チャージポンプ 4倍の奇跡
所持金 銀貨1枚(宿代払い済み)
早速宿に戻った俺はベットに腰掛け意識を集中する。
力場を展開。そこにスペルを並べる。
まずはnot回路を習得しよう。
スペル符を力場に浮かべて回路を構成。取り敢えず出力にはウィスプをつけて作動を確認する。
回路を繋げた所で魔力を加える。
電源にあたるラインに魔力をを流した瞬間、符の中にスペルの概念が浮かぶ。
さっそく見た目を論理回路でnotを表す三角と丸に変えた。
入力オン…ウィスプからの光が消える
入力オフ…ウィスプが光る
よし、成功だ。
そのままnot回路を使った発振回路を組む。
マルチバイブレータよりも、回路が簡単なのがいい。周波数の調整が抵抗一つでできるので楽なのだ。構成要素も少ないので、PLD(Programable Logic Device)のピンが余っていたら、コッソリ構成しておくと、思わぬ助けになる。ただイレギュラーな回路なので、注意が必要だ。
発振回路を、先ほどの反転ウィスプ回路に繋いで作動確認。
うん、成功。ウィスプが明滅する。
フィードバック抵抗を下げて、発振を早くしていくと明滅が早くなる。だが、一定以上は目で追えないのでうまくいってるかはわからないな。なにか検証方法を考えないといけないようだ。オシロスコープがあれば楽なのだけど。
いつもは当たり前の様に使っているが、ないと電気屋としては何もできなくなるなと思い知る。いつか、魔法のオシロも作れたら作りたい。
では次、こちらが本番だ。
次に実験する回路はチャージポンプ型昇圧回路だ。
まずは実験。
マジカのスペルを7つ直列につなげ、全力で魔力をかける。
マジカから仄かに暖かい空気が流れてくるが、破裂はしない。
マジカを、ひとつ減らして6個直列で同じ事をすると、マジカがポポポっと破裂した。
店の測定器では俺の最大魔力は6.6マジカという事だったので想定どおりだ。
そうしたら先ほどの発振回路の出力にコンデンサつけてダイオード付けて…と完成。倍圧出力のチャージポンプだ。この出力に今度は10個直列のマジカを、接続して。回路を全力起動する。
再び破裂は音と共にマジカが破裂する。
よしよし、成功みたいだ。
ちなみに直列の数は12個までは破裂できたが13個目はダメだった。
俺の魔力が6.6Vなら倍圧なら13.2Vまでとも思ったが、やはり多少は損失があるのだろう。あるいは俺が疲れてきていて出力が落ちているのかもしれない。
さらに実験を続けよう。
チャージポンプ回路の出力に。さらにチャージポンプ回路をつける。
これで4倍だ。
さっきの損失具合からして、マジカ22個ならいけるだろうか。
…よし、いくぞ。
かける魔力を上げていく。
そして、全開。両手を前につきだし、魔力をこめて叫ぶ。
「4倍だぁっ!」
ボンッ!
今までよりも大きな破裂音がした。爆発と言ってもいいかもしれない。
と、階下からドタドタとこちらにかけてくる音。
ガチャリと扉が開く。そういえば鍵かけてなかったな。
「どうしたの⁉︎」
現れたのは心配そうな顔をした、下の食堂で働いているお姉さんだった。
そりゃ。いきなり叫び声と爆発音がしたらびっくりするよな。ちなみにこのお姉さん、名前はルーシアさんという。
「あ、すみません。ちょっと魔法の実験してて。」
そう聞いて、特に問題無さそうな事を確認すると、ホッとしたような表情になる。
「ちょっと、そういう事は気をつけてやってよ。部屋のもの壊したら弁償だからね?」
「はい、気をつけます。」
ルーシアさんは扉を閉めて下に降りていった。
たしかに、実験する場所は考えたほうがいいな。
なにはともあれこれも成功だ。
でも、体がちょっと痛い。魔力は4倍だが、流す魔素も4倍だから仕方ないな。まさしく界○拳。一応ベルーナは超えたからよしとしよう。
そして、その後も細かい検証実験をして夜は更けていった。
次の日からはマッサージ玉を売りつつ、魔法の実験を繰り返して過ごそうと考えていた。ところが、先にマッサージ玉を買ってくれた2人が口コミで広めたらしい。1日過ぎる毎に客が倍に増えていった。
一週間過ぎた頃には、昼間は客を捌き、帰りにベルーナの、店でガラス玉を仕入れて、そのまま徹夜で回路の作成。ほとんど実験をしている時間はなくなってしまった。
また、中には勘違いしてエロ器具下さいとかいう奴もいたが、そういうお客様には
「エロ器具じゃらねぇ!健康グッズだっ!」
と、丁寧に説明をした。
そして、商売も軌道にのってきた感じを掴んだ俺は、週2日は休む事にした。露天なのだから、店を出さなきゃ忙しくはないのだ。因みに予約販売を求める声もあったが断った。休めなくなるし、管理もしきれない。という訳で明日は休みに決定。自由に休めるって素晴らしい…。
「つーかーれーたー。」
酒場のカウンターでエールを片手に1人ぐちる。いや、商売がうまくいっているのだから、愚痴る事はないのだ。しかし、仕事のあと、ビールを飲みながら愚痴るのが癖になってしまっている。あぁ、ビール飲みてえなぁ。
因みに今日は宿下の酒場ではない、チョット離れた高級酒場「ブリュンヒルト」に来ている。お金には余裕ができたからちょっとの贅沢だ。今飲んでるエールも普段の2倍するが、流石にうまい。仕事も順調だし、酒も美味いし幸せだ。まぁ、マッサージ玉みたいな道具は、欲しい人に行き渡ったら一気に需要は減る。
それまでに他の街に旅立てるようにしないとな。
などと、思っていたら見知らぬ男が隣に座ってきた。
「羽ぶりよさそうじゃねぇか。にいちゃん。」
見知らぬ男だった。タカリかな?
とか思いながら適当に「まぁね」と返す。
「おめえさん、広場でなんかエロ道具は売ってる奴だろ?あれは俺も買ったがすげぇ効き目だな。」
「エロ道具じゃなくて健康グッズだ。まぁ、おかげ様で売れゆきは好調だよ」
「はは、健康グッズか。そういう話しもあったな。まぁ飲めよ。おめぇさんの商売に、乾杯だ。」
なんだ。タカリじゃなかったのか。
男は俺に自分ボトルを進めてきた。俺もそれを杯で受ける。
ウィスキーみたいな匂いだが、なんか違う匂いもする。
俺たちは乾杯をして、その酒に口をつけた。
思えば商売が軌道にのったと勘違いして気が緩んでいたのだとおもう。ここは日本ではないのだ、異世界なのだ。
そして、俺の意識が闇に沈んだ。
所持金 金貨12枚 銀貨215枚、銅貨17枚