた時、仕組みの説明はしている。まぁ、何処まで理解しているかという話しだ。それに、もし完璧に答えられたとしても問題ないのだ。

「重要な回路だから詳細は言えない。だが、ノルテのスペルだ。ノルテのスペルで振動する波を作っている。帰還…そう、帰還回路だ。」

30点

まあ、俺の言っていた単語を必死に並べたのは認めよう。と、ラッセンが助けを求めるような顔でこちらをみた。でもおれは敢えてなにも言わない。俺が言ったら弱くなる。

その意図に気づいたのか、此処まで沈黙だったラッセンがため息をついて言った。

「ベルーナ?何を言っているんです?あのマッサージ玉にはノルテのスペルなど使われていませんよ?」

「え?な、なにを?そんなはずはない。元にこうして私は作ったではないかっ」

ベルーナが吠える。

まあ気持ちはわかる。ベルーナはnot回路を使った発振回路しか知らないのだから。他の発振回路があるなんて想像すら出来ないに違いない。だが、それが全ての証拠になるのだ。

と、司法士が、困ったような顔でこちらを見ている。そろそろ助けを船をだそう。

「説明しましょうか。ところで、そろそろ放してもらっても?」

といって俺の両手を抑える2人の憲兵をみる。

憲兵が困った顔をするが、司法士が一つ頷くと放してくれた。

「さて…」

立ち上がり、俺はみんなを見回す。なんだか密室トリックを暴く探偵の気分だ。

実は、一度やってみたかったんだよね。

俺は少し鷹揚な口調で話しはじめる。

「実は私はこのギルド入会の時にギルド長のラッセンさんにこのマッサージ魔法の回路を説明しているのです。だからさっきラッセンさんはノルテスペルなど使われてないはずだと発言したわけです。そうですよね?」

「ええ、そうです。基本スペルだけで組み上げられた非常に美しい回路だと思いましたからよく覚えていますよ。」

「ありがとうございます。あれはマルチバイブレーション回路と言うものを使いました。対してベルーナに教えた回路はノット、いえ、ノルテのスペルを使った反転帰還型発振回路です。どちらも発振回路ですが、全然違う回路なんですよ。」

ここで一旦間を置く。みんなに、事実を、よく認識してもらうために。

みんなの頭がまとまった頃を、見計らって最後の答えを言う。

「私がベルーナから回路を盗んだというなら、なぜベルーナはマルチバイブレーション型の回路を知らないんでしょうか?」

「ま、マルチ…?な、なんだそれは。貴様卑怯だぞ…」

ベルーナが震えながらいう。

まったく、自分のことは棚にあげるどころか、屋根裏部屋にでもしまってるのではないか?卑怯などと、よく言えたものだ。

「…ふむ…答えは出たようじゃの?」

「ち、違う。こいつは出鱈目言ってるだけだ…」

まぁ、ベルーナには今の回路の話なんてチンプンカンプンだろうし、出鱈目と思ってもしょうがないかもしれないな…などと油断してたのがまずかった。

「だいたいコイツは詐欺師だっ。こいつはグルダ出身なんかじゃないっ。」

し、しまった。

言わせる前に終わらせてしまうつもりだったのに…

「どういう事かね?」

一度場を閉じようとした司法士が再びベルーナに向き直る。

「ヒ、ヒヒッ、司法士様。私はグルダの村の出身なんですよ。この街には他にグルダ出身の奴はいるから聞いてもらってもいい。そんで、こいつもグルダ出身ってことらしいんですがね、違うんですよ。グルダにはハーモニクスなんて姓の奴は1人もいません。ヒヒッヒヒヒッ」

少し余裕をとりもどしたのか、トレードマークのヒヒッ笑がでてきた。

こいつは分かっているのだろうか。今更俺の嘘を暴いたところでこいつ自身の罪とはまったく関係ないということに。この話はどちらが本当のことを言っているかわからない時に言うから意味があるカードだ。

だからベルーナの作戦で言うならば、回路の中身については企業秘密とかいって一切ふれず、安全機構も、つけ忘れたとかいって、あとは盗まれたと連呼してればよかったのだ。

だが、確定的に明らかにベルーナの嘘がばれた後では、俺に対する単なる嫌がらせでしかない。まったく腹立たしい。

と、ため息まじりにラッセンがベルーナの前にだった。

「ベルーナ。君はさっきからメチャクチャ言ってますねえ。大丈夫ですか?司法士様を混乱させるのが目的ですか?」

「な、なにを?」

ラッセンがなにを言いたいのか分からずベルーナはいぶかしげな顔をする。ちなみに俺もしている。

「ウィル君はグルダ出身じゃありませんよ?」

「「なん…だと…」」

思わず俺とベルーナの声がかぶる。もちろん俺のは心の中の声だが。

「トルテ。持ってきてください」

「はい」

と、直ぐにトルテさんが一枚の紙を持ってくる。俺のギルド入会申請書だ。

それをラッセンさんが受け取ると読み上げる。

「ウィル・ハーモニクス。出身、帝国領シースの村…この通りです。」

そう言ってベルーナに見せる。ベルーナは目を白黒させながら書類を見る。

続いて司法士にも、見せた。俺も横から覗き込む。

確かに。出身が帝国領シース村になってる。

…って、…何処だよ、それ。

「ふむ、往生際の悪いことよな。憲兵、その者ベルーナを牢に放り込め。」

言うや手早く憲兵がベルーナを縛り上げる。

「よ、よせっ。俺は魔法学校出身のエリートだぞ。畜生、よくも騙しやがったなっ、テメッ絶対に許さないぞ!」

騙したとは人聞きのわるい。ちゃんとマッサージ玉の回路は教えたのだ。亜流だけど。

と、叫んでるうちにあっという間に外に連れて行かれた。流石に手際がいい。

「ふむ、それでは私も帰るとしよう。」

ベルーナが連れ出されたのを見届けて司法士が言った。

「お手数をおかけしました。」

ラッセンさんが頭をさげ、俺も吊られて頭をさげた。

「いや。なに。お互い仕事じゃ。ではまたな。

そうそう、調書を取るために後日司法局の事務方がくると思う。囚われていたとなると現場検証もあるだろうが、協力をよろしくな。」

「あっ」

現場と言われて思い出した。

「囚われていたところに奴隷の女の子がいたんです。逃げるために縛り付けてきちゃって…」

「ふむ、分かった。それは早めに回収するよう言っておくことにしよう。では、さらばだ」

そう言うと司法士は扉を出て行く。なんかえらい雰囲気の人だったな。

ふぅ…

なにはともあれ一件落着だ。


…目の前の事に囚われ、全然落着してない事に俺は気づいていなかった。


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