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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第六章 初めてのおつかいに行ってみた
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罪と罰のESD

ロットン、赤、青を取り囲む俺たち。

しかし、油断はできない。やつの魔法は強力だ。


「キヒヒ……おい、失敗しちまったじゃねぇか。」


気味の悪い声で笑うロットン。


「……っは、申し訳ありません。」


青と赤が胸に手を当て頭を垂れて謝罪する。

今回の件はこの二人の考えによるものということか。


「失敗には罰を与えんとなぁ。」


「っは!」

「なんなりと」


まるで俺たちがとり囲んでいることなど、意に介さずに話を進めていくロットン。


「お前も、俺と同じ片腕にしてやろうか。」


「「……っは」」


驚いたことに、赤も青も一瞬もためらうことなく己の腕を差し出した。


「よし、いくぜ……そらっ!」


ロットンが赤と青の腕に触れると、腕がはじけ飛んだ。

わずかに顔をゆがめるが、けして取り乱さない二人。

吹き出る血が二人を朱に染めていく。


「ククク……これでお前も俺とおそろいだなぁ。」


「恐悦でございます。」

「うれしい……うれしいですっ」


そう言って薄ら笑いさえ浮かべる青……。

恍惚の表情すら浮かべる赤……。


こいつら……狂ってやがる。


「さてと、Lady's and Gentle Man。今日の出し物はこれでシマイだ。いまいち盛り上がれなくて悪かったな。次はもっと考えてくることにしよう。派手に、残虐に、残忍に……。」


「逃がすかよ」


ロロがサイズを改めて構えなおして距離を詰める。


「逃がさねぇてか?残念。そりゃぁ無理だ。またなっ」


言うやいなやロットンと赤、青の姿がまた消えてしまう。

後に残るのは青から噴き出した血だまりだけだった。

あの魔法がある限り、俺たちは奴をとらえる事は出来ない。



____________

結局、俺たちは村に滞在することなく出ることになった。

つるされた村人を助けることはできたが、それでもすでに多くの者が殺されていたのだ。

焼かれてしまった畑、壊された家、とても泊まれるわけがない。


あいつらは最初10人でやってきたそうだ。

そして、逆らうものを問答無用に殺して回り、投降したものは崖につるされた。

そう淡々と話す村長と、歯を食いしばって聞くロロの姿が見ていてつらかった。


「じゃぁ、俺たちは行くよ。」


俺はそうロロに告げた。

結局、村人たちは俺たちに巻き込まれたのだ。

復旧を手伝いたいという気持ちはあったが、それを受け入れてもらえるとは思わなかった。

なにより、自分たちがいてはまた、ロットンが襲ってくるかもしれない。一刻も早く村を離れたかった。


「………」


だが、ロロは無言で俺の袖をつかんだ。


「……なんだよ?」


「あいつらは、またお前の前に現れるのか?」


「………多分な。」


「そうか。」


それだけ言ってロロは手を離した。

何かを決意した目だった。


「私はあいつを絶対に許さない。……絶対に殺してやる……。」


それだけ言って、ロロは俺の前から立ち去った。その真意を俺はまだわかっていなかった。



_____________

その夜は俺とユリスとリジットの三人で野営することになった。

星は雲にかくれ、真っ暗な夜だった。

焚火の明かりだけが俺たちを照らしている。


「ご主人さま。お夕食が出来ました。」


そう言ってリジットが俺に出来立ての粥を出してくれた。

置かずに干し肉と乾燥野菜で作られたスープもある。


「ああ、ありがとう。」


「……あの村の人たち……私たちが行かなければ死ななかったんでしょうか?」


「ユリスっ!なにを言っているんですっ」


「で、でも……。」


不安そうな目でリジットを見るユリス。

俺は無言で粥をすする。

暖かい粥が胃袋に落ちていく。

そして、一つだけ息を吐き出した。


「ロロを仲間にして瞬間から、ああなることは決まっていたんだろうな。それで言うなら、ロロを巻き込んだ俺のせいだ。」


「そ、そんなご主人様が責任を感じる必要なんてありません。」


「違うよ、リジット。原因と結果、ものの経緯は正しく認識するものだ。今回ロロを仲間に引き入れなければ、あんな事件は起きなかった。それは事実だ。」


「そんな……。」


「だからって、俺は自分の罪だなんて思ってるわけじゃないよ。おそらくロロを仲間にしなければ、やつらはほかの手を使ったはずだ。犠牲者だってもっと出ていたかもしれないし、俺たちが生き残れなかったかもしれない。そうだろ?」


「……はい。」


消えそうな声でユリスがうなずく。


「俺たちは神様じゃないんだ。間違えない事なんてできない。でも、それでも前には進まなきゃいけない。

明日にはコスカにつけるはずだ。それまでの辛抱さ。」


そう言って俺は笑いかける。

本当は分かっている。それだけじゃ終わらないことは。

奴の狙いは、スーセリアの手紙からユリスになってしまっている。つまり、手紙を渡すお使いをこなしたところで、ユリスを狙うやつの行動は収まらないはずなのだ。

終わらせるには、やつとの決着をつけるしかないのだ。


……だが、どうやるか……。

あいつには転移魔法がある。いざとなればそれでいくらでも逃げられてしまうのだ。


……あいつの転移魔法を封じる方法……。


いや、それよりも。


「大丈夫さ、なんとかなるよ。」


そう言って俺はユリスの頭を撫でた。

少しだけユリスの表情が和らぐ。


「さぁさ、早くご飯を食べて寝ましょう。代わりばんこに見張りをしなきゃいけないんです。早めに寝ないと十分な睡眠がとれませんよ。」


俺の意をくんでくれたんだろう。リジットも明るい声でそう言ってくれる。

そう。まずは絶望しないこと。気持ちの負のループを断ち切ることだ。

次の一歩を踏み出すために。


___________

書類の山に埋もれながら第三王女スーセリアはうめいていた。

いくら書類を処理しても終わりが見えない。

馬鹿じゃないのか!

と言いたくなるような陳情書が山とあるのだが、正式な書式を取っている以上処理しないわけにはいかない。


町のどぶ掃除など、私にどうしろというのだ!


と、思いながらも下級役人を手配し、事情を確認するように手配する。

この陳情書のシステムももう少し改めなくてはならないな……。


「姫様、ローランド様がお見えになりました」


おつきの侍女がスーセリアに報告する。


「なに? ローランドが? かまわん通せ。」


「かしこまりました。」


そして数秒後、執事のローランドが現れる。


「これはこれは……精がでますな。」


「皮肉はよせ。これは本当に私が処理しなくてはいけない内容なのか?」


そう言って陳情書の一枚をローランドに投げてよこす。

そこには隣人が夜中うるさくてかなわないから、衛兵を出して追放してほしいとの旨が書かれていた。


「ほっほっほ、確かにこれだけ見れば姫様のお手間をかけるような案件ではございませんな。」


そして、ローランドはそっと書類の山に紙を戻す。


「ですが、そのような情報も集まればまた別の側面も見えてきましょう。」


「……ふん、分かっておるわ。ただの愚痴じゃ」


ローランドのいう事はいつも正しい。

スーセリアはローランドには絶対の信頼を寄せているのだ。


「それで? なにか報告か?」


「はい、例の手紙の件でございます。今のところ5通のうち3通が何者かに奪われたようでございます。」


「まぁ、予想通りだな。」


「それと、残りの2通ですが、どうも『贄』が動いているようでございますな。」


「なんだと?」


少しスーセリア王女の顔色が曇る。


「奴らが動くと必要以上に事がでかくなる。残っている運び屋は誰だ?」


「はい、例の魔法具屋と……。」



もう一人の運び屋の名前を告げるローランド。


「なるほどな。あいつらにはかわいそうな事をしたかもしれんな。」


お試しのお使いにしてはハードな展開になってしまっている。


「せめて一通くらいはたどり着いてもらいたいものじゃが……。」


そう言ってスーセリアは窓の外を見た。

今日もいい天気だ。



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