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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第七章 そしてたどり着いた。
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ノイズと悩みの除去メソッド

夕暮れ時の日差しが部屋に差し込む。

夏も盛りを過ぎたところだが、それでも西日は部屋をジリジリと焼いている。

そんな日差しをまともにうけながら、俺はベットの上に座って、窓の外を眺めていた。


沈んでいく太陽を見ながら、届かなかった俺の手を思い出す。


あれからひと月が経とうとしていた。

贄は活動をピタリと止め、その行く末は知れず。ユリスの足取りは掴めていない。


モールスくんによる捜索も行ったが、レスポンスはない。

かなり離れた位置に行ってしまったか、それとも壊されたか。


事態はスーセリア王女にも伝えられ、王女勅命での贄の捜索も行われている。王女にしても今回の件は奴隷1人の誘拐に止まる話ではないのだ。

衛兵の披露会を襲撃、領主の眼前まで敵兵がせまり、あまつさえの奴隷誘拐。国の威信をかけての捜索となった。

にも、関わらず、捜索は遅々として進まない。こうなってくると既にカント王国からは出てしまっている可能性が濃厚だ。


半分沈んだ太陽を見ながら思う。

あの時、何故ユリスは手を引いたのだろう。

俺の気のせいだったのか?

そう見えただけなのか?


……いや。


自分の考えを否定する。

あの時の表情。怯えたような目で俺を見ていた。


「嫌われてた……かな?」


苦笑いしか出てこない。

それなりに良好な関係を気づけていたと思ったのだが、それも気のせいだったのか…な。


夕日が殆ど沈んだ。

沈んだにも関わらず、西の空は一層の赤さを増す。

今日は雲もない。

今、空を見上げれば西から東に向けて、茜から蒼穹、そして深い濃藍へとグラデーションしているはず……。

でも、窓から見えるのは赤い空だけ。真っ赤に燃えるような赤い空だけだった。



……トントン


ノックの音が部屋に響いた。


「師匠、今日の売り上げ報告宜しいですか?」


ユーリッドの声だった?


「ん?……あぁ。見なくても大丈夫だ。任せるよ。」


俺は扉を開けずにそう答えた。


「師匠……」


困ったような声を上げる。

そりゃ、困るよなぁ。

上司が不貞腐れて部下の報告を無視するなんて最低だ。


だが、どうしても動く気になれない。


ゴメンと心で呟いて目を瞑る。



……ドカンっ!


突然の炸裂音に何事かと扉を見ると扉から生足が生えている。

「い、痛いっ!痛い!太ももに刺さる!お、お兄ちゃん手を貸してっ。」


どうやら、蹴り開けようとして、蹴破ってしまったらしい。穴の縁が足に刺さって痛そうだ。

程なくして、苦労して扉を突き抜けた足を抜くと、中にジーナが入ってきた。手に持っているのは……クリームパイ?


「ジ、ジーナさん?」


思わずさん付けで呼ぶが、問答無用でパイを顔に押し付けられた。

甘い味が口に広がり、鼻に入ってくる。


タップリ3秒押し付けられてパイが外される。

は、鼻にクリームが…


「いい加減にしなさいっ!!」


ジーナが仁王立ちで俺を叱りつけた。

り、理不尽だ……


そんな俺の思いを無視してジーナは言葉を続ける。


「いい大人が、部屋の隅で膝抱えてなにやってるんですか? 子供に働かせて自分はベットに冬眠なんて恥を知りなさい!」


ジーナがお母さん口調で攻め立てる。

横で、ユーリッドがオタオタと狼狽えている。


「い、イキナリ部屋に飛び込んできて何なんだお前は?!」


「イキナリじやないですぅ!1ヶ月も待ちましたぁ!」


ウ……確かにそれくらい俺は引きこもっていた気がする。


「ユリスの事で落ち込んでいるのは聞きました。でも、落ち込んでいるのと、仕事しなくていいのは全く別問題です!」


「で、でも店は順調だろう?別に俺がいなくったって……」


「店の事じゃないですっ!ししょーはししょーの仕事があるでしょうが!」


ジーナはそう言って俺の旅道具を指差す。

前回帰ってたから放り出してある旅道具だ。


つまり、それは……


「行けないよ。だってユリスはどこにいるかもやってるんですか分からないんだぜ?」


「だからって探さなければいつまでたっても状況は変わりませんよっ!?」


「……それに、ユリスだった探してもらいたいなんて思ってないかも……ウグッ」


ガシッっと、ジーナの両手で顔を挟まれて正面を向けられる。そこにはこんなふざけた事をしたくせに真剣なジーナの表情。


「考えるのやめてっ。考えるのやめれば、やんなきゃいけない事は明確なんだから!」


考えるのを辞めたら……。

俺はずっとユリスの事を考えていた。

なぜユリスが狙われたのか?

彼女が、呼ばれた名前はなんなのか?

彼女は何故…手を引いたのか?


「パイまみれの顔で思い悩んだ所で駄目ですよ。ししょーは顔を洗わなきゃ駄目です。」


そう言ってジーナは俺の前に手鏡を差し出す。

そこには真っ白な俺の顔。昔のお笑い番組でよく見た奴だな。


思わずその滑稽さに我ながら少し吹き出す。


「分かった……分かったよ。」


俺は顔のクリームを拭って、手についたクリームをペロリと舐める。

甘くて美味しい。


考えるだけ無駄……か。

考えるのを止めれば、残るのは俺の奴隷(ユリス)をロットンに攫われたという事実だけだ。攫われたならば、取り返さなくては、救い出さなければ行けない。


ジーナなら言う通り。動かなくて良い理由などなにもなかった。




-------

ユリスを救い出す。

そう決意したところで、手がかりがないのは変わらない。


国はこれ以上協力してはくれないだろう。

と。いうか、既に最大限の協力だ。

国が全力で情報収集している以上。俺が個人で情報収集した所で意味はないだろう。


と……すると。

俺は部屋の外に打ち捨てられたモールス君の片割れを見る。


以前ユリスが攫われた時に、俺はモールス君にはPINGに対して自動応答する機能をつけている。ただ既にこれは試してて、現状では応答を得られない事は確認済みだ。

これは可能性として二つ


魔波が届かないほど離れたいる。


モールス君が壊されている。


の二つだ。

壊されているなら望みはない。だが、国の情報収集に引っかからない事からも、国外へ行っている可能性は高い。


モールス君を拾う。


モールス君の通信距離を増やそう。

通信距離を増やすには送信能力と受信感度を上げなくてはいけない。

俺の持つモールス君の送信能力を上げるのは比較的簡単だ。出力を上げれば良い。信号さえ届けばユリス持つのモールス君はこちらのPING信号を拾い、返答のPING信号を出力してくれるはずだ。

だが問題は、いくらユリスの側の検知器が信号を拾っても、ユリス側の送信出力はあげられない事だ。よって、こちらの受信感度を上げなくてはいけない。

そこで、課題になるのがノイズだ。最近分かったのだが、魔波にもノイズはある。まぁ、考えてみれば当然だ、魔波は魔力の動きで発生するのだ。そこら中で魔法が使われているのだから、そこから発生する魔波がある。それらは全てモールス君のノイズになるのだ。

よって、無限のゲインは取れない。

バンドパスフィルタによる帯域制限は既に限界までやっている。


求められる要求仕様を纏める。

こちらのモールス君が出したPING信号に応じて返ってくる微弱なPING信号を、ノイズの中からピックアップする事だ。PING信号のパルス幅は約1msec。

ユリス側の送信周波数は42kHz。

バンドパスフィルタは既に限界まで狭帯域化している。


俺は回路の作成に取り掛かる。





此処までお読みくださりありがとうございます。

取り敢えず此処から最終章になる予定なのです。

多分…おそらく…きっと…


しかし、最近書き溜めがない為自転車操業に…(^^;


結果、文章の推敲もラフになり、お見苦しい文章も増えてきているかと思います。

でも、ここで安易に更新頻度を落とすと、そのままエタりそうで怖い……。


とりあえず書き切って、その後、見直していきたいと思います。


皆様方におかれましては、

もう少しの間お付き合いいただけると、嬉しいなぁ。

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