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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第六章 初めてのおつかいに行ってみた
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部内秘情報は突然に

馬車の振動に揺られながら、海沿いの街道をすすむ。

茹だるような真夏の陽気だが、風があるためかろうじて耐えられるな。

コスカの街までは馬車で片道3日ほどの道程だ。往復では1週間。

その間、店はユーリッドとジーナに任せ、俺、ユリス、リジットでの旅となった。馬車にはスーセリア王女より託された手紙と、幾ばくかの冷蔵バックとヒンヤリ服を積んでいる。

危険な旅になる事も予測された為、本当ならば護衛を雇いたかったのだが、スーセリア王女より護衛を雇うのは禁じられてしまった。曰く、

「何のためにキマイラ殺しの貴様に頼んでいると思うのじゃ。」

だそうだ。

まぁつまり、余計な人間を増やせば、それだけその人物にも警戒をしなくてはならない。出来るだけ信頼の出来る少人数で行動して欲しいという事らしい。

それなら、せめてブルをと思ったが、すでにブルはすでに別件の仕事を依頼しているとのことだ。



「ご主人様!海がスゴイです!」

ユリスが隣ではしゃいでいる。

基本山間部の街で育ったユリスは海が珍しいのだろう。チヨルドから見える海とはまた違った景観に、新鮮な驚きを口にする。

リジットは馬車の中でなにやら手紙を書いていた。おそらくラッセンへの報告書だろう。まぁ、今更咎める事もない。むしろ、いつもメイド服を姿しか見ないので、久しぶりの旅装束姿はなんか新鮮に感じてしまい、そちらに注目してしまう。


そんな事を考えなら馬車を進めていると、ギユルルル〜と腹の虫が鳴り出した。


「そろそろ昼食になさいますか?」


と、中からリジットが声をかけてきた。

……腹の虫の音が聞こえたのだろうか


「そうだな。適当な所で昼飯にしよう。」


俺はそう答えて、昼食に良さげな場所を探す。

ちょうど、もう少し進むと丘の上に何本か木が生えている場所が見つかる。あそこなら、木陰で食べられそうだ。この時期、炎天下で食事はちとつらいからな。




馬車を目的の木に寄せて停めると、中からユリスとリジットが出てきてテキパト食事の支度を始めた。俺は馬に飼い葉を食べさせながら、ぼーっと2人の仕事ぶりを眺めている。


2人とも随分と連携が効くようになったもんだ。


しっかりと役割分担をして食事の支度をしている2人を見ていると、2人して競うように朝食を作って、食べきれなかった事などが懐かしく思えるな。


……そういえばユリスもリジットも働き詰めなんだよな。


2人には休日という休日がないのだ。

リジットはまだ、たまに「本日お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」と言われる事があるが、ユリスはそれもない。一度、お休みはいらないのかとユリスに聞いたところ、キョトンと不思議そうな顔をされてしまった。

だが、魔道具屋オームズ・ロウはブラック企業ではないのだ。これは帰ったら一度みんなのワークシフトを考えなくてはいけないかもしれないな。


そんな風に2人の仕事ぶりを、感心しながらみていた所に、馬の蹄の音が聞こえてきた。視線をそちらに向けると、衛兵と思しき一団がこちらに向かっているのが見えた。

白く輝く鎧の色からして、チヨルドの衛兵だな。徒歩の人間もいるらしく、馬の歩みはゆっくりだ。しかし、この暑い中、よく金属の鎧など付けられるものだ。


近づいてくると、徒歩の人間は衛兵ではないことに気づいた。そいつだけは何やら黒っぽい服を着ている。

どうも、手を縛られて、馬上の衛兵に引っ張られている様だな。犯罪者がなにかだろうか?


黒っぽい服。とうも女の様だ。俯いていて顔は見えないな。

……ん?よく見ると修道服か……?


って……まさか……


衛兵の一団が俺たちを一瞥しながら通り過ぎようとする。

その時、繋がれた女の横顔が確認出来た。


「ロロ⁈」


予想外の人物に思わず声に出してしまった

そ、そうか。悪運のロロとか言われていたがとうとう捕まったのか……。

……ま、あれだけ派手に道行く馬車を襲えばなぁ……。


と、衛兵の視線がこちらにむく。


……しまった。さっき思わず声を上げてしまったから……。


自らを連れていた衛兵の動きにつられ、俯いていたロロも顔を上げる。そして、俺と目があってしまう……。


「お、お前……ウィル・ハーモニクスじゃないか!」


……ロロが俺の名前を読み上げてしまう。


やばいかなぁ〜と警戒しなかまらそろりと衛兵のかおを見ると、なんだか怖い顔をなさっているような?


そして、その中の1人が腰の剣に手をかけながら、近づいてくる。


「貴様ら……こいつの仲間か?」

「め、滅相もないっ。違います!」


……と、そこでロロの目がキランと光ったような気がした。


「…なに言ってるんだウィル。私たち一緒に戦った『なか〜ま』、じゃないか!」


この野郎……。

ロロが今まで聞いたことのない友好的な声で、いらん事をのたまってきやがる。


「ざけんなテメェ。後で殺すとか言ってたじゃねぇかっ!」


「そんなの、仲間内の軽いジョークにきまってるじゃなーい。」


こ、こいつはあくまで俺を巻き込む気かっ!


「ふん、あやしいな。チヨルド外出警護部だ。少し改めさせてもらいたい。屯所までご同行願おう聞こう。なに、無実ならすぐに解放してやる。変な気は起こすなよ?」


この男がリーダーなのだろう。

男の言葉に合わせて、他の衛兵が俺たちをグルリと取り囲む。

こ、これはさりげなくピンチなのでは……。


「ご、ご主人様…?」


ユリスが不安げに俺の服をつかむ。


「ククク….…」


見ればロロが声を殺して笑っている。


……壊したい、あの笑顔……。


「お待ちください!」


これは尋問不可避かと思ったとき、リジットが声を上げた。


「我々は恐れ多くも第三王女スーセリア様の勅命を受けております。」


ドーン!!


まるで水戸黄門の印籠のようにスーセリア王女の書簡を掲げるリジット。


「そ、それは確かにスーセリア王女の封蝋印!」


「そうです!これでもあなたは私たちを連れていきますか!?その権限があなたにあるんですか!?」


リジットがどや顔で隊長格の男にウリウリと手紙を近づける。衛兵のリーダーがそれに押されるようにあとずさる。


さ、流石王女の印。効果は覿面だ。

覿面なのだが

あの手紙って密命なんだけど、そんなに簡単に見せたら……。


「そ、それは………ッガ!!」


リジットに押されていた隊長格の男の体がビクンとはねた。


「……え?」


リジットが呆けた顔で見ている目の前で、隊長格の男はゆっくりと倒れる。

背中に刺さる一本の剣。


顔を見合わせる俺とリジット……。


「ククク……まさか王女の密書がこんな所にあるとはねぇ。王都潜入の、くだらない仕事かと思っていましたが。」


何処からかそんな声が聞こえる。


「……リジット……」


「え、え?わたし?わたしのせいですかぁ⁈」


……ほんと、こいつはメイド業以外はポンコツだな。




秘密と言われると見せたくなる。

今、何開発してるとか言いたくなる。

でも、社外でそう言う会話はご法度なのです。


さて、ココまでお読みくださりありがとうございます。

引き続き、お付き合いいただければ、嬉しいなぁ。


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