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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第六章 初めてのおつかいに行ってみた
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逃避行のサセプタンス

夢を見ていた。

俺は会社にいた。

そうだ、トラブル対応を行なっていたのだ。

俺がまだ電気の仕事をやりだして間もないころ。初めての大型特注の電気系を担当した後の事だった。

3ヶ月くらい前に出荷した搬送機が1ヶ月に一度くらい止まってしまうと客先からクレームが来たのだ。

特注部分が原因だと思われるが、原因はまだ分からない。

ソフト?ハード?ユーザー操作?設置環境?


特注品はそれ一台しかない為、社内で再現実験はできない。

状況証拠から推論で対策を考えなくてはいけない。だが、この推論は得てして妄想になりがちだ。

だいたい、そのような不具合は無いようにと設計しているのだ。

設計しているつもりなのだ。

ソフト、ハード、現場のサービスエンジニア、そして課長連中がみんなそれぞれに疑心暗鬼の中で原因を検討した結果、宇宙の開闢しそうな確率でしか起き得ないような状況を数パターン、考え得る停止原因として提示することになったりする。


明日にはそんな貧弱な理屈を武器に、客先に出向き原因調査をしに行かなくてはならない。

引き取り出来ればまだましなのだが、客先のラインが止まってしまう為、それは不可だ。1日ラインを止めたらウン千万円。一週間止めたらいくらになる事か……。


オシロスコープ、デジタルマルチメーター、電源モニター、シリアル通信アナライザ。

原因調査の為にログファイルを吐き出すように改造したファームウェアと、不具合が考えられるパーツの交換部品。その他ありとあらゆる計測器で武装して現地に乗り込む事になる。


暗い気持ちで車に荷物を積み込んでいたら、手伝ってくれていた先輩技術者が話しかけて来た。

「頼んだな。ま、気楽に行ってこい。」

「はい……でも、正直、直しきれるかどうか……。」

「直しきれないのはしょうがないさ。まだ今回は初動だ。とにかく、なんでもいいから手がかりを掴んで来てくれ。」

「でも、それだとお客様に迷惑が……」

「そうだな。だが、俺たち技術者は神じゃないんだ。出来ない事は出来ないし、分からない事は分からない。だからな、とにかく諦めない事だ。泥臭く足掻いて、とにかく結論を出すんだ。」

「結論…ですか。でも治せるかどうかなんて……」

「治せるって事が結論とは限らないさ。あるいは最悪な見通しを出さなくてはいけないかもしれない。でも、何故そうなったのか、何故そうなのか。その結論を出すのが俺たちの仕事さ。そこまでやれば、後は上が考えてくれるさ。」

先輩技術者が社屋の方を見る。

そこでは会議室でうちの課長と営業部長がなにやら話込んでいる。喧々諤々という感じだ。

「出来ない事はあるし、分からない事もあるさ。でも結論から逃げちゃダメだ。それだけ忘れなきゃ次に何をしなきゃいけないかも分かるはずさ。がんばってこいよ。」

「……分かりました。行って来ます!」

そう先輩は俺を励ましてくれた。

肝に命じたのは逃げないという事。それだけだった。



だがしかし、勢い込んで行ってみたら原因は割とすぐに判明した。客先の電源ラインがうちの製品ではない他の装置を動かしたタイミングで瞬断していた事が観測されたのだ。

急遽安定化電源を入れてもらって一件落着。客先の担当者は苦笑いで、安定化電源をどこに持ってもらうか悩んでいた。当然ウチの会社ではないだろう。

会社に帰ってその話を先輩技術者にしたら、

「ま、よくある話しさ」と、笑っていた。


ああ、なんか懐かしいな。

絶対絶命だなんてよく思ったけど、それでもココまでやってこられたのは、あの時の言葉があったからかなと思う。別に今思えば特別な言葉でも、特別な状況でもなかったけど、でも心に残っている言葉だった。


朝日が入り込み、部屋を照らす。そんな明るさの変化を感じながら俺は目を開ける。

元の世界の事を夢見て、それが夢だと思えるほどには俺もこの世界に馴染んでしまったようだ。


「おはようございます。ご主人様。」


隣でメイド服のユリスが挨拶をする。


「あぁ、おはよう。ユリス。」


---------

俺たちは手早く朝食を済ませると、早々に出発した。

少しでも早くコスカにたどり着くためだ。

といっても、あいつらは転移魔法のような物を使っていた。どれだけ自由度が、あるものか分からないが、距離というファクターは無視出来るのかもしれないのだが……。


今までの長閑な旅も一変、余裕なく俺たちは進む。

良くないと思いつつも。あまり休憩を取らずに進めてしまう。


「ちょっと、そろそろ休ませないと馬が倒れちゃうわよ?」

ロロが後ろから注意してきた。

見れば馬の体が汗で光っている。

そういえば、前に水を飲ませたのは大分前だな……。


俺は急遽川辺に馬を下ろし休憩をさせる事にした。

ようやく思い架台から解放された二頭の馬は物凄い勢いで川の水を飲んだ。


「焦る気持ちもわかるけど、馬をバテさせたらいざという時逃げられないわよ?」


ロロの指摘はもっともだった。


「あぁ、そうだよな。スマン、ちょっと焦ってた。」


「べ、別にそう素直に謝られても調子狂うっていうか……。」


「いや、今日は多分野宿になるからな。少しでもコスカに近いところで、野宿したいと思ってたんだ。どこで野宿したって襲われる可能性なんてそんなに変わらないのにな。」


カワサとコスカの間には宿場町はない。どうしても野宿をする必要があった。だが、平原での野宿なんて襲ってくれたいうようなものだ。もちろん、ある程度は隠れるつもりだが、どうしても不安は拭えない。


「だったらさ。私の村にくれば?」


「……え?」


「私の住んでる村。ちょうどココとコスカの中間くらいだよ? ちょっと街道は外れるけどね。」


……ガシッ!


思わずロロの両手を掴んでしまう。


「ちょっ、近い近い!」


ロロは嫌がるが構わず両手をブンブンふる。

まったく、まるでロロが女神に見せるぜ。


「助かる。是非案内してくれ。」


「わ、分かったから離せ、離せよっ!」


ドサッ……


なにかの落ちる音。

そこにはこちらを見て立ち尽くすユリスと、足元に落ちた馬の飼い葉。


……たしか、以前もこんなシーンあったよな?







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