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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第六章 初めてのおつかいに行ってみた
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暗電流のメッセージ

チヨルドとコスカの中間地点にある宿場町カワサ。

俺たちはそこにある小さな宿屋に転がり込んだ。

ロットンが狙ってくると宣言した以上、野宿をする気にはなれなかったのだ。

とりあえず、食堂で夕飯を取りながら今後の計画を考えなくては……。


「……で、なんで私まで連いてこなきゃいけないんだ?」


ロロがブスっという。

その手にはフォークとジョッキが握られている。

勿論、ジョッキにはなみなみとエールが注がれていた。


「……しっかり自分も注文しといて文句言うなよ。」


「あれだけ助けてやったんだ。メシくらい当然だろ!」


「むしろ、捕まってるお前を助けてやったじゃねぇか。」


「助ける気なんてなかったくせによく言うな!成り行きだろうが!」


うー……とにらみ合う俺たち。

だが、まぁ、正直今回ロロの助太刀を得られたのは大きい。飯くらいなら好きなだけ食ってくれという感じだ。


「ご主人さま、ここは引き返してスーセリア様に事情をお話ししたほうが良いのではないでしょうか?」


リジットがそう提案してきた?

だが、俺は首を横にふる。


「いや、やつはお尋ね者のくせに平気で街の食堂に出入りしていやがった。おまけに瞬間移動みたいな魔法も使える。チヨルドにいたからって安全とは思えない。むしろ、ジーナとユーリッドも巻き込むことになっちまう。」


「ご主人さま……。」


不安げな目でユリスが俺を見る。


「大丈夫だ。あんなやつら、俺がふきとばしてやるさ。」


と、ユリスに言いながらも思う。


……正直自身はない……。


あんな炎を巻き上げるような魔法や、ユリスを浮かび上がらせた魔法。

どれも俺にはできない魔法だ。正直魔法合戦では勝ち目がないのではないだろうか。


だけど……。


ユリスの顔を見る。

この世界に来てからずっとついてきてくれたユリス。


……諦めるわけにはいかないじゃないか。



だから、笑うしかないのだ。


「そういえばユリス、お前インパクトブレーカーなんか……。」


「はい。以前ご主人さまからどんな魔法かは伺っていたので、見よう見まねでしたけど……」


って、俺が教えたのって、フォスのスペルを使ってる魔法だってくらいなんだけどな……。

……ユリスのこういうところは本当に末恐ろしい。


だが、これでユリスは接近戦に圧倒的に強くなる。

昼間のように抱きかかえて逃げようとはできないはずだ。


「ご主人さま。先ほど宿の者に聞いたのですが、明後日にはコスカ領で軍の披露会があるそうですよ?」


「披露会?」


「はい。まぁ衛兵たちの日ごろの成果を町の人間の前で披露するのだとか。おそらくフィーン爵もその日はそこにいらっしゃるかと。」


二日後だと、ちょうど俺たちがついたころ……か。


だったら、なんとか街にさえ転がりこめればひとまずはなんとかなるだろう。

まさか、そんな衛兵が集まってくる中は襲ってはこれないはずだ。


「町まで入ればこっちのもんってことだな。……なぁロロ。」


「ふぁ、ふぁによ?」


口一日に豚肉の酢漬け焼きを詰め込んだロロが答える。


「……」


「な、なんなっのよ。声かけといてだまらないでよ。」


「……頼む。明後日まで俺たちと来てくれないか?」


「はぁ?なんで私が!?あんなやばそうなやつとやりあうなんて御免よ。」


……だよなぁ。

俺だってロロの立場ならそう答える。

仕方ない、俺達でなんとかするしかないな。


「でもまぁ……出すもんだすなら考えてあげても……いいわよ?」


「本当か!?」


「ま、まぁ……ね。だいたい、あんたを倒すのは私なんだから、先に殺されたりしたらつまんないっていうか……。」


助かる!

キマイラのの時も思ったが、こいつはなんだかんだいって結構腕がたつのだ。

今は味方が一人でも欲しい。


よし、これでなんとかコスカまでは逃げ込んで見せる。



-----------------------------------

その夜のことだった。

俺は寝付けずに、一人部屋で酒を飲んでいた。


と、そこにノックの音。


「空いてるよ?」


俺がノックにそう答えると扉が開いた。

そこにはユリスが立っていた。


「……どうした?」


廊下のランプによる逆光でユリスの表情は見えない。

ユリスは音もなく部屋に入ると、扉を閉めた。


「……ご主人さま……。」


「眠れないのか?」


「……はい。」


「そっか……。まぁ、入れよ。眠れないのは俺もさ。」


そういうと、ユリスは俺の手の届くところまで近づいてきた。

窓から刺しこむ月明かりに照らされたユリスはまるで現実世界の人間ではないような、そんな儚さがあった。


「ご主人さま……。私。あの人の目が忘れられないんです。」


「あいつの目が?」


「はい……。あの人の目。暗く、黒く、くすんだ目です。あの目は……あの目は多分私なんです。」


それはまるで告解のような話し方だった。

心にたまっていた何かを吐き出すような、そんな語り方だった。


「ご主人さまに拾われる前の私は……それは人間とも呼べないような生活をしていました。あのベルーナさえ、それまでに比べればマシなほうです。ご主人さまには言えないような爛れた、汚れたこともたくさんしてきました。」


「…………」


「朝目覚めたら、まず自分自身の感情を、心をつぶすんです。目が覚めてしまった絶望を感じないように。思考を止めて、ただ起きることをひたすらに受け入れる為に。それは死すらも、あまく感じる生のなかで、私が生きるための日課でした。」


ユリスは自らの胸に手を当てて、少し震える。

その時のことを思い出しているのだろうか。


「私だけではありません。みんなそうでした。私と同じ境遇のものはみな。そして、それはあのロットンと同じ目でした。あいつの言う通りなんです。ご主人さまに拾われて、私の心は……まるで無理やりにこじ開けられました。」


ユリスは笑った。

それは冗談めかして言っていたけど、でも、俺を非難する響きもたしかにこもっていた。


「でも、どんなにご主人さまによくしていただいても……私の中にはまだあの地獄がいるんです。静かに……でも深く。それは私の体の隅々染み込んでいるいます。この手も、胸も足も、この傷にも……。」


震える手で自らの傷をなぞる、ユリス。


俺をその手をつかんで止めた。


「だったら、これから幸せをつかんでいけばいいじゃないか。上から楽しい思い出で塗りつぶしていけばいい。」


「だって……だって……。わかるんです! 私は同じなんです。わたしはあのロットンと同じ……なんですよ?」


ユリスの目から涙があふれる。


「違う!そんなわけないだろ!!」


俺はユリスの手を引っ張る。

そして、その涙を俺は指でそっとぬぐった。


「あいつの目は……涙なんて流さない。」


ユリスの涙をぬぐった手を、ユリスは両手で掴んだ。


「ご主人様……お願いがあるんです。私に命令をしてください。」


「……命令?」


「私に………ご主人様を……愛せと……命令……してください。お願い……お願いです……。」


そしてユリスは力が抜けるように膝をついた。

でも、握りしめた俺の手は離さない。

微かな嗚咽が聞こえる。


「……馬鹿」







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