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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第六章 初めてのおつかいに行ってみた
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ローレンツの鎧

対峙する俺とロットン。

奴の狙いはユリスだ。リジットにはユリスの守りをしてもらう必要がある。と、なれば攻めるのは俺と言う事になるが、なんとも部が悪い話だと思う。


幸いな事は赤と青が、背後についてもこちらを攻撃するつもりはなさそうな事か。まぁ、それだっていつまで守るかなんてわからないけどな。


ロットンが自らの喉をトントンと指で叩く。

どうやらかかって来いという事か。

俺は雷撃呪を起動し、ユックリとロットンに近づく。

挑発するならのってやろう。雷撃呪は俺の最速の攻撃呪文だ。避けられるはずがない。


そして同時に確信もしている。絶対に対策もされているはずだ。一度見せてしまっているからな。


間合いがつまる。

放電可能距離だ。


雷撃呪の解放。それは一瞬だ。

最高電圧までチャージされた電荷が稲光を形成して地面に刺さる。本来ではあり得ないような形状、大きく歪んだ軌跡を稲光が描いた。


「……雷撃を捻じ曲げた?」


「ククク…成功のようだな。」


ロットンが笑う。


こいつは……。

雷撃を捻じ曲げる方法。

それは磁場形成する事だ。

磁場の中を進む電荷はローレンツ力を受ける。フレミング左手の法則という奴だ。磁場を制御する魔法がある事も驚きだが、なにより驚愕なのは、やつは磁場と電流の関係を知っているということだ。


「おまえ……どこでそんな知識を?」


「俺は物知りなんだよ。」


そして、ロットンは今度は俺の番とばかりに腕を上げ俺に向ける。

その手が完全に俺を指し示すと同時に俺は横っ飛びする。

先ほどまで立っていた地面が赤く光り、火柱が上がる。


「っく……」


危なかった。完全に勘だったがなんとか避けられた。


だが…


「チョコマカ動くなよ?」


そう言ってロットンが開いていた手をにぎる。


俺の足を何者かが掴まれる。だが、そこにはなにも見えない。


ユリスを引き寄せていた魔法かっ。

マズイ、この状態では避けられないっ!


「さぁ、これはどうする?」


足元の地面が光る。


「ご主人さまっ!」


ユリスの悲鳴がなんだかユックリと聞こえるなと思った瞬間、俺は突き飛ばされて地面を転がった。

そして、一瞬遅れて立ち昇った火柱は俺を掠めながらも直撃は免れる。


飛ばされながら、視界の端に映る人物を見て理解した。どうやら、あいつが突き飛ばしてくれたらしい。


「まったく、相変わらず危ねえことばっかりやってやがんな、おめぇはよ。」


なんだか懐かしい声だ。

前に会った時からそれ程時間が立ってるわけでもないっていうのに……。


「ブル!」


そこには、ハゲ頭のモンスターハンター。プライア・バセテールが立っていた。


「ハゲとかいうんじゃねえ!」


-------


「なんだてめぇは?」


剣呑にロットンが問う。


「何って、ハゲ頭のモンスターハンター。ブルさんだよ。今は郵便配達もやってる。」


そう言って、ブルは俺たちが運んだのと同じ、スーセリア王女の封蝋がついた手紙をみせる。


なるほど、あの姫様俺たちとブルには別々に配達を頼んだという事か。


「まったく、手紙の配達で小遣い稼げるっていうから楽な仕事と思ったら、なんなんだよ。こりゃ、ほとんど戦争じゃねぇか。想定外とこそういうレベルじゃねぇぞ?」


そういうと、ブルはジト目で俺を見る。


「しかも、またお前が関わっているっていうな……。」


「な、なんだよその、お前が関わるとろくな事ねぇなって目は。濡れ衣だっ!」


「濡れ衣ねぇ? ……で、お前は?どうも贄の頭領さんとお見受けするが?」


「ふん、なら自己紹介はいらねぇだろ?ブライア・バセテール。」


「そうかいっ。ならさっさとお使いは終わらせるとしようか」


ブライアがハルバートを構える。

俺はチラリと赤と青よ様子を伺う。増援がきても、2人は動く気配は見せない。


言い換えればロットンは二人掛かりでも負けないと踏んでいるわけだ。


ブルが正面からロットンにとびかかる。

上段からの一閃、常人ならば気が付いた時には真っ二つになっている。

だがロットンはわずかに踏み込んでハルバートの柄を片手で受け止める。


ブルはそのまま力を籠めるが、柄はピクリとも動かない。


「お、俺と互角の力だと?」


ブルの表情に焦りが生まれる。

それはそうだろう。ブルとロットンでは体格が二回りほど違う。


「……互角だと?」


「なっ!?」


ロットンが腰をわずかに落とすとブルの体が浮き上がる。

信じられない膂力だ。ハルバートの端を片手でもって、巨体のブルの体を持ち上げやがった。


そして、それを無造作に投げ捨てる。


「ブル!」


ダメージはない。ブルはすぐに体制を立て直す。だが、その信じられないものを見たような顔だ。

俺だってそうだ。


「これは互角じゃねぇ、圧倒的っていうんだ」


もちろん魔法を使っての事だろうが、いったいこいつの魔力はどれだけあるんだ?


「ほれ呆けてるんじゃねぇ、丸焦げにしちまうぞ」


地面が赤く光る。


「あぶねぇ!」


俺はフォスの高速機動で立ち上がる火柱をなんとかよける。

そして、そのままロットンに突っ込む。

雷撃呪が聞かないなら近づいてインパクトブレーカーを打ち込むしかない。


ランダム機動をとりながらロットンに肉薄するが、突き出した右腕をわずかな動きでかわされる。


「遅ぇよっ!」


カウンターの膝蹴りが俺の腹に入った瞬間、服に仕掛けた魔法が発動する。

圧力を感知して、対象をフォスではじき返す魔法だ。戦車のリアクティブアーマーみたいなもんだな。

膝蹴りの圧力を感知した俺の服は、即座にロットンの膝にフォスを発動。その膝をはじき返す。

だが、それでもダメージはころしきれない。


「がはっ!」


腹の空気を無理やり押し出される。

咳こんで呼吸ができない。

だが、隙を作ることは出来た。ブルならその隙を逃さないはずだ。


俺の予想通りブルの追撃がロットンに迫る。だが、その動きがピタリと止まってしまった。

また、あの見えない手かっ。


「まだまだあめぇよっ」


ブルの足元が光る。


……間に合えっ!


石を拾って左のインパクトブレーカで吹き飛ばす。

砕かれた石が散弾となってロットンを襲う。次の瞬間解放されたブルがなんとか体をよじるがしたたか炎を浴びてしまう。


「っちぃな、畜生。」


そう言いながらブルは若干くすぶって燃えている服の火をたたき消す。

ダメージはあるようだけど…幸い致命傷ではないみたいだ。


「おいおい、二人がかりでこんなもんか?」


余裕の表情のロットン。いや、じっさい余裕なのだろう。

石の散弾をくらったにもかかわらずダメージは見えない。


……化け物めっ!


「ったく、なんでこんな化け物とばっかり戦うことになるんだかね。」


ブルが頭をぺちぺちとたたきながら俺に近づいてくる。


「大丈夫か?」


「ああ、ちょっと焦げただけさ。すまねぇな。」


「……くそっ……。勝てないのか……。」


思わず口にしてしまう。

俺の魔法も、ブルのハルバートもまったく効かない。

たいして、こちらは着実にダメージをもらっている。

と、俺の言葉にブルが呑気な声で答えた。


「なぁに、俺たちが勝つ必要はねぇさ」


「……どういう意味だ?勝必要はない……俺たちが?」


「周り……見てみろよ。」


言われて俺はロットンの周りまで意識を広げる。


……兵士が増えていた。

俺たちをとり囲むコスカの衛兵の数がすこしずつ増えてきているのだ。


……そうか。魔物との闘いが収まりつつある。中央部こそは確かに押されたが、右翼左翼は衛兵側が優勢だったのだ。このままいけば左右の戦いは収まり、その兵力がこちらに向くはずだ。

そうなれば、いかに贄が精鋭とは数で押しつぶせる。

俺達で勝たなくても、時間さえかせげればいいのだ。




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