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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第一章 異世界に来た!
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発振回路の行方

剣と魔法とオームの法則7


「…お。おい。本当にこいつの持ち金全部もらってあいのか?」

「ヒヒッ、構わないさ。そんな端金のためにこいつを連れてきて貰ったわけじゃないからね」


現在の所持金 0


俺は嫌な声を耳にしながら目を開けた。

…何も見えない。

手足も動かない。座った体制のようだが、体も動かない。

頭がガンガンする…。

「おや、起きたようだね。聞こえるかい?ヒヒッ」

頭に響く高い声。特徴的な笑い方。

こんな喋り方をする奴は1人しかいない。

「ここはどこだ、ベルーナ…」

酒に焼けて掠れた声で俺は言った。

「おや、ばれているのか。なぜばれたんだろうねぇ、ヒヒッ」

そう言うと、目隠しが取られた。ベルーナだ。いつものヒネタ笑みをうかべている。

あたりを見回す。荷物が雑然と置かれている。

…古い納屋のようだ。

「どうしてこんな事を…」

「チミのねぇ。あのマッサージ玉だっけ!アレの回路を教えてもらおうと思ってね。」

「…断ったら?」

ベルーナが手に持つ杖を振り上げると横殴りに俺の脛を叩いた。

鈍い男、一瞬遅れて激しい痛みが俺をおそう。

悲鳴は我慢したが涙が勝手にでてくる。

「ぐ、あぅ…」

「魔法学校卒業したエリートと、魔法の語らいができるのだ。光栄に思いたまえよ。ヒヒッ」

「く。くぅ。…わ。わかった、教える。」

素直に教えるのは癪だが、もう殴られたくない。我ながら情けない気もするが、早々にギブアップだ。

別に大した回路じゃないし、痛い思いしてまで守るものではない。ていうか、何でこいつはこんな手段に出たんだ。一応世話にはなっているし、聞かれりゃ普通に教えただろうに…。

「ちなみに。魔法で逃げようとしても無駄だよ。君の魔法は今、その首輪で封じているからね。その首輪は10マジカ以下の魔力の放出を完全に妨げるんだ。君では抜けられないよ。ヒヒッ」

確かに、魔力のを、流そうとしても、全然ながれない。

10マジカ…か。


そして、俺は縛られた体制のまま、口頭で回路をせつめいしようとしたが、これが難業だった。

こいつ、はっきり言って頭が悪いのだ。

何を言っても全く理解しないベルーナ。しかも、わからないと「馬鹿にするなっ」とかいって殴ってくるからたちが悪い。

三時間も教えたらぐったりしてきた。多分素子の基本的な挙動を理解してないのだ。



「よし、完璧だっ」

といってベルーナがおもむろに立ち上がった。

なにが完璧だ。結局回路の形を丸暗記したのと、周波数を変える抵抗がどれかを覚えただけじゃないか。こいつは一切素子の駆動を理解しようとしないのだ。

と、そんな俺の思いはつゆしらず、喜色満面にガラス玉に覚えた回路を書き込んでいる。

「ヒヒッ。さすが僕っ。完璧じゃないっ、見ろっ」

そう言ってベルーナが作ったマッサージ玉を見せてくる。それは俺が作るものよりかなり荒い振動をみせていた。

「さすが天才、チミが作ったものより遥かに激しく、強く揺れてるよ。いゃぁ、これはやっぱこの回路のオリジナルは僕ってことだよね?だって僕の回路の方がすぐれてるんだから。」

僕の回路?優れてる?…なにを言ってるんだこいつは?

「よし、今からギルドに談判してくるよ。チミが僕の技術を、盗んだって。」

え〜っと…技術特許的な話を、してるのだろうか?しかし、バイブレーション回路は俺の方が先に出しているのは明確だ。今更そんなのが、通るわけが…。

「通るわけがないと思うかい?でも、君が嘘つきだって事がわかれば、みんなは僕を信じると思うよ?ねぇ、グルダ出身のウィル君。」

グルダって一体なんだっけ…と、考える。

嫌な汗が背中を流れる。

俺が街に入るときに使った偽りの出身地だ。

「いやぁ、チミも、グルダ出身とは思わなかったよ。だって、あの小さな村で僕はハーモニクスなんて苗字聞いた事がなかったからね。今度、他のグルダ出身の人にも聞いてみるよ。ひょっとしたら、チミの友達が、いるかもしれないもんねえ」

まさか、ベルーナがグルダ出身とは…。

まずいな、それがバレると。場合によってはこいつの言う通り、俺が回路を作ったという事まで疑われるかもしれない。なんだかんだ言っても、俺は流れの新参者。ベルーナはここの長年の住人なのだ。一箇所ほころびが出来たら、もう信頼は取り戻せないかもしれない。

「まぁ、そういうわけだから、早速談判に行ってくるよ。ユリス!こっちにこい。」

ベルーナが声をかけると程なく1人の女の子が入ってきた。

その姿を確認するなり

「遅いよっ」

と女の子の腹を杖でついた。

相当強くついたのか、女の子はうずくまりながら吐く。

「ふん。飯をくってやがったのかよ。こっちが一生懸命勉強してるってのに、いい身分だね。チミはっ」

「ゲホッ。申し訳ありませ…」

少し苦しそうに息を吐きながら無感情に謝罪する。

見ると顔の頬の辺りと、額から頬にかけて大きな火傷の痕がある。髪は短い青髪だ。ショートヘアというよりも、単純にボサボサ頭といった方がいい。殆ど手入れなどしていないのだろう。着ているのはワンピース…いや、貫頭衣のようだが、汚れていてボロ袋をかぶっているようにしか見えない。目はくぼみ、死んだ魚のように力がない。

「まぁ、いい。その汚いのを片付けとけよ。あと命令だ。」

女の子、ユリスの目に少し緊張が走る。

「俺は飯に行ってくるから、そいつを見張れ。逃げようとしたらこの棒で叩いて止めろ。」

「…わかりました、ご主人様」

彼女がそう言うのを確認すると、吐瀉物を片付ける彼女をわざと蹴っ飛ばすように部屋を出て行く。


ベルーナが出ていくと急に部屋が静かになった。

彼女は吐瀉物の処理を終えると無言で部屋の出口脇の椅子に、木の棒を持って座った。

「な、なぁ」

俺の呼びかけに答えはないが、目線はこちらに向く。

「逃がしてくれないか?」

「出来ません」

即答だった。まぁ、そうだろうが、諦める訳にもいかない。

「どうしてもダメか?」

「私は奴隷です。ご主人様の命令にはこの隷属の首輪をしているかぎり背けません。」

そういって、俺に首輪を見せた。

「それは?」

「ご存じないのですか?奴隷に付ける首輪です。この首輪に登録されたご主人様の『命令』に背くと首が締まります。それに、ご主人様からの最終処分命令が発せられると毒の針が首に刺さって死にます。」

そういうものがあるのか…。

先ほどの彼女に対する扱いはロクなものでなかった。そこから、一緒に逃げようという方向に話をしたかったが、そんな首輪があるのでは無理だ。

「ちなみに、命令を守ろうとして守れなかった場合は?その場合も締まるの?」

「いいえ、その場合、首は締りませんが、命令を守れなければご主人様からのお仕置きをうけます。」

「ご主人様が犯罪者とかになったらどうなるんだ?犯罪者でも、奴隷はもてるのか?」

「…わかりません。もしご主人様が死亡した場合は、引き継ぎ契約があればその方に、そうでなけれび奴隷商人に引き渡されるんだと思います…。」

…なるほど。でも可哀想だが俺も逃げなくては大変な事になる。

取り敢えず力場をこっそり展開する。力場の展開は成功。普通に回路は構成できそうだ。フレイミで火を出してみる。

…でない。回路は作れても、魔力は流れない。

だが、回路が組めるのならば…

チャージポンプで出力を4倍増してみる。

かなりの抵抗はあるが、魔素が動き出すのを感じる。

……成功だ!

ユリスに見えない背中側の手の平に小さな炎をが生まれる。

この魔封じの首輪は魔力の出力に対して、一定の値、今回は10Vまでのオフセットを履かせるようなものだ。だから10Vまでは魔素がピクリとも動かない。

11V出力してようやく、1Vだせるのだ。

さてと、これでどうやって脱出するかだが…

やはり目の前の女の子はを突き飛ばしてでも行くしかないか。

俺は意を決して手枷を、焼き切った。ちょっとやけどをしたと思うが気にしてられない。

ユリスが驚いた表情で抱えるように木の棒をを抱きしめるように抱える。

気にせず俺は首輪をとり、足の縄も焼き切る。

「や。やめて。逃げないでっ」

彼女は俺に向かって木の棒を振り上げる。

しかし、震えて振り下ろす事ができない。

俺はそれを横目に立ち上がる。

彼女はまだふりおろせない。と、

「カ、カフッ…クッ」

首が締まってきたらしい。拍子に手にした棒をおとしてしまい、さらに首輪が閉まる。

「ヒッ…やめて…逃げない…で」

「…ごめん」

そう、そんなわけいかないのだ。

「お…おねが….い…」

…くそっ

俺は木の棒を拾うとユリスの手に握らせる。

そして彼女の手ごと右手で棒を振り上げて、俺の左手に叩きつけた。


痛い…ああ、痛いさ。でもしょうがないじゃないか。


「!…ハッ、ハァ…ハァ…ゲホッ」

とうやら締め付けは解除されたらしい。

そのまま、彼女を俺が拘束されていた椅子に少し乱暴に座らせると、先ほど焼き切った縄の残った部分で縛り付ける。

そのあと、木の枝を取り上げた。

…大丈夫だ。首輪はしまってないようだ。

「君は必死に抵抗して、俺ともみあった末。椅子に縛り付けられた?いいね?」

「え、えっと…」

答えを聞いてる暇はない。俺はすぐに部屋を駆け出した。

ベルーナに殴られた右足を、引きずりながらだけど。





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