出会いの自起動周波数
キマイラを退治して数日。俺たちはフーチの街に滞在していた。俺の火傷が治るまでの滞在だ。
全身隈無く火傷があるが、まあそこまで酷いわけではない。チョッピリ、キマイラの炎を浴びただけなのだ。まぁ、服はボロボロになってしまったが……。
火傷に効くという薬草の湿布をユリスとリジットに身体中に巻きつけてもらうと、数日でカサブタ状の火傷も水ぶくれも消えていった。
療養中にはユーリッドとジーナが露店を開いて、結構盛況だったようだ。冷凍バックとヒンヤリ服はこの暑い夏の需要をがっちりキャッチした。
あと、この街では今、エールを冷やして飲むのが流行している。いちいち呼び出されては叶わないので、樽ごと冷やす魔法具を作って、酒場のマスターに販売した。この世界発のビールサーバー…いや、エールサーバーだな。
そうこうしているうちに怪我も完治し、俺たちは出発する事になる。
現在俺はキマイラ討伐の褒賞を受け取る為に、チヨルドのお城に行かなくてはならない。お城に行かなくてはいけないのはブルも一緒なので、ついでにブルをチヨルドまでの護衛に雇う事にした。
と言うわけで、俺たちはブルとの待ち合わせの街の門まで移動中だ。
「でも、ブライア・バセテールって言えばかなりの有名人ですよ」
ユーリッドが興奮して話す。
「モンスターハンターの二つ名で知られる冒険者。いやぁ、一緒に旅が出来るなんて〜っ。」
……ま、確かにあんなキマイラと力比べ出来るなんてのがゴロゴロ居るわけないよな。そう言う意味では、キマイラの件は運が良かったのかもしれない。
だけど、普段はそんな大物感なかったけどな。何処にでもいそうなボーっとしたおっさんだ。
「リジット、ブルとの待ち合わせは門の所でいいんだよな?」
「はい。昼過ぎに待ち合わせと言付かっております。」
いつものメイド服ではなく、旅装束姿のリジットだ。
「ししょー。折角売り上げいいんだし、ここでヒンヤリ服売ってましょうよ〜。」
ジーナはここでの生活が気に入ってしまったらしい。まぁ、確かに売り上げは好調だし、気持ちは分かる。
「残りたきゃお前一人で残れよ。俺は行くぞ。」
「ちぇ〜〜っ」
ユーリッドに言われるとジーナが口を尖らせる。
……ジーナって、店で接客してる時と完全に別人だよな。
門までくると、タバコを吹かしてるブルの姿があった。
俺たちはブルのそばまで馬車を進める。
「よお、悪い。待たせたか?」
と、声をかけながら近づくと、ブルもこちらに気づいた。
「いや?そんなでもねえよ。」
「悪かったな、今回は格安で護衛してもらって。」
「何言ってんだ、俺もチヨルドにゃいかなきゃいけないんだ。俺の方こそ渡りに船だよ。でもおめぇに護衛になんかいるのか?」
「勘弁してくれ、おれは唯の魔法具屋だぜ?またロロに襲われたら身ぐるみはがされちまうよ。」
「ハハッ、あいつらじゃ難しいと思うがな。所で……これ、なんだ?」
……これ、と言うのはいつの間にやらブルの腕にぶら下がるように捕まっているジーナの事だ。昔懐かし抱っこちゃん人形のようにぶら下がっている。…ってか、お前何やってんだ?
「おじ様っ、おじ様が今回私を護衛して下さるんです
?」
おい、ジーナの目が今迄見たことないくらいキラキラしてるぞ。
「え?いや……そうなのか?」
助けを求めるようにこちらを見るブル。
「あー…いやぁ、一応そいつは旅仲間、俺の弟子のジーナだ。服飾の職人をやってる。」
「私、旅慣れない物で、正直この先の道程が不安だったんです。でも、ブライア様が護衛して下さるなら安心です。」
「お、おう。……よろしくな」
あ、ブルがちょっと引いてる。
「おい、ユーリッド。あれなんだ?」
思わずジーナの管理責任者であるユーリッドに確認をとる。ユーリッドは少し疲れた顔をしていた。
「いえ、そのブライアがジーナのツボだったみたいで…」
「ツボって……、ジーナからすればかなりおっさんだぞ。」
「はい……ジーナはおっさんのハゲが大好物なんです。」
「なんだと?ハゲたおっさんじゃなくて、おっさんのハゲ…なのか?」
「はい……」
オヤジよりもハゲが主体なのか。俺もハゲたらジーナにモテるかな?
と、俺の思考に気づいたのか、ジーナがこちらを見てハッキリ言い切った。
「師匠とブライア様ではハゲのレベルが違うので無理ですっ。」
こ、こいつ師匠に向かって……
「ハゲは着こなしてこそのハゲです。ししょーはきっと残った髪に未練タラタラな無残ハゲになります。そんなハゲに魅力は感じませんっ!」
……ジーナ…ヒドイ……
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夏の日差しは容赦なく照りつけてくるが、時折風が吹くので耐えられないほどでもない。なにより、みんな今はジーナのひんやり服を着ているので、結構快適だ。これは元の世界に持って行ってもうれると思う。
さて、こうして俺はチヨルドに向かっているわけだが、俺には一つ不安があった。キマイラ討伐の報酬を貰うために、お城に行かなくてはいけないのだが、どうしてもイバリークの出来事が頭をよぎってしまう。
イバリーク領主の手が回っていて、捉えられたりしないだろうか。
ラッセンの話では、モールス君の秘密を独占したい領主は表立っては動かないだろうという事だったが……。
まぁ、考え過ぎても仕方がない。注意だけはして、後はなるようになるしかないだろう。
やがて馬車は草原を通り抜け、大きな森に差し掛かった。
見上げるように高い木が立ち並ぶ中を街道は真っ直ぐに進んでいく。
「スッゴイ立派な森ですねぇ。」
ユリスが馬車から身を乗り出すようにして木の高さをたしかめる。
「杉林だな…。花粉症持ちなら悪魔の林と言うところだな。」
「花粉症ってなんですか?」
「花粉症ってのは春頃にこの杉の花粉のせいで涙や鼻水が止まらなくなる症状だよ。周りにそういう奴いないか?」
「あー、いますいます。春風邪って言ってました。花粉症っていうんですね。」
はるかぜ…か。なんかやたら爽やかな感じだな。
と、リジットが手を挙げた。
「私、私です!いっつも春風邪にかかって、春は鼻水と涙がとまらないんです。」
「あー、それは多分この杉の木の花粉だよ。」
「花粉が原因だったのですか!お、おのれ〜。毎年毎年迷惑な…」
燃える瞳で杉を見上げるリジット。
「それにしても立派な森です。」
対象的にリジットの仇敵を、ユリスは楽しげに眺めている。
「この辺にゃ守りの木の加護があるからな。そのお陰でこの森は豊かなんだって言われてる。」
ブルが武器を手入れしながら教えてくれる。
「守りの木?」
「ああ、この辺り一帯を守護してるという御神木だ。もう少しこの道を行くと分かれ道があって、そこから北にいく道を少しいくとギグリアって村がある。そこにあるでっかい樫の木だよ。」
「へえ……なんかロマンチックですぅ。二人で見に行きたいですね、ブライア様〜。」
そう言ってブルに体を寄せるジーナ。ブルからはなんとかしろという視線。
「ユーリッド〜っ?」
管理責任者に声をかけるが、
「すみません。馬車の運転から手が離せません。」
……職務放棄しやがって……。
しかし、そんな立派な木なら見てみたいな。
「なぁ、その町って宿はあるのか?」
「あ?あぁ、小さな宿はあったはずだぞ。」
「よし、じゃ今日の宿はギグリアだ。ユーリッド頼むな。」
「了解ですっ」
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ギグリアの村は本当に森の中の村だった。需要産業は狩りと林業。豊かなもりの恵みを糧としているようだ。しかし、こうも杉に囲まれてると、花粉症の人は絶対生活できないな。
農家兼業でやっている小さな宿に泊まる。主要街道から少し外れた位置にある村だし、旅人なんてくるのかと宿のおばちゃんに聞いた所、結構俺たちのように御神木見にくる人がいるらしい。
「ご神木を見に行くなら案内いたしますよ?」
と、おばちゃんが言うので、お言葉に甘えることにしよう。
「ブルは行かないのか?」
早々に寛ぐ姿勢を見せるブルに声をかける。
「俺は前に見た事あるからな。大体観光なんてガラじゃねえよ。」
「そうです、私たちはそんなミーハーな物には興味ないんです。」
……ジーナ、お前さっきなんて言ってたっけ?
ま、別に無理に見せるものでもないし、構わないけどな。それにしても、ミーハーって言葉、この世界にもあるんだ……。
宿のおばちゃんに案内されて町のはずれにくると、小さな丘があった。この丘の周りは森が途切れて、青空が広がっている。
そして、丘の上に一本だけ大きな樫の木が立っていた。
「あれが御神木か〜。」
なんとなく、注連縄巻いた神社の木を思い浮かべていたが、当然この世界にそんな物はない。でも。そんな物は無くても、その木は特別なオーラがある事が感じられた。
もう少し近づこうとすると、おばちゃんに制された。
「すみません。御神木を眺めるのはここからにして下さいな。そう言う決まりになってまして…。」
そう言ってちょっと申し訳なさそうな顔をする。
なんでだろう、保護の為だろうか。
そう言えば屋久島の縄文杉なんかも近づけないようにしていたな。が、それにしても距離がある。ここから御神木まで100メートルくらいあるのではないだろうか。保護というより、神域に近づけないとかそんな感じかもしれない。
勿論俺はマナーを守る観光客だからご当地ルールには従うぞ。
「あれが花粉症の元締め……。」
リジットが仇を見る目で御神木を見ている。おい、斬り倒そうとしたりするなよ?
「こちらの守りの木はこの森の御神木と言われております。森からも慕われているため。他の木はこの丘の周りには生えないんですよ。」
おばちゃんがこの木の説明をしてくれる。
「あれ?」
説明を聞いているとユーリッドが声をあげた?
「どうした?」
「あ、いえ、女の子が……」
そう言って守りの木の方を指差す。……が、何も見えなかった。
「誰もいないぞ?」
「あ、いえ……確かにいたんですけど……」
……村の人だろうか?
「どうかなさいましたか?」
おばちゃんがこちらに話しかけてきた。
「あ。いや、誰かの人影が見えたってこいつが言うもんで。」
「人を?……まぁ、村の者は時折守りの木のお世話をしてますでな。誰か居たのかもしれませんね。さ、ソロソロ戻りましょう。今日は鹿が狩れたみたいですから、夕飯は豪勢ですよ。」
おお、それは楽しみだ。
おばちゃんに促され、俺たちは宿に戻る。
ただ、ユーリッドだけは何度も振り返っていた。
ユーリッドとジーナにスポットしたお話になる予定…
……なるかなぁ?
……なるといいなぁ。
ここまでお読みくださり誠にありがとうございます。
感想、評価、気軽に入れてくださいませ。作者よろこびます。
それでは、引き続きお付き合い下されば、嬉しいなぁ。