交錯する導波路
倒れた隊長の後ろに1人の衛兵が立っていた。
兜にに手を掛けて投げすてる。
青髪長髪の男だ。
細い目がこちらを油断なく見据えている。
「ドサッ」
背後が何かが落ちる音。
それは俺たちの背後を囲っていた衛兵が馬から落ちる音だった。
「ちょっと〜、こんな所で動いて良かったの?せっかくココまで潜入してきたのにパーじゃん。」
もう1人の立っている衛兵。こちらは女のようだ。
「構いませんよ。そろそろもう少し上に行っておきたかった所です。その山賊娘が逃げ出そうとして隊長以下2名を殺害。私とあなたでなんとか取り押さえ、その場で処刑した。そんな所でいいでしょう?」
「ふーん。じゃ目撃者は?」
「不幸な事故でした、ね。」
正面の男がそう言って薄い笑みを、浮かべる。
これ……完全にヤル気だよな……。
「お前ら、何者だよ?」
「これは失礼いたしました。私は……そう青と名乗りましょうか。その手紙に興味のあるものですよ。」
「そしたら、私は赤かなぁ?」
後ろの女ももう名乗る。
「適当な名前だな……。それで、手紙を渡せば見逃してくれるのか?」
「ん〜〜、目撃者は消さなくてはいけませんし、無理です。」
ですよね〜〜。
と、思いつつ、俺は魔法を発動。
問答無用の先手必勝だ。
初動でフォスを使った瞬動からのインパクトブレーカー。
だが、奴に魔法を発動する寸前に奴の体が消えてしまう。
どこにっ⁈と、思うより前におれは左足のフォスを使って体の軌道を無理やり変えて横に跳ぶ。
一瞬遅れて俺の体があった場所を剣閃が走った。
青かいつの間にか背後に回り込み剣を振り抜いていたのだ。
辛うじて交わしたが、体制が崩れた為着地は失敗してしまう。
「ほう?やりますね……。」
青は余裕の呟きだ。
「なぁに、仕留め損なってんのさ♪」
赤が膝を着いてる俺に飛びかかってきた。その手には爪の様な武器が握られている。
「ご主人様っ!」
俺と赤の間にリジットが割り込み、爪の攻撃を弾いた。
リジットの手にはナイフが握られている。
「大丈夫ですか⁈」
「あぁ、助かったよ。しかし……。」
まさか、あんなに完全に避けられるとは思わなかった。
……っていうか、アレを避けられたら俺にはもう手がないのだが……。
「動きは早いが、身のこなしは全然ダメですね。という事は魔法ですか?」
興味深げに青がこちらを見る。
……身のこなしがダメで悪かったな。
しかし、そういうセリフが出てくるという事は青の眼前から消えた様な動きは魔法じゃないということか?
だとしたら、とんでも無い身体能力だぞ?
「あらあら、私の攻撃を弾くなんて。貴女がわたしの相手かな?」
赤はそう言って両手の爪を砥ぐようにあわせる。
「素敵な悲鳴をきかせて?」
「ふふふ、悲鳴を挙げるのは貴女のほうですよ?」
おお、リジットも強気だ。
「私もいるぞ!」
その声と共にデスサイズが赤に遅いかかる。
いつの間にか手の自由になっている。どうやらユリスがロロの手を縛る縄を切ったようだ。
「ロロ?助けてくれるのか?」
「ち、違うわよ! こいつら絶対私も殺すでしょうが。それから、ロロっていうな!」
これで3対2。いや、ユリスもファイヤーボールを展開して牽制してくれているから4対2か。だが、それでも青も赤も余裕の表情をくすさない。
「それでは赤。その3人はしばらく抑えといて下さい。その間に私がこの男を先に始末しますから。」
「あれ?そしたらこの3人は私が貰っていいって事?」
「まさか。こちらを始末したら。私もそちらに加わりますよ。楽しみは取っておいて、じっくりと…ね。」
「なんか変態ぽーい。」
「私の高尚な趣味に口出ししないで貰いたいですね。」
と、青の姿が一瞬で目の前にくる。
くつ……
再びフォスで跳んで距離を取ろうとするが、やつはその動きについてくる。
「ククク……確かに速いですが、そんな直線的な動きではいけませんね。」
くそっ。
回避軌道をランダムに取るが、青は完全についてきている。そして、嬲るように剣戟を与えてくる。
俺も剣を振り回すが、まったくあたる気配はない。
と、リジットたちも戦闘に入ったようだ。
赤はリジットとロロの攻撃をまるで舞うような動きでかわしている。
そうしている間にも、青の剣が俺の首筋をかする。
「ほらほら、もっとしっかり避けないとすぐに致命傷ですよね?」
衛兵の鎧を着てるくせになんて動きだ……。
そうこうしている間に俺とリジット達との距離が段々離れて行く。
「ご主人様!」
それに気づいたユリスがこちらに近づこうとするが……。
「来るな!」
俺はユリスを止めた。
やっと。ここまで距離をとったのだ。ここで近づかれたら台無しになってしまう。
「おやおや。いいのですか?私は2人がかりでも構いませんよ?」
青は余裕の表情で俺の前に立つ。そして、剣をクルクルと回した。
そんな青の顔面に向かって思いっきり手にしている剣を投げつける。が、青はアッサリかわし、剣は藪へと突き刺さる。
「……最後のヤケですか?そんな攻撃あたるわけないでしょう?」
青は呆れたような表情をする。
「まぁ、もういいでしょう。止めを刺してあげましょう。」
どうやらとどめを刺すつもりのようだ。
俺は静かに目を瞑り片膝をつく。
その様子を青は俺が観念したととったようだ。
もうやるべき事はやった。あとは……
「いい覚悟です。苦しまずに逝かせてあげますよ。さようならっ!」
青が地面を蹴った瞬間。
何かが破裂するような音が響き、そして数秒遅れて誰かが倒れる音がする。
俺はゆっくり目を開き、それが青である事を確認した。
……どうやら成功したようだ。
雷撃呪。
俺は雷撃呪の放電口を一方を足の下の地面に接地させアースをとる。もう一方を俺のの力場のできるだけ高い位置に設定し、気中放電する限界まで魔力をかけた。気中に放電されればそれはアース、つまり地面に落ちる。まぁ、雷と同じだな。
この放電ぎりぎりを維持することで俺の周りには雷の結界が産まれる。
つまり、この結界の中に導体である金属の剣や鎧を身につけた物が入ればそいつに向かって放電が起きるのだ。ポイントはこの魔法をやるときに俺が金属物を持っていると、俺に雷が落ちてしまうという事だな。あと、仲間がち、近くにいる時も使えない。仲間に雷が落ちちゃうかもしれないからな。膝をついたのも、少しでも俺に雷が落ちる可能性を少しでも下げるためだ。
「ぐ……一体何が?」
まだ意識があるらしい
「ちょ、ちょっと!なにやられてんのよ!」
赤もこちらに気づいたらしい。
ま、あれだけ派手な音がすりゃぁなぁ。
「くっ……」
青が飛び起き俺と距離を取る。
だが、まだダメージが、あるのは一目瞭然だ。
「……や、やってくれますね…。」
「どんなに速く動いで無駄だぞ?確実に俺の魔法の方が速い。」
……本当は剣と鎧武捨てればいいんだけどね。
まぁ、剣はともかく鎧を脱ぐのをわざわざ待つつもりはないが……。
「ふ……ふふ……それは……どうでしょうかね?」
青は再び突撃の構えをみせる。
おそらく、やつは何をされたのか分かっていないはずだ。ただでさえ一瞬の雷撃なうえに、昼間の放電は非常に見えにくい。
……もう一度突っ込んでくるなら、また食らわせてやるまでだ。
俺は雷撃呪を再び展開する。
「やめときな!」
突然しゃがれた声がその場に響いた。
その声の主は……。
……ロットン・フェイス……。