ハイボルテージ ショート アクション
ドガンッ!!!
俺とユリスが食事を楽しんでいたレストランのドアが、突然大きな音を立てて開いた。
中にいた客は自分も含めて何事かと扉の方をみる。すると、いかにもチンピラ風な音が2人。手に棍棒のようなもの持って入ってきた。
「おう、この店で一番いい席を開けなっ!」
チンピラの1人がそう叫ぶびながら店の奥にくる。一番高級そうな、所謂貴賓席の前だった。ちょうど俺たちが座っている席の二つ隣の席だった。
「おう、ここでいいか?」
「いいんじゃねぇか?」
なんか、チンピラ2人が確認している。
「お、お客様っ!困りますっ!」
店員が慌てて止めようとするが
「ああっ⁉︎」
と、チンピラが近くの花瓶を手にした棍棒で叩き割ると、店員もそれ以上近づけなくなってしまう。
「なんだチンピラか?」
「騒がしい連中だ、ちょっと俺がのして…。」
突然の来訪者に、周りの客が反応を示す。見れば冒険者の風態のモノもおり、チンピラに灸を据えてやるとばかりに立ち上がった。
チンピラがのされてこの騒ぎも終焉かとおもったその時、続いて入ってきた一団を見て凍りついた。
1人は絶世の美女。
1人は冷たい目をした黒ずくめの男。
1人筋肉の塊の巨漢。
1人はタバコを吹かした老人。
そして、その中心に立っていたのは……ゾンビだった。
……いや、ゾンビというには動きに躍動感がありすぎた。
目に光がありすぎた。
それは生きているものの目だった。
ギラギラとした、生きているものの目だった。
皮膚がダダれ、頭髪も抜け落ちていたが。決してそれは死者ではなかった。
「あ、あいつ……ロットンじゃねぇか……」
客の誰かがそう呟いた。
と、コソコソとまるで逃げるように立ち上がり、お代だけをテーブルにおいて足早に出て行こうとするものが現れる。
それを尻目に一団は店内を進む。
「ろ、ロットン様。こちらで宜しいですか?」
チンピラが打って変わっての低姿勢で迎える。
「あ?まぁ、いいんじゃねえか?」
真ん中のゾンビはそれだけ言うと、貴賓席の真ん中にドッカと座る。
その横には女がしなだれかかるようにすわり、少し離れて老人、巨漢、黒ずくめが座る。
なんとも異様な光景だった。
ほんの二つ離れた席が、まるで異世界のように感じだ。
異世界で異世界を感じるというのも変な話しだが……。
「おら、どうしたっ!酒と食物もってこい!」
チンピラがまた近くの花瓶を割って叫ぶ。
「おいっ!」
それを止める声ば意外にもその連中の中から響いた。
「騒がしいんだ。お前らは。もっと品性をもてんのかっ!」
一番端に座っていた老人が一喝する。
「へ、へぇ、ひ、品性……ですかい?」
チンピラが2人が顔を見合わせる。
そして。
「おい、店員っ。酒と組み物を持ってきやがれませっ!」
……なんだそりゃ。昔のユリスでももう少しマシな敬語だったぞ?
「……ご主人様、今何か私の方見ませんでした?」
「い、いや。何でもない。」
……ユリスも、酔ってるのに勘が鋭いなぁ……
と、そんなチンピラの様子に老人が頭を抱える。
「やれやれ、こりゃ教育が大変そうじゃわい。ちょっとそこの店員さんよ。」
老人が先ほどから立ち尽くしている店員に声をかけると店員は「ヒャイッ」と返事をする。
「これで適当に酒とつまみを頼む。」
気にせず老人は金貨を一枚放ると、店員は慌ててその金貨を受け取る。
「か、かしこまりました。」
そういって店員は脱兎の勢いで厨房へ駆け込む。
周りはこそこそと帰りだす客だらけだ。
……これは俺たちも出たほうがよさそうだ。
「ユリス、出よう」
「は、はい。」
俺はユリスの手を引き立ち上がる。
ちょっと酔っている感はあるが、まぁ大丈夫そうだ。
…だが……。
「待ちなっ!」
チンピラが叫ぶ。
……俺らのほうに言ったんじゃありませんように……
と、そっと伺うと、チンピラ二人はニタニタ笑いながらこっちに近づいてくる。
……アチャー……。
と思いつつなんとか笑顔を返す。
「な、なんでしょう?」
「いい女連れてるじゃねぇか。ちょっとこっちで酌させな。」
「ご、ご主人様……。」
ユリスがおびえるように俺の後ろに隠れる。
「すいません、彼女はそういうことはさせないんですよ。ご容赦いただけませんかね?」
「うるせぇ!」
そういいながらチンピラがユリスの側にまわりこもうとする。…が、その動きが止まった。
「……なんだ、その顔の傷は……。傷物の女かっ。いらねぇよ、てめぇみたいなガラクタおん……っ!!」
チンピラが突然はじけ飛んで、机をひっくり返す。
……どうしたんだろう……?
と、ふと自分の右手を見ると魔法陣が発動している。
あれ?俺インパクトブレーカーの術式起動している。
……あーぁ、どうやらやってしまったらしい……。
後ろで席に座っている5人もこちらに注目してしまっている。まるで楽しい出し物を見ているかのような目だ。
老人だけは首を振って「自業自得じゃわい……」などと呟いているな。
「てめぇ!」
もう一人のチンピラが
棍棒を構えてこちらに近づいてきた。
「なにしやがったっ!腕の一本や二本じゃすまさねぇぞ!」
チンピラ二号がすごむ。
すごむのだが……怖くない……。
昔だったら、町でやくざになんかに絡まれたら怖いなんてもんじゃなかったろうけどな。
キマイラの咆哮と比べるとまるで小鳥がさえずっているように感じてしまう。
「この俺たちをロットン様のはい……ッドギャフっ!!」
「邪魔だ……。」
!!!
一瞬だった。
さっきまで席に座っていたと思ったゾンビ男が一瞬でチンピラ二号の背後にきたかと思うと、裏拳一発でちんぴらを吹き飛ばした。
……あ、やばい……こいつ、早速キマイラ級だ……。
正面に立っているだけで逃げ出したくなるこの感じはまさにあのキマイラの迫力だった。
「おめー、今、おもしれー魔法使ったよな?」
そういうとゾンビ男はただれた唇を持ち上げて、笑い顔を作って見せる。
……はっきり言ってこれだけでもう怖い。
「いや……なんのことだか……。」
「発動呪はフォスだな。流入魔素量とフォスの威力を理解した術式だ…。だが、それでも並みの魔力じゃあの威力はでねぇよな……?」
……やべ、見抜かれてる。
「てめぇの魔力、ちょっと確かめさせてくれるかい?」
「ご、ご遠慮申し上げ……。」
俺が言い切る前につかみかかってきた。
とっさに俺もやつの両手をつかんで抑え込む。
その途端、俺の体の魔素が急激に動き出す。
「ぐぅ!」
あまりに急激な動きに声が漏れる。
これは昔イリーが俺にやったやつだ。俺に魔素の存在を確認させる方法。だが、あの時とは違いものすごい勢いで魔素が動く。許容を超えた魔素の動きは体にダメージを与える。俺はゾンビ男が動かそうとするのとは逆方向にマジカをかけて、魔素の動きを抑制する。
「そうそう、それでいい。それじゃ、どこまで耐えられるか見せてもらおうか!」
ゾンビ男はそういってこちらにかけるマジカを上げてきた。
くっそ……。
すぐに、俺のマジカ出力を超えた力になり再び魔素の動きが俺の体を痛めつける。
「ぐ……が……。」
「どうした、そんなもんじゃないだろう?そんなマジカじゃあの威力は出せねぇ。」
……く……仕方ない…。
チャージポンプ式昇圧回路を展開、俺のマジカ出力を上げていく。
「そうだ……もっと出てたはずだ…。」
……こいつ!?
チャージポンプの出力を上げて、2倍3倍としていくのだが、ゾンビのマジカもそれに合わせて上がっていく。
…5倍……10倍……20倍……
魔力が上がるにつれて、ゾンビ男の笑顔が深まる。
……これ以上は危険だ。回路中にダイオードをいれて……。
「おい……ここまでやって、ディオで魔力路遮断とかするなよ?面白くねぇ」
そういってゾンビはさらにかけるマジカを強める。
……くそ、ダイオードを入れる隙がとれない。
「クックック……。」
ゾンビ男は嬉しそうに笑う。
……30倍……50倍……
「き、貴様もまさか……。」
それしか考えられなかった。こいつも昇圧回路を使っている。
……100倍……200倍……。
俺は昇圧回路を調整しながらなんとか言葉を発する。
「……で、どうするんだ?今この状態でどちらかがマジカを切ったらお互いただじゃすまねぇぞ?」
すでにとんでもないマジカになっている。このマジカで一気に魔素を流せばどちらもただではすまない。
どちらかの昇圧が止まれば、魔素は互いの体を一気に流れる。どちらかではない、どちらの体も流れるのだ。お互い無事では済まない。
「おもしれぇじゃねぇか。俺もここまでマジカをためたことはなかった。このまま極限を拝むのも一興だっ!」
「ば、馬鹿じゃねぇの!? そんなことに突き合わせるんじゃ……ねぇ……よっ!!」
俺は相手と組んだまま、たたきつけるように両手を合わせた。俺の腕とやつの腕が8の字を作り出す。
その瞬間火薬が爆発したような破裂音と共に俺は吹き飛ばされた。
……いってぇ……。
吹き飛んだ時に机に当たった背中も痛いが、両腕がなにより焼けるように痛い。
くっそ…。
起き上がろうとするが、腕がしびれてうまく動かない。
「ご主人さまっ!」
と、ユリスが駆け寄ってきて、俺を抱え起こしてくれる。
そこで、ゾンビ男のほうを見る。
そこには左腕が吹き飛んだゾンビ男の姿があった。
……あちゃぁ……まぁ、ただで済むとは思ってなかったけど、まさか腕が吹き飛ぶとは思わなかった。
「や……やってくれるじゃねぇか。なんで俺のほうだけダメージがでけぇんだ?」
「さぁな……自分で考えてみらどうだ? 反省点が見つかると思うぜ?」
俺はユリスに肩を借りながら立ち上がる。
ぎりぎりだったが、計算通りいってよかった……。
-----------戦闘中ですが、電気のはなし--------------------
電気で言うチャージポンプ昇圧回路は出力段にあるコンデンサに電荷汲み上げていく回路だ。
逆に言えば、コンデンサに蓄えられた電荷以上の電流は流せない。
コンデンサに蓄える電荷Qはコンデンサの容量Cと電圧Vであらわされる。
Q=CV
だ。
この式を展開してVについての式にすれば
V=Q/C
となる。
要するに、Cを小さくすれば少ない電荷でも高い電圧を保持できるということだ。
俺はこれを利用することにした。
昇圧回路の出力を上げながら、出力段のコンデンサ容量を徐々に小さくしていったのだ。
これで、俺は少ない電荷(魔素)で高い電圧を作り出していたのだ。
この状態では、たとえマジカ競争でまけても、相手に大したダメージは与えられないが、
別に相手にダメージを与えたかったわけではないので、問題はなかった。
たいして、相手はそれなりのダメージを与えようとしていたのだろう。かなりの量の電荷(魔素)をため込んでの昇圧だったようだ。
そして、俺は極限まで圧力の高まった二点を俺は無理やり接触させた。
この時の電荷(魔素)の動きはキルヒホッフの第一法則だ。
「電気回路の任意の節点において、流れ込む向きを正(又は負)と統一するとき、各線の電流 Iiの総和は0となる」
俺と奴の手を接触させた一点に互いに蓄積した電荷(魔素)は流れ込む。
そして、俺の発生した電荷(魔素)は俺を、やつの発生させた電荷(魔素)は奴を通る形でショートしたのだ。
-------------------回路の話、ここまで----------------
しかし……、まさか腕が吹き飛ぶ威力になるとは、一体奴はあの高圧でどれだけの魔素をチャージしてやがったんだ。
……ック!
手に痛みが戻り、自分の手を見る。
手のひら皮が焼けてめくれていた。なるべく相手側に接点を持つように接触させたつもりだったが、それでも接点となる部分のダメージは避けられなかったようだ。
だがまぁ……あれに比べれば……。
と、ゾンビ男は残った腕で手近な酒瓶を取ると一口飲んで、自分の吹きかける。
「「ロットン様!」」
取り巻きだった四人が流石にこの状況には立ち上がるがゾンビ男は残った腕を横に伸ばしてそれを静止する。
「騒ぐこたぇねぇよ。腕がとれただけじゃねぇか……。」
そういって、ゾンビ男がゆらりと立つ。その動きにまるでダメージは見えない。
こいつ……本当にゾンビなのか?
「おいおまえ……。」
ゾンビ男が残った右手をこちらに突き出し手のひらを向ける。
体中痛くてたまらないが、魔力はまだ残っている。
俺はインパクトブレーカを起動し、両足にもフォスを起動する。いざとなったらユリスを抱えて外に飛び出そう。
しかし、奴は笑って言った。
「俺の仲間にならねぇか?」
ゴールデンウィーク企画〜ってわけでもないですが、
連続投稿でございます。
正直、このお話は載せるがどうするか迷う話でした。
話の風呂敷が広くなりすぎ〜(血涙)
はたして、うまくまとめられるのか?
……が、頑張ります。
(上司に納期が間に合うのか聞かれた時の笑顔で)
ココまでお読み下さりありがとうございます。
引き続き、お付き合いいただけましたら、嬉しいなぁ。