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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第六章 初めてのおつかいに行ってみた
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ポップコーンノイズ・カーニバル

「非常事態ですっ!」


衛兵の報告に俺も領主もテントを飛び出す。そこでは皆、模擬戦が行われる平原を見ていた。

いや、正確にはその奥の丘の稜線だ。

少し遠いがはっきりと視認できる。それはオークでありオーガでありゴブリンだった。

魔物が丘の稜線を埋め尽くしている。


「魔物……だと?なぜこのタイミングで? こんなところに……?」


コスカ領領主ヴェルニクスは一瞬呆然とした表情を見せたが、すぐに指示を出す。


「模擬戦は中止!!模擬戦を行う予定だった第一、第二軍団をもって魔物集団への対応を行え!会場設営担当部隊は町人の避難を優先しろ!」


…領主はなぜと問うていたが、俺はすぐに思い当たった。

まぁ、当然だ。こんな事をこのタイミングで起こすやつ。そんな奴は一人しかいるはずないではないか。


「ユリス!!リジット!!」


「こちらに!!」


すぐ後でユリス声がする。

騒ぎに気付いてすぐにこちらに向かってきていたらしいな。


と、魔物の軍団から一人はずれて一人の男がふらふらと前に出てきた。

俺たちがその様子を凝視していると、男は顔をゆっくりと持ち上げた。


その視線が俺たちを射すくめる。


……迎えにきたぞ……。


この喧噪の中、これだけ離れた距離で。

それは聞こえるはずのない距離だったにも関わらず、だが、確かにロットンの声が聞こえた。

体中の汗が引き、呼吸が詰まる。

冥界からの死者が、地獄から魔物の集団を引き連れてやってきたのだ。


ロットンは一本しかない腕を気だるげに天に掲げた。

誰もがその腕に注目せざるえない。


一つ…


二つ…


三つ目の呼吸を待って、その腕は崩れ落ちるよう振り下ろされた。


それが始まりの合図だった。



---------------------------------------------

衛兵団は模擬戦のため、部隊二つに分け、互いに向かい合う形で布陣していた。

そこに横から突然の奇襲。

陣形を立て直す暇はなく、否応なしに個別戦闘をすることになり、戦いは泥沼の様相を呈してきた。

とは言え敵はゴブリン、オークが主体の軍団。数もほぼ同数だ。被害は免れないだろうが、各戦場で衛兵は善戦していた。

そんな中、ただ一か所、中央部だけは大きく後退を強いられていた。


そこはロットンを中心とした『贄』の部隊が先陣を切っていた。


「あいつら……まさか、ここまで攻め寄せるつもりか!?」


ヴェルニクス卿があきれた様子で言う。

当然だろう。ここまでは十重二十重の衛兵がいる上に、側近を固めるのはコスカ最強の親衛隊『白銀』だ。

せいぜい10名の部隊がここまで突破してくるなど、常識で考えられることではなかった。


だが……。


「殿下!ここは下がるべきです!」


俺はヴェルニクス卿に進言する。

だが、それは聞き届けられない。


「何を馬鹿な事を。安心するがよい、あいつらがここまで来られるわけがないだろう。だいたい、これ以上下がってどうして指揮ができようか。」


それは普通に考えればその通りなのだ。その通りなのだが……、俺にはもうわかっている。

ロットンは、『贄』は常識で考えてはいけないのだ。


ロットンは歩いてやってくる。自らの配下に囲まれて、まるで散歩をしているかのような自然な歩みで。ニタニタと薄ら笑いを浮かべながらロットンが歩いてやってくる。


歩みは決してとまらず、同じ速度で進行する。まるで障害などなにもないかのようにだ。


「馬鹿……な……。」


ヴェルニクス卿がその様を把握してほどなく前線は突破され、ロットンは白銀部隊と肉薄する。

それはもう張り上げれば声だって届く距離だった。


「待たせたな」


ロットンは静かに言ったが、その声は俺たちの耳までしっかりと届いた。


「さぁ、戦争だ。殺しあおうじゃないか。剣で切り合い、槍を突き刺し合い、全て魔法で焼き払おうじゃないか。」


「な、なにを馬鹿な……貴様ら……一体なにが目的だ!!」


ヴェルニクスは剣を抜き放ちながらそう叫ぶ。

叫ばずにはいられない。今日は祭りだったはずだ。

年に一度の祭りで、市民達は衛兵の模擬戦を楽しむはずだった。

観覧席から衛兵たちの日ごろの鍛錬の成果を確認し、大いに満足するはずだった。

「はずだった」ことの全てが今突然の悪夢のように粉砕されて、地獄が開こうとしている。


「手紙か!? 今日届けられたこの手紙がほしいのか!?馬鹿な!!こんな騒ぎを起こしてまで奪いたいというなら、くれてやるからさっさと戻るがよかろう!」


王は懐に入れていたスーセリアからの手紙をロットンに向かって投げつける。


だが、手紙はロットンに届くことなく火柱に包まれて燃え尽きる。


「な……なにを……?」


「いらねぇよ、そんなもん。俺はな、迎えに上がったんだよ。俺に並び立つ死神の王を……。」


そう言ってロットンはユリスに腕を伸ばす。


「さぁ、まずは歓迎の宴だ。楽しんでくれ……。」


伸ばした手を胸に置き、ロットンが恭しく礼をする。


「ふ、ふざけるな!白銀よ、こいつらを討ち果たせ!!」


ヴェルニクスの号令の下100人はいるであろう白銀部隊と、贄の戦闘が始まった。

そして、同時に俺たちの戦闘も始まったことを意味していた。


------------------------

今のうちに距離を取りたい。出来ればこの場から脱出することだ。それは本音だった。

……だが、逆に言えばこれはチャンスでもある。領主には気の毒だがこれだけ味方がいる状況でこいつらと対峙できることなんてないんだ。


「リジット、ユリス。いけるか?」


「は、はい」


「フフ、当然ですっ!」


俺は二人を見ると。ユリスはやや緊張の表情を浮かべ、リジットは不敵に笑った。


……リジットさん、マジ戦士……。


そんな事を思いながら左右の腕にインパクトブレーカーを始動

雷撃呪もいつでも発動できるようスペルは展開しておく。

それと同時に俺たちの背後にはお決まりの赤と青が回り込む。

そしてロットンがゆっくりとこちらに近づいてくる。


周りを囲む衛兵がロットンに攻撃をしかけようとするが、他の贄の部隊がそれを完璧に阻止している。

俺の目から見ても、親衛隊はさすがに強い。だが、それにもまして贄のやつらは一人一人がとんでもなく強い。しかも、その顔は一人残らずにやけており、まるで目の前の殺戮を楽しんでいるようだ。


やがてロットンとの距離が10mほどにまで近づく。逃げ場はない。


「さて、宿敵。決着をつけねぇとなぁ。」





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