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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第五章 お店を出してみた!
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ベルフェゴール ペリフェラル

「俺の仲間にならないか?」


ゾンビ男は俺に手を伸ばして言った。

仲間になるならこの手を取れということだろう。


「ろ、ロットン様、傷口を、傷口をおみせください!」

取り巻きの女がかじりつくようにゾンビ男の傷口に近づき、なにやら魔法をかける。

「ウルせぇな!今大事な話をしてるんだっ!」

ゾンビ男はそんな女を蹴飛ばし、女はその場に倒される。だが、女は倒れながらも魔法をかけるのをやめない。

「せ、せめて血を止めさせてください!」

「っち……うるせぇな……。」


ゾンビ男は右手に炎を作るとそのまま左の肩口に充てる。

肉の焼けるにおいに思わず俺は顔をしかめてしまう。

出血を焼いて止めるつもりだ……なんてやつだ…。


「ふん……嫌な臭いさせて悪かったな。こいつがうるさいもんでよ。それでどうだ?仲間にならねぇか?」

「……仲間も何も……お前らなんなんだよ……。」


俺は術式の展開を解かずに尋ねる。


「ん?そうか……知らなかったのか。この辺じゃ結構有名なつもりだったんだがな。」


そういってポリポリと頭をかく。そのしぐさはとても今腕を吹き飛ばされた人間には見えない。


「俺はロットン・フェイス。見てのとおりの腐れ顔……だ。まぁ今はちんけなチンピラの頭をやってる。」

「チンピラ?……冗談だろ?」

「冗談じゃねぇさ、残念ながらな。だがよ、将来の夢はあるんだぜ?」

「夢?」

そういうとロットンは手を広げて言った。



「この世界に恐怖と絶望を」



一瞬あっけにとられる俺を見て、ロットンは笑い声をあげる。

……一体なにを言っているんだ?


「ククク……まぁ、そうだよなぁ。あきれるよなぁ。自分でも思うんだ、馬鹿なことを言ってるってよ。

でもよ、例えば正義の味方とか、国を支配して平和な世界を作るとか、どうにも柄じゃねぇんだ。こんなゾンビ面にそんなことされてもみんな迷惑だろう?だから逆を行こうと決めたのさ。

この世界、ぶっ壊して世界中を恐怖のどん底に叩き落す。どうだ、楽しそうじゃないか?」

「ば、馬鹿いってんじゃねぇよ。」

「そうか?まぁ馬鹿なことなのはさっきも言ったが認めるよ。チンケなチンピラの夢物語さ。さっきまでは俺の倍化魔法があればなんとかなると思っていたんだが、おめぇに早速つまづかされちまったしなぁ。いやぁ、世の中甘くねぇなぁ。」


ケタケタ笑うロットン。周囲の景色と、本人の風貌と、言っている言葉、全てに現実感がない。

そしてあるのは悪意。ただひたすらに悪意だ。

不幸な境遇が…とか、仕方なく……ではない。悪意を目的とした悪意だ。

一体何なんだこいつは……本当にこの世の生き物なのか?

その容貌を超えた、得体のしれない気味の悪さに背筋に冷たいものが走る。

だが、それはどこか引き込まれそうな不気味さ。

新月の夜の海のような底なしの暗さがある。


「どうだ? 俺はまだ手を降ろしてないぜ?」


そう言ってロットンは俺に差し出した手をさらにめのたかさまで上げる。


「お断りだ。俺は平和に暮らしたいだけだ!」


俺はその手を振り払う。


「そうか……そいつは…最高だな。」


ロットンはそう言ってにやりと笑う。


「今日はいい日だ。ただ飯を食おうと立ち寄った店で、こんな出会いがあるとは思わなかった。感謝するぜぇ、神よっ!」


大げさに腕を広げ、天を仰ぎ見る。

そしてゆっくりと視線を俺に降ろして言った。


「良き敵を与えてくれて」


それは俺の人生で一度も見たことのない目だった。

それは地獄を濃縮した目。やつの目に比べれば爛れたその姿など、清らかな裸婦像のようなものだ。

俺の奥歯は知らずにカチカチと鳴っていた。

俺はなんてものを相手にしているんだ……。


と、足音が複数近づいてきた。


「警備兵が来たようです。」


黒服がロットンの横で報告する。


……さっきのロットンと同じだ。いつ近づいたのかわからなかった……。


「そうか。結局飯は食えなかったなぁ。」


やれやれと言った感じで呟くと俺を一瞥する。


「それじゃ、またな。」


そう言うと、ロットンの姿は掻き消える。

後を追うように取り巻き達の姿も消えた。


またな……だと?


……冗談ではなかった。


俺が戦闘術式を解いたのは、それからしばらくしてだった。


-----------

その後、俺たちは街の衛兵に事情聴取をうけたが、「チンピラが店で暴れた」という形で処理された。

俺からすればそんな可愛らしい物では無かったのだが……。

でも、あいつらの事も色々と聞くことが出来た。

ロットン・フェイス……最近この辺りで有名になってきたならず者集団「贄」のトップらしい。

下部構成員は街のチンピラで、自称構成員も多いらしいが、上は国の貴族にまで食い込んでいるという噂だ。


聴取の帰り道でもユリスはまだ涙目だ。


「どうして、ご主人様はいつも危険な目にあうんですかぁ」

「いや、今回は俺のせいじゃないぞ?」

「お酌くらい私にさせればいいじゃないですかぁ!」


……そういや、それが巻き込まれた発端だったか……。

ユリスにお酌を強要してきた奴を、つい吹き飛ばしたんだった。


「ま、……つい……な」

「つい…じゃないですよぉ!」


あーぁ、ユリスの機嫌当分収まりそうにないなぁ。


「ゴメンな、せっかくのデートだったのに」


「そんな事……問題じゃ……ないですよぉ」




本日第3弾でございます。

ゴールデンウィークに書き溜めたものを一挙放出中。


あと1話上げるかどうか悩み中……。

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