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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第一章 異世界に来た!
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不安定なトランジスタ

ギルド長との面接を終え、無事に商人ギルドに加入する事になった俺は、事務手続きと組織の詳しい説明を受付嬢さんにしてもらった。一切淀みのないその説明は、プロの技を感じた。


まず、商人ギルドについてだが、この商人ギルドが影響力を持つのは王国の中だけらしい。北の帝国には帝国商人ギルドが別にあり、基本的には別々に活動している。だから商人の中には複数のギルドに所属することで、複数国間の物品流通を商うものもいるようだが、それぞれのギルドに会員費を払わねばならず、中々大変らしい。


ギルドの役割として、一つは街の商店の管理がある。その街にどのような店があるか、または必要になるかを管理し、出店の許可なども出している。因みに行商人が露天売りする場合も、ギルドに申請がいる。こちらは断られる事はまずないようだが、一日銅貨2枚。一週間出すなら銀貨1枚。申請料が必要になる。


あとは個人売買の斡旋などもやっている。これはなにか欲しいものがある場合や、売りたい物がある場合、その旨をギルドの掲示板に張りだす事ができる。その掲示板をみて、需要なり供給がマッチしたした人はギルド経由にて売り買いも出来る。売りでも買いでも依頼すると、取引額の一割を手数料として持っていかれる。これは掲示した側が払う事が原則であり、商人を名乗る物が紙を出す事はあまりない。商人登録をしていない一般の人が使う事がおおいようだ。


早速街に出た俺は広場で露天を開く。何故急ぐかと言えば、理由は簡単。


もうお金がないのだ。


ギルドへの登録金と、会費前払いでイリーに借りたお金は殆どなくなった。なんとしても何かを売って稼がねば、今夜の宿もままならぬのだ。

広場の片隅に布切れをしき、そこに唯一の売り物、マッサージ玉を並べる。因みに名前は今決めた。値段は銀貨一枚だ。



…売れないな。

というか、時間がまずかった。販売開始はもう夕方。みんな家路を急ぐ時間だ。いくら声を掛けてみても、初めて見る魔法具に足を止めてわざわざ見る客などいない。なんか看板でもつくろうかと思ったが、書くものもない。インクになりそうなものなど自分の血ぐらいだが、血文字の広告でマッサージなどと書かれても拷問器具と思われるのがオチだ。


どうしよう。最低野宿はいいとしても、もう食べ物がないのだ。


考えた瞬間、腹が情けない音をたてる。あぁ腹減ったなぁ。


と、落ち込みうなだれるおれの視界に足が見えた。立ち止まっている?


「いらっしゃいっ…って、ラッセンさん?」


そこにいたのはギルド長のラッセンさんだった。


「やぁ、ウィル君。苦戦してますね?」


「ええ、まぁ」


と、言いながら苦笑いしか出来ない。


「それでは私に一つ売ってもらいましょうか。」


というと、ラッセンは財布を取り出す。

売れてない状況を、見かねてくれたんだろうか。しかし。今日入ったばかりのおれにそこまで気を使われては申し訳ない。


「え、いやラッセンさん。それは…」


渋る様子の俺に、ラッセンさんは少し不思議そうな顔をしたが、すぐに納得いったようだ。


「別にお情けで買ってあげようというんじゃないんですよ?先ほど試させて頂いてから、後で買おうと決めていたんです。実は最近妻が肩コリに悩んでいてねぇ。」


と、いいながら自分の肩をまわす。彼自身も肩コリなのかもしれない。まぁいいか。その話が、本当かどうかはわからない。でも、嘘でもそこまで言ってくれてるなら甘えた方がいい。


「分かりました。そしたら、特別な使い方を教えてさしあげます。」


「ほう?それはどのような?」


ゴニョゴニョゴニョリ…。

俺はマッサージ玉の真の力を伝えた。


「そ、それは…あなた本当に天才ですか?」


「いえ、ただの紳士です。」


ラッセンさんを心の底から驚かした使い方。

それは秘密です。



--------

「お待ちどー。アカメ鳥のもも焼きとパンプキンスープ、あと黒パンだね。」


食堂のおねぇさんがそう言って俺の前に皿を並べた。

うぅ、久しぶりの温かい飯だ。顔を撫でる湯気の感触になんか涙出てきそうだ。


俺はラッセンさんに売れた売り上げを持って近くの安宿に転がり込んだ。一階が酒場、二階が宿というよくゲームで出てきたタイプだ。実際、酔いつぶれた客を二階放り込めば、酒代、宿代と二度美味しい。


とはいえ、酔いつぶれた客なんてどんな奴かもわからなければ、結構危ないんじゃないだろうか。金なんてないかもしれないし、暴れて物を壊すかもしれない。


そう思って、店員さんに聞いたら、宿の主人が元傭兵とのことで、どんなお客様にも真摯な接客をし、気持ちよくお金を払ってもらっているのだとか。


さて……と。


かぶりついたもも肉から溢れる肉汁を堪能しながら、これからの事をかんが…

うまいな、この鳥。なんていうか、ブロイラーより味が肉の味がしっかりしている。味付けも塩だけじなく香草もつかっていて、爽やかな香りが肉の臭みを消している。パンプキンスープも丁寧に裏ごしされたのだろう。滑らかな口当たりと、丁度いい塩気だ。やるな、元傭兵!


と、そうじゃなく、これからの事、だ。

とりあえず、暫くは露天を開き続けなくてはいけない。あのマッサージ玉が一個でも売れれば、2日はしのげるが、それでは続かない。魔力は自前だからコストは掛からないが、ガラス玉は仕入れなくてはいけないのだ。銅貨1〜2枚で仕入れられるとイリーは言っていたので、何処かに売っているところはないか聞いてみよう。商人ギルドで聞いてもいいかもしれないな。


まぁ、当面の活動資金はいいとして、問題はその後、だ。

とりあえず、元の世界に帰る方法を探さなくてはいけないが、焦っても仕方なさそうだし、せっかくこんな世界に来たのだ。色々旅をしてみたいものだ。

昔、読んでたライトファンタジーののようなチートな能力はないので、慎重にいく必要はあるが。

そのためにも金の稼ぐ手段を拡充しよう。

マッサージ玉もいいか、売れ出したら程なく模倣されるだろう。幸い仕事で叩き込まれた電気の知識は魔法に応用可能だ。しかも、こちらの世界ではまだ使われて無い技術もありそうだ。


と、言うわけでそんな回路を使った新しい商品開発が当面の目標かな。それに旅をするなら、攻撃魔法なんかも覚えなくてはいけない。とりあえず本屋や魔法道具屋にいけば、スペルも売ってるみたいだし、明日覗いてみよう。

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