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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第五章 お店を出してみた!
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分配器の不協和音

なんとか王女との謁見を終えた俺らは、城門を出るなりへたり込んでしまった。


「ったく、なんなんだよ……?」


恨めし気にブルが俺の方を見る。ってか、そんな目で見るなよ、俺だって知らねぇよ。


「おめぇ、一体なにやらかしたんだよ。謁見に王女出てくるなんて普通じゃねぇぞ。」

「知らねえってか……。ま、たまたま王女様の目に俺の商品が止まったんだろ。」

「それだけじゃなさそうだったがな……、ま。いいか。俺は予定の褒賞は貰ったわけだからな。」


そう言ってブルは手にした皮袋を手に入れニヤリと笑う。

金貨にして100枚……ちょっと羨ましい……。

俺は店舗を貰える代わりに、金銭的褒賞はなかったのだ。ま、店をもらえるのだから贅沢は言うべきではなかろうが…。


-----

「すごいです!ご主人様とうとうお店をもたれるんですね!」

宿に帰り、事の次第を報告するとユリスが諸手を上げて喜んでくれた。リジットも「おめでとうございます」と言ってお茶を淹れてくれる。

やっぱ、お店を持つっていうことはすごい事なんだろうなぁ。なんか、イキナリ店の権利書を渡されたのでイマイチ実感がわかない。

それにしてもあの王女様、明らかに俺を待地構えていた風だった。それもキメラ退治の話じゃない、魔法具のほうに興味深々だったな……。

街で売られてる商品に興味を持ったのだろうか?


いや、マッサージ玉はともかく、魔導計算機がいくらなんでもここまで流通するには早すぎるだろ。って事は誰か俺の事を王女に報告したのだろう。しかもキメラ退治をしたのが俺だと分かっている人物だ……。

……まぁ、そういう事に目端が効きそうなので思いあたるのは1人だな。そう、ラッセンだ。しかし、俺はラッセンに何処に向かうなどとは言っていない。

「誰かが、俺の行動を、ラッセンに漏らしているな。……だとすると一体誰が……」

目の前にニコニコ顏で立つリジット


………

「お前かあ!?」

「今更ですか!?」


驚くリジット。


……ま、確かに考えるまでもない話だ。

どうも普段はリジットがラッセンこらのお目付役だという事を忘れてしまうな。

とにかく、この店を持つ事になった事態もラッセンの息のかかった事と考えてよいのだろう。これは、俺の利益を攫われないよう気をつけないとな。


------

翌日、俺らは手に入れた店舗を見にやってきた。

場所は中央区と、そこから東にある港地区を結ぶ大通りに面して……はおらず、そこから路地を二本ばかり入り込んだ所だった。ちと、一等地と言うにはちと寂しいか。

3階建ての建物で、一階は店舗と台所、トイレ。2階、3階が居住スペースだな。

ボロボロのダンスだの机だのはあるが、全員で住むにはちと家具が足りない。

また、長年使ってこられなかったらしく、埃は酷いものだ。

さて、手分けして準備だな。


俺はちらりと後ろを見ると、そこには何故か鼻息の荒いユリスとリジット。

「ご主人様、私早くシたいです。もう、待てません!」

「ご主人様は、わたしを待たせるなんてイケナイ人です……」

因みに2人は久しぶりの完全メイド服姿だ。これはメイド魂に火がついたとでもいう感じだな。ユリスもいつの間にか立派なメイドになったものだ。

……それに対して恋の病(物理)から回復したばかりのユーリッドと、愛しのブルから離れてしまったジーナは意気消沈気味だ。


「そしたらユリスとリジットは2階3階の掃除。ユーリッドとジーナは1階の掃除だ。俺は生活に必要そうな物を適当にそろえてくる。」


「「かしこまりました、ご主人様!」」


元気な2人。


「「……わかりました〜、ししょ〜」」

元気の無い2人は。

てか、せめてユーリッドにはもう少しシャキッとして貰いたいものだが……。



-----

とりあえず、人数分のベットに食事をするテーブル、椅子。そして、忘れてはいけないのはカーテンだ。昔初めて一人暮らしをした時にカーテンを買い忘れてえらい目にあった事がある。外から丸見えの環境だと、なんか全然落ち着けないのだ。仕方がなく、その時は引越しに使ったダンボールで目隠ししたのはいい思い出だ。


街の家具屋で適当に安いものを揃えていく積りだが、それでもこれだけの量となると中々の金額になるな。

取り敢えずで見繕った商品の引き渡しは3日後となった。その時はユーリッド達を伴って運ぶとしよう。カーテンだけはその場で持って帰ることにするが、それも結構量があり重い。あー、買った翌日には家に届けてくれるサービスが懐かしい。流通インフラの勝利だよなぁ。


----

帰り道、俺は商人ギルドに挨拶に寄る事にする。

ギルドは中央区と港を繋ぐ大通りに面した位置にドカンと立っていた。建物はイバリークのギルドよりも大きいかもしれないがコレでも分署らしい。商人ギルドの事務所はここチヨルドの中央区と本部があり、各都市に支部がある。イバリークのギルドは支部だな。そして、支部がまかなえない細かな所には分署を置いている。チヨルドに本部の他に3箇所の分署があるらしく、ここはその一つ、港区分署だ。


途中で買った菓子詰めを手土産に分署の扉をくぐる。中の作りはイバリークのギルドとほとんど同じだな。

受付嬢に事情を説明し、分署長への面通しを求めると二階の応接に通された。


……なんだか初めて商人ギルドに来た時を思い出すな。

あの時は右も左も分からなかったが……いや、今もあまり変わらないかな。


このギルドにとっても俺の立場は異色だろう。いきなり街に来たかと思えば王女の一声で店舗持ち。果たしてギルドはそんな俺にどんな対応をしてくるか……。


しばらく待つと扉が開き1人の女性が入ってくるなり、俺を一瞥した。


「ふむ、君が……」


それ以上は言わず、俺の正面までやってくる。

「待たせたな。わたしが港区分署、マネージャーのルー・デルマルタだ。」

「ウィル・ハーモニクスです。この度はここ港区で商いをさせていただく事になりました。これはつまらないものですが、皆さんでお召し上がりください。」


俺はスッと菓子を差し出す。


「ふむ、これはすまないな。皆も喜ぶであろう。」


と、そこで計ったように若い女性がお茶を持って現れた。

お茶を置き終わった彼女にルーは菓子詰めを渡すと、彼女は俺に一礼をした。流石に大都市の商人ギルド。職員の教育も行き届いている。


「ま、立ち話もなんだ。かけてくれた。」


と、ルーに促されて俺は椅子に座り、改めてルーの表情を見る。ロングヘアのメガネのスーツ。化粧はきっちりしつつも派手じゃない。何ていうかまったく隙がない。隙がないのに自然な感じ。イヤ、隙がないのが自然な感じ…という方が正しいかな。これまた手強そうだ。


「噂は聞いているよ、ウィル。ラッセンの肝入りだそうだね。なかなか面白い魔法具を作るとか。」


肝入り……まぁ、メイドが入っているのは間違いないが……。


「いえ、まだ駆け出しの魔法具屋です。」

「謙遜することはないさ。君の魔法具は最近チヨルドでも評判だ。……ま、ああ言う品は個人的にはどうかと思うところもあるが……。」


そう言ってルーがせきばらいをして会話を切る。


「あの……ただの健康器具です。」

「.ふむ、そうだったな。中々うまい販売展開だと思うよ。」

「いや販売展開ではなく……。それに、今マッサージ玉はラッセン……さんに事業譲渡してますから。」

「ハハッ、持って行かれたか。第一線は引いたと言いながら、相変わらずだな、あの男も。」


そう言って、ルー目の前のお茶を一口飲む。


「それで? この街ではどんな商売をするつもりだ?」

「はい、実は今私は皮職人と服職人を連れていまして、彼らの商品と私の魔法具を合わせた物を販売しようとおもっています。現在ですと冷蔵バックやヒンヤリ服が商品になりますね。」

「ふむ、なるほどね。」


俺はルーの顔色を伺う。既存の流通を乱す新規店舗の参入には慎重になるとラッセンが言っていたからだ。


「大丈夫でしょうか?」

「ん? 何がかな?」

「いえ、他の店とのバランスなんかです。」


俺がそう言うとルーは笑った。


「ハハッ、気にすることはないよ。ここはイバリークなんかとは違い商売の規模が大きい。一軒や二軒新規店舗が参入したところで商売のバランスが崩れたりはしないよ。」

「そうですか、安心しました。」

「いや、安心するのは早いよ。それはつまり、客から認められない店はスグに淘汰されるという事だからね。そして、それは私の方針でもある。」

「方針?」

「あぁ、私はこの港区全体を一つの店だと思っている。そして。私の、商人ギルド港区分署の使命はこよ店を世界一の店に育てる事だ。だからこそ、港区内でも店は切磋琢磨してもらい、競争力をあげたいんだ。」


なるほど、この人はラッセンとはまた、考え方が違うらしい。いや違うのは町の有り様そのものか…。多くの住人の流通を守るべき地方都市と、世界との競争に晒される国の中央商業都市では考え方も戦略も違って当然だ。


「と言うわけで君みたいな変わりダネが来る事は歓迎だよ。でも、いくらラッセンの、いや王女の肝入りとはいえ、商売をとちればそれまでだ。そのつもりで商売をしてほしい。」

「分かりました。」

「それで、君はその後の事は考えているか?」

「その後……?」


ルーが覗き込むような視線で自分を見る。


「商売をしていくうえで、君が目指すものはなんなのか……という話さ」

「目指すもの……。」


言われて自分は考えてしまう。

この世界にきて、とりあえずの目標はもとの世界に帰る方法を探すことだ。魔法具店は言ってみれば今生計を立てるための手段にすぎない。

しかし、その方法はまったくもって五里霧中。手がかりの手がかりさえない。

もしも、帰れないとしたら?

俺はこの世界で生きていくのだ。…どうやって、どのように生きていくか……。

気が付けばユリス、ユーリッド、ジーナ、そしてリジットも。

俺の周りにも縁は広がり始めている。気が付けば、あまり無責任な生き方はできなくなってしまっている。


多分彼女が聞いているのはもう少しシンプルなことなのだろう。

「大店に店を育てたい」なのか、「慎ましく生活を営みたい」なのか、そういう将来のビジョンだ。

だが、自分にはまだその答えはなかった。


「……君は、戦うことも逃げる事もできる。戦わないことも逃げない事もできる。でも選択だけはしなくてはならない。そういう事さ。」


何か含むところのありそうな言い回しだ。


「……ラッセンさんと……あなたと?」

「そういう事もあるかもしれないな。ま、そう単純な選択肢ではないだろうがね。」


そういってルーはニヤリと笑う。

「まぁ、とりあえず商売を軌道に乗せることだな。すべてはそれからだ。」









読んで下さった方々のお陰様でブックマーク100人頂きました。

誠にありがとうございます。


これからも、お付き合いいただけたら嬉しいです。

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