表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第七章 そしてたどり着いた。
64/66

それはロックインアンプの囁き

ユリスがどこにいるのかはわからない。

そのヒントになるのはこのモールス君だけだ。

モールス君の発信するPING信号の応答を受け取る回路。

雑多なノイズの中から、ユリスのモールス君からの返答だけを見つけるのだ。


不安はたくさんある。

結局どれだけやっても、モールス君の信号を拾えないほど遠くに行かれているかもしれない。

ロットンがモールス君を見つけて破壊しているかもしれない。

…そして、ユリスが自主的にモールス君の魔力を抜いているかもしれない。


だが、そんなことは悩んだって答えなんて出ない、やるだけやってみるだけだ。


俺は「ロックインアンプ」の作成に入った。


-----------------お久しぶりの電気のお話------------------

ロックインアンプは同期検波の一種だ。通常のアンプでは拾えないようなノイズに埋もれた信号を検波することが出来る。通常のBPFによるフィルタ回路に比べても一桁~二桁以上感度の向上を見込むことが可能だが、使用できるシチュエーションが限られるので注意が必要だ。

ロックインアンプはあるリファレンス信号に同期した信号だけを拾い出せるアンプだ。逆に言うと、このリファレンス信号に同期しないような信号は拾うことができない。なんらかのリファレンス信号がとれる時だけ効果を発揮する手法だ。


具体的な状況で言うならば、発光するLEDとその光を検知する受光機を距離を離して置き、その間になにか遮るものがあるかどうかを検知するような系に使えるな。よくある入場者カウンターのようなものだ。

挿絵(By みてみん)

この場合はファンクションジェネレータで作られたリファレンス信号に合わせてLEDを一定周期で明滅する。同時にリファレンス信号はロックインアンプ側にも送られ、同期検波が行われる。この方法ならば、ただLEDの光を検知するよりも感度よく光を検知することが可能だ。(もっとも入場者カウンタぐらいならば、ロックイン処理しなくても検知可能だが……。)


今回のケースでは、モールス君のPING信号を特定周期で発信し続ける。すると、ユリス側のモールス君も、それに同期して返信のPING信号を出してくれるはずだ。それをロックインアンプで検知するのだ。


------------------電気の話 ここまで------------

まぁ、はっきり言って無茶な話だと、われながら思う。

オシロスコープなしにそんな回路が組めるのか?

位相の調整をどうするつもりなのだ?


……答えは……気合と根性だ。


俺は一つ一つの回路を作っては作動確認を繰り返す。


・リファレンス信号発生回路

・APF(オールパスフィルタ:信号の位相を調整できるフィルタ)

・アナログ掛け算回路

・ローパスフィルタ

・アナログ掛け算回路(その2)


作ってはテストの繰り返しを毎日続けた。

くだらないミスで、回路は誤作動し、その原因究明に半日も費やした。

魔力を流しすぎて、動けなくなっても回路は作り続けた。

回路定数の果てしない組み合わせを一つ一つ検証していった。


それでも、見つけなくてはならなかったのだ。

ノイズに埋もれた答えを。


---------------------------------------------

回路を作り続けて1週間が経過した。

試作回路での作動確認を終え、俺はいよいよユリスのモールス君に向けて信号を発する。

俺はオームズロウの屋上に立ち、力場を展開する。

固唾をのんで、リジット、ユーリッド、ジーナが背後から見守る。

反応がわずかでもあれば、目の前に置いた水晶が光る仕組みだ。


魔法を発動する。

ユリスを見つけるための魔法を。


「……っく……。」


体から魔力が吸い取られる。

俺のほうのモールス君はロックインアンプにより感度を上げているが、ユリスのモールス君は当然無改造だ。ユリスのモールス君にこちらのPING信号を検知させるため、最大出力での放射が必要だった。


……応答はない。


魔波放射方向をゆっくりと西から北へと動かしていく。

ここチヨルドの東と南は海だ。よって、そちらは考えない。というか、そちらに行かれたらおそらく検知できない。だから、確認すべきは西か北だ。


ゆっくりと、放射方向方向を動かす。なにも検知しない。


西北西…西北…北北西…


魔力が吸われ、立っているのがやっとになってくる。

だが、ここで魔力を弱めるわけにはいかない。検知距離が落ちてしまうからだ。今にも落ちそうになる両腕を必死に上げ、魔力の流れを維持する。


……と、


「……ご主人さま、私も……お手伝いします。」

俺の後ろに立ったリジットが俺の両腕に手を添える。


見ればその後ろにはジーナとユーリッドも。


……はは……傍から見たら電車ごっこしてるみたいだな。


でも…ありがとう……。


魔力の並列出力。俺はみんなの魔力を受け取って回路に力を籠める。


北……北北東……


それはわずかだった。


北から北北東に魔力を向ける最中、わずかだったが水晶が灯る。

淡い淡い光が一瞬灯った。

そんな気がしたのだ。

もう一度、北から北北東へとスキャンする。さらにゆっくりとゆっくりとスキャンする。


……水晶はわずかに、だが確実に光った。

見つけた……ユリスのモールス君からの信号だ。


魔力を出し尽くし、俺たちはみんな同時に膝をついた。


だが、見つけた。ついに見つけたのだ。

ユリスの足跡を……。

北北西……それが俺の行くべき道なのだろう。


「見つけた!見つけたんだよね!?」


ジーナがへばりながらも元気な声で言う。


「ああ、確かに光ってた。見つけたぞ。」


俺も声を張って答える。


「師匠、店の事は任せてください! ちゃんと切り盛りしますから。」


「ああ、期待してるぞっ」


「…っていうか、師匠、最近ぜぇんぜん店のことなんてしてないじゃん。」


「………それを言われると…面目ない。」


そんな事を言いながらも、みんな笑顔だった。

俺もだ。久しぶりに一歩進めた事を実感する。

目的地は北だ。スーセリア王女にも事情を話しておかなくてはいけない。

これからさらに忙しくなるな……。

これからの行程を一気に頭の中でまとめる。

俺は先の事で頭がいっぱいだった。






……だから、気づかなかったのだ。


リジットの笑顔に、


無理やり微笑んでいるような、少し悲しげな笑顔に


書きながら思いました。


この測定系だと、AM変調してる信号を復調してからロックインアンプに入れることになるなぁ。

はたして、話の中で書いているような劇的な効果はでるのだろうか…?(^^;


ま、まぁ、結果ユリスの信号は受信出来たみたいだし、大丈夫だ!

よかったね、ウィル君!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ