なぜなにユリスちゃん4
ユリス「連載50部目特別な企画!なぜなにユリスちゃん4〜っ!」
ウィル「初っ端からメタいな。」
ユリス「なんだかよく分かりませんけど。記念なんですよ! めでたいのです。」
ウィル「そうなぁ、こんなに長い話になるとは思わなかったもんなぁ。」
ユリス「と、言うわけでご主人様、教えて下さい!」
ウィル「なにを?」
ユリス「オペアンプって……なんですか?」
ウィル「……きたか……」
ユリス「だって、作中では10万倍に増幅できるけど、100倍増幅でしか使わないとか。ゲインが自由に設定出来るとか……ちんぷんかんぷんです!」
ウィル「ちんぷ……また古いねお前も。」
ユリス「ご主人様の世代に合わせてるだけですよ?」
ウィル「お、俺はまだそんな年じゃっ⁈」
ユリス「お酒を飲めない私からみたらそんなに変わらないですよぉ。」
ウィル「……このコーナーのユリス。キツイから嫌いだ……」
ユリス「さ、気を取り直していきましょう!」
ウィル「そもそも気を落とさせないで欲しいのだが……。えっと、オペアンプだったな。」
ユリス「はいっ!」
ウィル「まず作中の説明の繰り返しになるが、オペアンプは二入力一出力の素子だ。二つの入力の差を10万倍から100万倍にして出力する。回路図では下のような三角形で表現されるな。」
ユリス「でも、出力できる範囲は電源電圧までなんですよね?」
ウィル「そうだな。さて、具体的な使い方を見てもらったほうが分かり易いだろう。これが、一番シンプルなオペアンプの使い方『反転増幅回路』だ。」
ウィル「この時の出力は
Vo=-(R2/R1)×Vi
になる。式からわかるように。R2とR1の値で自由に増幅量を変えられるんだ。これがオペアンプの強みだな。」
ユリス「でも、『-』がついていますから、逆の電圧になっちゃうという事ですか。あ、だから『反転』増幅回路なんですね。でも、反転しちゃうんじゃ使いにくそうです。反転しない回路はないんですか?」
ウィル「あるぞ。それは非反転増幅回路と呼ばれている。これもよく使われる回路だな。」
ウィル「出力電圧は
Vo=(1+R2/R1)×Vi
で計算できるぞ。」
ユリス「なるほど、これなら反転はしませんね。でも、だったらいつもこっちを使った方がよいのでは?」
ウィル「いや、この非反転増幅回路には致命的な欠陥があるのだ。」
ユリス「そ、それはなんですか?」
ウィル「増幅率を決めてるところに[1+R2/R1]となっているだろう? つまりこの回路は増幅率を1以下にできない。つまり減衰させる回路が作れないのだ!」
ユリス「そ、そんなっ!
……って、それって問題なんですか?」
ウィル「問題だぞ。フィルタ回路を作れないんだ。」
ユリス「フィルタ回路?」
ウィル「フィルタ回路というのは、必要な信号だけ通して、不要な信号をカットする回路だな。メジャーなところで高い周波数の信号をカットして、低い周波数の信号だけ通す『ローパスフィルタ』。反対に低い周波数の信号をカットして高い周波数だけを通す『ハイパスフィルタ』なんてのがあるな。」
ユリス「えっと……周波数ってなんですか?」
ウィル「そ、そうか。そこからか……。周波数っていうのは1秒間に何回波があるかってことだな。1秒間の波の数が多いほど高い周波数。少ないほど低い周波数だ。人間の声で言うなら、甲高い音は高い周波数、野太い声は低い周波数だな。甲高い声の人が100人しゃべっている中で、低い声の人のしゃべってることを聞き取ろうとしたらどうなる?」
ユリス「えっと……多分すごく聞き取りにくいと思います。」
ウィル「そ、だから甲高い声を通さないように魔法をかけちゃうのさ。」
ユリス「なるほど、不要なものを成分毎で区別することで、選択的に不要成分を除去するんですね。」
ウィル「お、おう……。(相変わらずこの娘は……)」
ユリス「? どうかしましたか?」
ウィル「いや、何でもない。まぁ話しをもどしてだな。例えばこのローパスフィルタをオペアンプで作るとこんな感じになる。」
ユリス「……反転増幅回路にコンデンサを追加しただけですね。」
ウィル「そうだ。簡単だろ?
コンデンサっていうのは高い周波数の信号を通して、低い周波数の信号は通さない性質があるんだ。直流に対しては絶縁だな。言い換えるなら高い周波数の信号に対しては低い抵抗として、低い周波数の信号には高い抵抗として働く。」
ユリス「そうすると……どうなるんでしょうか?」
ウィル「うん。R2とC1が並列になっているだろう。イメージ的な説明をすると、高い周波数の信号はC1を通って低い周波数の信号はR1を通るってイメージだ。」
ユリス「それぞれの信号の通る場所が変わってくるんですね?」
ウィル「あくまでイメージな。で、そうするとどうなるか……先ほどの増幅率の式
Vo=-(R2/R1)×Vi
のR2の部分が高い周波数にとっては小さくなってくるということだ。するとどうなる?」
ユリス「高い信号にとってはR2が小さくなる。ということは高い信号ほど出力は小さくなります。」
ウィル「そういうことだな。だが、これはさっきの非反転増幅回路ではつかえないんだ。」
ユリス「非反転増幅回路の計算式は
Vo=(1+R2/R1)×Vi
だからR2がどれだけ小さくなっても増幅率は1倍以下にはない。つまり信号を減衰させられないんですね」
ウィル「これが非反転増幅の欠点だね。入力インピーダンスが高いとか、メリットもたくさんあるんだけどね。」
ユリス「なるほど……ようは使い分けという事ですね。」
ウィル「そうだな。それにここに書いた反転増幅回路、非反転増幅回路はオペアンプの本当に基礎の基礎で、いろーんな回路があるから、興味を持ったら調べてみると面白いぞ。」
ユリス「なかなか奥が深そうです。」
ウィル「深い、深い。深すぎてよく溺れてるよ。」
ユリス「わかりました。とりあえずオペアンプは増幅率を簡単に変えられる増幅回路! フィルタも作れてとっても便利!ってことでいいですね?」
ウィル「……あ、はい。それでお願いします。」
ユリス「以上!果たしてここまで付き合って読んで下さった方はいるのか?なぜなにユリスちゃんのコーナーでした~。」
ウィル「そ、そゆこというなよ……。(グスン)」
今回はオペアンプの使い方でした。
でも、このオペアンプ、電気のプロでもたまーに間違って覚えてる人がたまにいます。
(イマジナリーショートを本当にショートしてると考えてる人とか……。)
と、言いつつ自分も勘違いしてるところがまだまだあるかもしれないなと、いつもヒヤヒヤな三流技術者です。
それではココまでお読み下さりありがとうございます。
引き続き、お付き合いいただけたら、嬉しいなぁ。
(補足)
イマジナリーショート
今回説明したような反転増幅回路や非反転増幅回路は、プラスマイナスの入力端子が常に同じ電圧になるように回路が作動します。これを、まるで二つの入力端子がショートしてるかのように見える事からイマジナリーショートと言います。
ですが、回路の動作の結果同じ電圧になるだけで、実際にショートしている訳ではありません。