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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第六章 初めてのおつかいに行ってみた
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ユリス・アウト・オブ・レンジ

俺たちを囲む衛兵が増えてきており、その分贄の部隊は大分追い込まれてきた。

これで勝機が見えた……かに思えた。


だがしかし……。


「そろそろ、うるさくなってきやがったな。」


ロットンもその状況には気づいていた。

そして……。


「てめぇら!!そろそろ帰るぞ!!」


ロットンがそう言うと、贄の集団が戦いながらもロットンの周りに集まりだす。

また、逃げられるのか?そんな風に考えた。ここでも取り逃すのかという悔しさはあったが、正直なんとか凌いだという気持ちが強い。


だが、そうではなかった。それだけではなかったのだ。


「それじゃ、決着だ。」


言うと、ロットンは俺の視界から掻き消える。


次の瞬間。

ポンと肩に手を置かれた。

ロットンが俺の背後に立つ。


「なっ!」


肩にものすごい圧力がかかり、肩から地面にたたきつけられる。

肩の骨が外れた感触、遅れて激痛が走る。


「がぁっ!!!」


「おい、こいつを抑えとけっ!」


「了解ですぅ!」


赤が近づき俺を抑え込む。

外されていない方の腕を掴まれ、身動きがとれない。


ブルがロットンに襲い掛かるが再びロットンは掻き消え、今度はリジットとユリスの前に現れる。


「逃げろ!!ユリスっ、リジットっ!!」


俺は抑えつけられたまま叫ぶ。

だが、リジットもユリスも逃げようとはしない。

ユリスはインパクトブレーカーを起動し、リジットはナイフを構える。


「ご主人様を離せっ!」


「いいのか?」


ロットンはそれだけ言うと、指でこちらを指さした。

そして、赤が俺の首にナイフを添える。


「……っく……。」


「離せと言うなら、あいつの首と体を離す事になるぜ?」


リジットは歯噛みをし、そして……ナイフを降ろしてしまう。


「なにやってんだ!! 俺はいいからはやく逃げろ!!」


そういう俺の首にナイフが首に食い込むが知ったことではない。

……だが、リジットは動かない。俯いて、歯を食いしばっている。


「それでは、来てもらうぜ、ユリス。 ユリス・ファルネウス・シュタイナー。」


ユリス…ファルネウス……シュタイナー?


それは初めて聞く名前だった。


ロットンの言葉にユリスの目が驚愕で見開かれる。

そうして動かないユリスの首を、ロットンを後ろから抱え込み、そして耳元でささやいた。

ユリスの体から力が抜けるようにロットンにもたれる。


……ちくしょう。


形勢は完全に持ってかれている。

煮えたぎる頭を必死に押さえつけて、おれはあたりの隙を伺う。

赤だけなら服に仕込んだ魔法で吹き飛ばすことは可能かもしれない。自分で発動する魔法とちがい、あらかじめ仕込んである魔法は一瞬で発動可能だ。だが、問題は次の一手だ。そこにはすでに十重二十重の贄の部隊。それをかき分けて、ユリスのところまでいけるのか?


…難しいと言わざるを得ない。

隙が…こいつらの注意をひけさえすれば……。



そして……そいつはそこに現れた。


小柄な衛兵が、1人だけ部隊陣形から突出する。

そいつは贄の隙間を縫うように駆け抜けた。

手には巨大なデスサイズ。


そんな武器を使う馬鹿は俺は1人しか知らない。


「もらったぁ!!」


ロットンの背後から衛兵がとびかかるロウエル・ローゼリア!


「地獄におちろぉ!」


「なんだとっ!」


振り下ろされるデスサイズ。それを咄嗟に腕で受け止めるロットン。

刃が食いこみ血を噴き出す腕。しかし、魔法で強化しているのだろう、デスサイズの刃はロットンの腕を切り落とせずにそこで止まってしまう。


「やってくれたなっ!!」


振り払うようにロロをはじくロットン。


「「ロットン様!!」」


贄の一団の注意が一瞬それる。


俺は服に仕込んだリアクティブアーマーを強制発動する。

全体重を俺にかけて抑え込んでいた赤は咄嗟に避けられず、発動したフォスの力で吹き飛ばされた。

背中の圧力が無くなったのを感じて、全力のフォスを俺は自らの足にかける。生まれる爆発的な推力を足に受け、俺は地面すれすれをそれこそ飛ぶように飛び出した。


「ちっ!!」


すぐにこちらに気づいたロットンが千切れかけた腕でユリスを再度抱える。

そして、周囲に魔力の力場が生まれる。転移するつもりだっ!!


ロロとリジットが追撃しようとするが、青が絶妙に割って入りその動きを制してしまう。

俺が突っ込むしかない。


「ご主人さま!」


ユリスが俺に手を伸ばす。


「ユリス!!」


すり抜ける俺に対し、振り下ろされる贄の攻撃。

いくつか体をかするが、直撃さえしなければいい。


「ぉぉおあっ!」


知らず、俺の口から声が漏れる。


敵は全部かわした。目の前にはすでにユリスとロットンしかいない。

転移魔法はまだ発動していない。


間に合うっ。間に合うはずだっ。


俺はユリスに手を伸ばす。


「……!」



それは、最後の一瞬だった。


あと数センチだった。

数センチで俺の手はユリスの手に届いたのだ。


……だが、ユリスは…手を……引いた。

引いたように……見えた。


……まるでおびえるような表情で……。

ユリスの口元が震えるように動いた。


だが、それは別の声にかき消されて聞こえない。


「今度は俺の勝ちだっ。」


聞きたくもないそんな声と共にロットンとユリスの姿が掻き消え、誰もいなくなった空間を俺の体は通過する。

そして、何物も掴むことなく、俺の体は地面におちる。


土の感触を頬にうけながら、悪夢だけを残して消えていく贄の部隊を俺は見た。


「ユリス……?」


疑問形で呟いてしまうユリスの名。

届かなかった?

届かなかったのは俺の手……なのか?


ゴメンナサイ。


ユリスは最後にそう言わなかったか?



戦いは終わった。




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