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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第五章 お店を出してみた!
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微分積分安全運転

ロットンとの騒動の後、あの騒動が嘘だったかのように平和な日々が続いた。

その間に俺はとうとうオペアンプの開発に成功できた。


オペアンプ魔法「627」


おそらくオペアンプ魔法は数種類作る事になると考え識別名称をつける。

ちなみに627は試作番号ではなく、かの伝説のオーディオオペアンプ、OPA627にあやかっての物だ。


さて、これで素子は準備出来た。

いよいよ本格的に温調魔法回路を作っていこう。


-------ココから電気…というより制御の話-------

ヒンヤリ服の温度を一定保つ制御だ。

こう云う時に使われる制御方式はPID制御と言うものがある。

PID制御とはP制御(比例制御)、I制御(積分制御)、D制御(微分制御)を合わせたものだ。微分積分と聞くと難しく感じるが、人間が物を操作する時の感覚に意外と近い。


車の運転に例えよう。

車を時速100キロちょうどで走らせたいとする。

はじめは車は止まっているから速度は0だ。

あなたは車を100キロまで加速させる為にアクセルを踏み込むだろう。(急発進はやめましょうという安全運転はここでは置いておく)

アクセルを踏めば車は加速して行く。そして、時速が80キロ、90キロと目標に近づいてきたらアクセルを緩めていく。これがP(比例)制御だ。

そのままアクセルを緩めて行ったら、時速が95キロで加速が止まってしまった。もう少し加速が必要だなとあなたはアクセルを少し踏み込む。これがI(積分)制御だ。

途中上り坂があって速度が急に落ちてしまった。あなたは速度が落ちきらないよう強めにアクセルを踏み込む。これがD(微分)制御だ。


そして、この制御を回路で実現する為、オペアンプを使い差動増幅回路、微分回路、積分回路を作る。各出力にゲインを設け、加算回路(アナログ)で合わせこむ。積分回路については、積分制御が効き出すタイミングも調整出来るようにする必要があるな。


--------制御の話 ココまで-----


早速温調機能を入れたヒンヤリ服を試着してみる。

魔法を起動した瞬間、服に熱が奪われていくが、その動きが大分優しくなったきがするな。これならいけるんじゃ、ないだろうか。

冷蔵バックの方も、任意の温度に制御出来るから、中のものを凍らせる事も出来るし、凍らせずに冷やすだけにする事も自由だ。


オームズ・ロウでは制御入りヒンヤリ服と冷蔵バックを大々的に販売開始した。


-------

王宮内にて

第三皇女スーセリアは1人昼餉を取っていた。部屋は執事のローランドが人払をした為、彼女とローランドしかいない。

別に父や姉弟と仲が悪いから1人で食事をしているわけではない。弟のハロンを除いてみんな公務に着いており、とても家族揃って食事などしている暇はないのだ。スーセリアは形の良い指でサンドイッチを乱暴に掴むと、あまりお淑やかとは言えない勢いで咀嚼していく。今日はこの後急ぎの仕事さないので、そこまで急ぐ事は無いのだが、1人の食事ではこの食べ方が癖になっていた。


「姫様、お召し上がり方が乱暴ですぞ。」


執事のローランドが苦言を呈するがスーセリアは意に介さない。


「ふん、早食いも芸のうちじゃ。日頃からの鍛錬が重要なのじゃ。」


にべも無い姫の答えにため息をつくローランド。

この癖が他国の重鎮との会食で顔を覗かせやるのでは気が気では無いのだ。


「それで?何か報告があるのなら申せ。」


3個目のサンドイッチに手をつけながらスーセリアはローランドに促す。

彼がメイドを人払した時は、何らかの報告があるときだ。


「はい、例の魔道具屋についでです。」

「ふむ、魔導具屋オームズ・ロウ……だったか?私の名を貸したというのに、ケッタイな名前を付けてくれたものじゃな。あの冷える服や鞄は他店に模倣され、売り上げが落ちているんだったな。」

「はい、そこで新製品を作ったようで、今回はそちらをお持ちしました。」

「ふむ……」


スーセリアは最後のサンドイッチを飲み込み、ローランドから新製品なる物を受け取る。


「……なんじゃ、また服ではないか。今度は温まる機能でも増やしたか?」

「いえ、温度制御を追加した、との事です。」

「温度……制御?」

「はい、服の中を一定の温度に保つのだとか。」

「ふむ……イマイチイメージができんの。そんな事で売れるようになると思っているのか?」


ペルテを使った冷却のアイデアは見事であるったが、所詮はそれだけだ。簡易な魔法回路であり、模倣されるのは自明だった。これで、小手先を変えた所で、直ぐに模倣されるだけ。だいたい、温度が一定になったからといって使い勝手がそう変わるとも思えない。


「ふん、やはりラッセンの見込み違いだったかの。」

「いえ、それが販売当初は売り上げも目立つものでは無かったそうですが、今では口コミで広まり爆発的人気をほこっているとか。」

「……なに?」


スーセリアはマジマジと手にした服を見る。何処にでもあるような庶民の服だ。


「よし、着てみよう」


おもむろに立ち上がるとスーセリアは着ているものを脱ぎだした。


「ひ、姫様!このような所で、しかも侍女に任せずご自分で着替えるなど。ドレスがシワになりますぞ。」

「ふん、私の肌など子供の頃から見慣れておろうが。いまさら何を恥ずかしがることがあるか。シワなど仕立屋に直させれば良い。仕事が増えて喜ぶはずじゃ。」


ローランドは額に手をあて、頭を振る。

赤子の頃から面倒を見ているのだ、当然ローランドはスーセリアの肌を見た所で何の感情も湧かないが、それとこれとは話が別だ。

さらに言うなら、こんな場面を一般メイドに見られたら、姫は良くても。ローランドは大問題だ。そんな下らない事の釈明に追われるなどまっぴらだった。


もう少し、情操教育をしっかりするべきだったか……。


ローランドがこれまでの姫に対する教育方針を思い返している間に、姫はその新しい服を着込む。


「中々動きやすいし、着心地もよい服だの。どれ……」


一通り着心地も確認してから、魔法を起動する


はじめは他の服と同じように冷えていくだけだった。

しかし、暫く着ていると。その着心地は全然違った。

いつも、この手の冷える服を着込むと、冷えたり温まったりを繰り返して落ち着かなかったのだ。そのため、スーセリアをよほど暑いとき以外はこの手の魔法の服は着なかった。しかし、この服はその温度の上下が無い。そして、けっして冷えすぎない温度に設定されているため、非常に落ち着いて着ていることが出来る。


「なるぼど……こうして着てみると確かに随分着心地がちがうものじゃ。」


と、スーセリアはちらりとローランドを、一瞥してからバルコニーに向かう。

この部屋の中は全体に冷却魔法がかかっているため、それ程暑くは無い。だが、今、外は炎天下だ。


「ひ、姫様っ、そのような格好でっ!」


案の定、ローランドが慌てるがもう遅い。躊躇なくバルコニーの扉を開けると、外の熱気がスーセリアの体をつつむ。

しかし、それも一瞬で、スーセリアの体は先ほど中にいた時と同じくらいまで冷やされる。


「これは凄いのう!」


これならば、晩餐会でダンスを踊っても汗ひとつかかないでいられそうだ。ああいう場で汗をかくと化粧を治すのが大変なのだ。母上が言うには気合いで汗を止めるとのことだが。スーセリアはまだ、その域まで達してはいない。


「気に入ったぞ。早速、この機能と同じ物を私のドレスにもかけるよう伝えよ。」


スーセリアは笑顔で言ったが、ローランドは少し苦い顔だ。


「それが、姫様。目下魔法省が総力をあげて解析に取り組んでいるのですが、今だ機能の再現には至っていないのです。」

「なに?どの程度の期間取り組んでおるのだ?」

「はい、かれこれ二週間とか。それに市井の店でも、これと同じ性能の服はオームズ・ロウ以外に置いておりません。」


それはつまり、あれだけ早くヒンヤリ服を模倣した連中も、今回の機能は魔法省と同様再現出来ていないということだ。


「テンプ・センスのスペルの配置や数を変えるなどしているのですが、性能の的には遠く及ばないようです。」

「なるほどな……、良いではないか。ここは、流石はラッセンの推挙と言っておこう。魔法省には引き続き解析に取り組めと言っておけ。奴らには良い課題になるだろう。」

「畏まりました。」


そう言って、スーセリアは自分を取り巻く環境と。この、新しく手に入れた駒の性能を俯瞰的に思い浮かべる。


「よし、それではウィル・ハーモニクスをこれに呼べ。」

「姫様のお召し物にも同じ魔法をかけさせますか?……と、言うわけではなさそうですな。」

「ふん、流石によう分かっておるな。」


そう言ってスーセリアはニヤリと笑った。


……

……


「あ、でも呼んだとき、私の服にもこの魔法をかけてもらうのは、忘れてはならんぞ?」

「……御意」










これにて打ち止めでございます。

さて、また書き溜めなくては。


ココまでお読み下さりありがとうございます。

引き続き、お付き合い下されば、嬉しいなぁ。

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