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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第六章 初めてのおつかいに行ってみた
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事象のラプラス変換

「やめとくんだな」


しゃがれた声に振り替えるとそこにいたのはロットン・フェイス……腐り顔だった。

忘れたくても忘れられない、爛れた顔と隻腕、そしてギラギラとした目。


「お前がいくら早くても、その魔法はよけられねぇよ」


「こ、これはロットン様!なぜここに?」


「さぁなぁ。運命……じゃねぇの?なぁ、そう思うだろ?」


そう言ってロットンはこちらを見る。


冗談じゃない。そんな運命願い下げだ。

しかし……最悪だ。どうやらこの青と赤は『贄』の一員らしい。


「雷撃呪か?俺も見るのは初めてだ。使いこなせる奴がいたとはな。」


「雷撃呪……ですか?」


「ああ、チヨルド王家に伝わる禁呪の一つだ。使えるやつがいなくて封印してるって聞いてたんだがな。……で、なんでお前らこんなところで遊んでんだ?」


「……は。実は件のスーセリア王女の密書らしきものを……。」


「ほう?」


嬉しそうにロットンは俺を見る。


「奇遇だねぇ、こいつらから聞いてるかもしれないが、俺らも今はその密書を探す依頼を受けててな。まさかお前が……そうか……。」


そう言って、ロットンは少しなにかを考え込むようなしぐさを見せる。


「つまらん仕事でその日暮らしの金を稼がにゃならんのも、チンピラ集団の悲しさよと思っていたが、存外おもしろい事ってな起こるもんだな。」


どうやら戦闘に参加するつもりらしい。

ロットンの周囲に魔力がみなぎる。この間も思ったが、こいつはとんでもない量の魔力をもっている。それが仇となり、前回は腕を吹き飛ばしたわけだが、今回はそんな油断は無いだろうな……。


「さてと……俺も混ぜてくれよ。仕切り直しと行こうじゃないか」


ロットンは片腕を上げて、ユリスのほうにむけた。


「……!ユリスッ!!」


俺が叫ぶとほぼ同時にユリスの体が浮かび上がる。


「え!? いやっ!!」


ロットンの腕を引く動作に合わせてユリスの体がロットンのほうに飛ぶ。


「ユリス!!」


ロットンは飛んできたユリスを片腕で起用に受け止める。


「まずは人質。基本だよな?」


そう言って奴はユリスの体を抱えたまま、ユリスの顎を手で持ち上げ、その顔をのぞき込む。


「お前……。いい目をしてるな?」


「ふざけたこと言ってんじゃねぇ!!ユリスを離しやがれっ」


俺はロットンにとびかかるが、青に遮られてしまう。

くそ、ユリスとの距離が近いか?雷撃呪が使えない。だが、それ以外の俺の攻撃はこいつに通じない。


「……ずいぶん曇っちゃいるが、こいつは地獄の窯の底を舐めてきた奴の目だ。だが、どうしたことだよ。お前の目はもっと暗かったはずだろ?今はいらねぇ靄がかかっちまってる。いらねぇ希望を見ちまってる。台無しだ。台無しだよ、そんなんじゃよ。」


「離し…てください!」


ユリスがなんとか体を引きはがそうとするが、その体はまったく動かない。


「変な希望を見てんじゃねぇよ?おめぇは知ってるはずだ。この世にある甘い絶望を。諦めて、心を自らのかかとで踏みつぶして、薄ら笑いを浮かべるあの甘い絶望を……」


「はなし…て……。」


ユリスは離れようとしながらも、その視線はロットンの目にくぎ付けになってる。

やばい……このまま、やつの目を見続けさせたら駄目だ。


ユリスはその瞳に引き込まれていき……、


「離せよ、この変態!!」


ロロがロットンの背後からとびかかる。

しかし、ロットンが一瞥すると巨大な炎の柱が立ち上り、ロロの動きを止めてしまう。


「あめぇんだよ」


だが、その瞬間、わずかに腕の力緩んだ。その隙にユリスがロットンの腕からすり抜ける。


「ちっ、逃がすか!」


再び腕を伸ばして捕まえようとするがロットン。

両手を前に突き出し、少しでも距離を離そうとするユリス。…いや、離れようとしてるんじゃない!?


「!!」


ロットンも気づき、反射的に上体をひねる。

次の瞬間、ロットンの体がはじけ飛んだ!


インパクトブレーカー⁈


それは、まさしくインパクトブレーカーの生み出す衝撃だった。集約した運動エネルギーの解放。

ユリスのやつ……いつの間に……?

俺は教えてない。まだ、勉強も交流の計算を教えたところだ。チャージポンプ回路からしても教えていない。……一体どうやって……?


「「ロットン様!?」」


吹き飛ぶロットンを見て。赤と青が血相を変えるが、ロットンは何事もなかったかのように立ち上がる。


……いや、何事か……あった。


それは、満面の笑みだった。


「クク……クヒヒヒヒhk……」


悪魔の笑い声だって、もう少し耳障りがいいにちがいない。


顔を引きつらせ、目を輝かせ、自らの傷を誇るようにロットンは笑う。


「最高だ……お前ら……本当に最高だな。こりゃぁ、ここで食っちまうには惜しいよなぁ?」


「な、なんだと!?」


……多分、こいつとは会話をしてはいけない。こいつと話すと、場を完全に支配されてしまう。


ゴクリ….


喉はカラカラに乾燥しているのに、それでも唾を飲もうと動く。


「ゲームをしようじゃねぇか。ルールは簡単、鬼ごっこ……だ。俺らは鬼、お前らはウサギだ。」


「ゲーム……だと?」


「賞品はそこのお姫様だ……。良い女じゃねぇか。俺のところに連れてって、その薄っぺらな化粧をはいでやるぜ?おめぇは俺に近いはず…そうだろ?」


「ご、ご主人様っ!」


ユリスが俺のそばにかけより、俺はユリスを背中にかばう。


「ふざけんじゃねぇ!」


怒りに回せてフォスで石礫を放つが、青がそれをはじき返す。


「迎えにくるぜ、お姫様。……阿鼻と叫喚を携えて、俺はお前を迎えにいく。待っていろ……」


一方的にそれだけ言ってロットンはまた姿を消してしまった。



「……ねぇ、青この場合私たちはどうすればいいのかしら?」


赤がリジットの攻撃をさばきながら青に問いかける。


「まぁ……撤退だろね、この場合。」


青も肩をすくめて答える。


「それでは主人が失礼をいたしました。そちらのお嬢様……は後日いただきに参上する……ようです。密書もその時に……となるでしょうか。」


「そうだねぇ。メイドさん……あんたなかなかやるね。今度は本気でやりあおう……よっ!」


と言ってリジットのナイフを赤が跳ね上げると、リジットと距離をとる。


「では、失礼します。」


「チャオ!」


そして、ロットンと同じように青と赤が消えた。


……くそっ、どうなってやがるんだ。



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