電気は抵抗値の低い所を通ります
オームズ・ロウの経営もやっと軌道に乗ってきたかと思った矢先、俺は例の第3王女、スーセリアに呼び出されて、再び王宮へと訪れていた。
今回はリジットに付き人として同行してもらっている。
いや、一介の商人に付き人なんているのかと疑問なのだが、
「付き人の1人もいない商人では軽んじられます。これは、チャンスの場なのですよ?」
と、リジットに押し切られてしまったのだ。
ちなみに、今回は多少時間もあった為、謁見の服も揃えた。と、いってもリジットとジーナに全て任せてしまったが。
その結果、十二単のごとく重ね着をした格好になっており、真夏の炎天下には、かるい拷問だ。おまけに服が重なっている為ペルチェを、使った冷却も出来ない。
リジット曰く、王族と会おうというならこれくはいは仕方がないとらしい。
……くそう。いっそメイド服が羨ましい……。
そんな思いを知ってか知らずか、リジットは俺から三歩下がってすまし顔だ。
あー、早く脱ぎたい。
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今回は王宮に着くと、スムースに奥まで通された。前回は謁見の間だったが、今回はスーセリア王女の私室らしい。……なんか、却って緊張するな……。
謁見の間ではないという事は、公式の会談ではないという事だろうか。
王宮のかなり奥まで、衛兵に連れられると、他の扉より一段豪華な装飾を施された扉の前までたどり着いた。
扉の左右にはメイドが控えており、衛兵は何事かをメイドに伝える。すると、メイドは軽く扉をたたき、中にむかって何事かを伝える。
聞こえはしないのだが、ま、予定してた客人が来たとか、そんな所だろう。
数秒の間ののち、扉が開き、メイドに中に入るように促される。
緊張して、扉をくぐったら中にはスーセリア王女が豪勢な椅子に座って待っていた。
……いや、確かに待っていたのだが、その姿は俺の予想を超えていた。
「そ、その服は……」
挨拶もせずに思わず口にしてしまう、そんな言葉。
スーセリア王女は、うちのヒンヤリ服をお召しになっていた。
「ふむ、着心地がよくてのう。今では室内ではいつもこの格好じゃ。」
王女がそういうと、右に控えた執事が頭を抱え、左に控えたメイドが少し笑っている。
ま、まぁ、それはそうだろう。うちで売っている服は、庶民が普段の作業にも着られるような服であり、間違っても貴族や、ましてや王族が着るような服ではないのだ?
…と、執事がせきばらいをする。
い、いかん。あっけに取られて挨拶もしていない。
「し、失礼いたしました。魔道具屋オームズ・ロウのウィル・ハーモニクス。勅命に、より参上いたしました。」
「うむ。よく来たの。突然の呼び出しに答えてくれて、嬉しく思うぞ。それにしても、仰々しい格好よな。暑くはないのか?」
……暑いわっ!
とも言えない俺はとりあえず笑顔を返す。
ていうが、王女の格好も相まって。えらく場違いに格好のような気がする……,
「恐れながら姫様。我が主人は田舎商人。この様な場所での服装のさじ加減もまだ分からぬのでございます。姫様よりすれば失笑を受けるも致し方ないとおもいますが、田舎者ゆえの不埒とお許し頂ければと思います。」
と、リジットがフォローに入る。
入るのはいいけど、この服選んだの、お前だけどな……。
「別に構わぬがの。今度この私室に呼んだと時はもう少し楽な格好でくるがよい。見てて暑苦しくてかなわん。」
「はっ!」
もう少し楽な格好……これまたニュアンスが難しいな。
いっそ、元の世界のスーツを作ってしまうか?
などと思っていると、王女は話を続けた。
「ま、兎に角この新型の服じゃがの、大変よい出来じゃ。しかし、魔法省の連中が、おま、血なまこになって解析しておるが、今だ再現できぬそうじゃ。」
「はっ。恐れ入ります。」
と、答えながら内心ガッツポーズをする。頑張ってオペアンプを再現したかいがあったというものだ。
「そこでじゃが、実はその方に頼みがらあってのう。」
「頼み……でございますか? と、するとヒンヤリ服の魔法回路の提示せよ……と?」
「いやいや、そうではない。あの回路の解析は今しばらく魔法省にやらせればよかろう。連中には良い刺激になる。」
「……と、すると?」
「うむ、どちらかと言うと魔法具屋としてというより、今回はキマイラを退治したウィルに頼みがあるのだ。」
キマイラを退治したって….…なんか雲行きがあやしいなら。危険な事をたのまれるのではないだろうか?
と、執事が1通の手紙を俺たちの前に持ってくる。
「この手紙をな。コスカ領のフィーン爵まで届けてほしいのじゃ。」
「手紙……で、ございますか?」
何故俺が手紙を?
確かコスカ領はここから南西に行ったところにある。南は海に面しており、ここチヨルドに次ぐカント王国第二の交易都市だ。
都市間連絡は整っているし、まして王族なら伝令役などいくらでもいるはず。それを、わざわざ俺に頼むという事は……。
「随分とキナ臭いお話しですね?」
「ふむ、理解が早くて助かるぞ。ま、内容は私とフィーン爵との個人的な情報交換なのだが、覗き見したがる者が多くて困る」
「しかし、何故私なのですか?正直、そこまで、姫様の信頼を勝ち得ているとは思い難いのですが。」
「ふん、だからこそよ。誰もお前にその様な手紙を持たせるとは思うまい?」
……いや、それは違う。
実態として、姫の信頼など俺が得られていないのは事実だろう。だが、世間から見れば、俺は姫の肝いりで店を出している。俺と姫との関係は深いものと考える輩がいても不思議ではない。
……つまり、俺も囮というわけか……。
「ご辞退申し上げるわけには?」
「わたしの頼みを断る…と?」
「恐れながら、多少の金を積まれたとしても当方にメリットがごさいません。」
「ふむ、中々恐れ知らずな奴じゃな。」
と、王女の横に立つ執事とメイドが気配が微妙に変わる。
背後でリジットも腰に付けたポーチに手を添えた。
「よせ。」
王女がそう言うと、緊迫した空気が少し和らぐ。
俺も内心胸をなでおろす。
「相応しい見返りを求めるのは当然の事じゃろう。」
そう言って、サイドテーブルに置かれた煌びやかな箱を開けると、一枚の呪符を取り出した。
「褒美はこれじゃ、魔法省に伝わる発動呪『雷撃呪』。かつて伝説と謳われた王宮魔術師の奥義と言われておる。でも、今は誰も使いこなせていないがな。」
「雷撃呪……」
名前からして電撃の呪文だろうなぁ。
ロットンの件もあるし、出来れば護身用の魔法を揃えておきたいのも事実だ。インパクトブレーカーだけではどうにも心許ない。
それに、上手くすれば電気を取り出すことも出来るかもしれない。
そう考えると、たしかに、欲しい魔法ではあるな……。
「……報酬はそれだけでしょうか?」
「……意外とガメツイ奴じゃの……。良かろう、それならば成功報酬として金貨10枚じゃ。」
金貨10枚か〜、結構渋いな。だが、手紙を運ぶだけで100万円と考えれば高くも感じるが、往復するだけでも一週間以上はかかるのだ。その間、店の仕事もできない。そのように逡巡していると、王女もその様子に気づいたようだ。
「わかった、15枚じゃ。これ以上はだせんぞ?」
150万円に、特別な発動呪。まぁ、そんなもんだろう。
「畏まりました。この身にかえましても、その大役、果たしてご覧にいれます。」
俺は恭しく神戸を垂れると、王女は苦笑いした。
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店に戻った俺は、暑苦しい服を脱ぎ捨てる。
脱いだところで、汗だくの体に風があたり、ひんやりと体を冷やしてくれる。
まったく……帰ってくる途中で倒れると思ったぞ。
「お帰りなさいませご主人様。」
出迎えてくれたユリスがそう言って脱いだ服を片付けてくれる。
「リジット。次の為にもう少し涼しい服、作るからな。」
「はい、畏まりました。」
嫌味のつもりで言ったのだが、リジットには華麗にスルーされた。
まったく……。
さて、一息付けた所で俺は工房に入り片付けを行う。雷撃呪を試す為だ。近くに金属とかあると危ないからな。
そして、チョット閑散とした工房に1人立つ。
ユリスも手伝いたがったが、どういう風に発動するか分からなかった為、部屋の外で待機してもらっている。
力場を展開し、雷撃呪を起動する。
ふむ、取り敢えず魔法回路の入力は二つだな。
おそらく、こいつに魔力を流せば電撃を発生出来るのだろう。
放電口になりそうな構造が見られる。俺はこれを両手になるようにセット。イメージとしては、スターウォーズの皇帝がびりびりやる感じだ。両手の間をバチバチ放電させるのだ。
早速魔力をこめていく。
すると、魔素がどんどん流れ込んでいき、両手がピリピリしてくる。
感じからして流れ込んだ魔素がそのまま電荷に変換されている感じだ。
なるほど、それなら…
俺は一気に魔力をかける。そして、両手の間にバチバチ放電をさせるのだっ!
ジビバボバッ!
「くぁwせdrftgyふじこlp!!」
全身に電気が走り声にならない声をあげて俺は悶絶する。
「どうしたんですか⁈」
ユリスが飛び込んできて、倒れた俺を助け起こしてくれる。
両手を離して構えていた為、どうやら貯めた電荷が空中ではなく俺の体を走ってしまってらしい。
あ、危ねえ。心臓に電流が走る所だった……。
汗をかいていた事も幸いして、殆ど体の表面を流れたみたいで助かった。
やっぱ一度電気がとして顕現したら、物理法則に従った動きをするらしいな。電荷のプラスマイナスそれぞれの放出口から電荷は放射される。当然だが放出口は力場の中にしか基本設置出来ない。
……あれ?これってどうやって離れた相手に雷おとせるんだ?
相手に電撃を落とすには、相手に魔力の放出口のどちらか接触させなくてはいけない。という事は結局力場の中でなければ使えないという事だ。
って、これじゃインパクトブレーカーと変わらないではないか……。
むぅ、なにか方法は無いものか……。
折角派手な魔法を出したと思ったのに、
物理で考えると地味になってしまうのです。
ココまでお読み下さりありがとうございます。
引き続き。お付き合いいただけたら、嬉しいなぁ。