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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第四章 街を追い出された!
35/66

なぜなにユリスちゃん2

ユリス「なぜなにユリスちゃん!」


ウィル「……は?」


ユリス「だから、『なぜなにユリスちゃん』ですよ、ご主人様っ」


ウィル「だからと言われても……、何なんだよそれ?」


ユリス「このコーナーでは、私が疑問に思った事をご主人様にお尋ねします。」


ウィル「お、おう。そりゃ別に構わないが……。」


ユリス「第2回!」


ウィル「……いや、第1回どこ行った?」


ユリス「この間、やったじゃないですか。FPGAの時に。」


ウィル「……あれがそんなコーナーだったとは……知らなんだよ……。」


ユリス「では、今日の質問なんです。」


ウィル「お、おう。」


ユリス「ご主人様のよく仰っている電気設計ってどんなお仕事何ですか?」


ウィル「……よく仰ってた?」


ユリス「頭の中で考えてる事はですね。」


ウィル「だからお前はどこのスパイなのかと……」


ユリス「いえ、ただのご主人様の筆頭奴隷です。」


ウィル「だから怖いって……。ま、それはさて置き電気設計の仕事な。まぁ、これは会社によっても違うだろうから取り敢えずおれの会社ではって事で話すぞ。」


ユリス「はいっ、お願いします。」


ウィル「まぁ、電気設計というくらいだからな。電気関係の設計をするのが仕事だ。ある開発したい装置に関して、電気が流れるもの全般に対して、その在り様を決めていく。」


ユリス「電気で動かすものならなんでもですか?」


ウィル「まぁ、うちの会社はそうだったな。もちろん、細かく分業しているところもあるだろうが。とりあえず、新規開発を例にとって、その仕事の流れを追っていこうか」


ユリス「新規開発っていうと、この間の電卓魔法を作るときみたいにですね。」


ウィル「そうだな。ちょうどいいから、新しい電卓を作るとして話を進めよう。まず最初に行われるのはインプットDRデザインレビューだ。」


ユリス「DRって言葉、前も有りましたよね?」


ウィル「例によって、口にはしてないはずだけどな……。まぁ、あれはアウトプットDR。コッチはインプットDRだ。開発のシステム担当者が作成したインプット仕様書について、開発関係者を集めて議論するんだ。」


ユリス「インプット仕様書にはどんなことが書いてあるんですか?」


ウィル「うん、基本的にはどんな装置を作りたいか、機能、大きさ、販売ターゲット、守るべき法律、開発スケジュール等々、作るために必要ないろんな事が書いてあるぞ。電卓で言うなら、

機能:加減乗除ができる

桁数:7桁(10数)9999999~-9999999

原価:2000円以内

付帯事項:除算処理において余りが発生した場合は割り算結果とあまりを交互に表示する。

大きさ:縦8cm 横5cm 厚1cm

開発期間:1年間

って感じだな」


ユリス「結構簡単なことしか書いてないんですね?」


ウィル「いやいや、これは分かり易くする為の例だから。実際には電話帳みたいな厚みになったりするぞ。それに仕様書と一言にいっても要求仕様書もあれば機能仕様書もある。結構奥が深いんだぞ。」


ユリス「すごい情報量になるんですね。」


ウィル「まぁ、厚ければいいってもんじゃないけどな。逆に特注なんかは、本当に上に書いてあるぐらいの内容しかない時もあったな……。」


ユリス「じゃぁ、インプットDRではそのインプット仕様書について、互いに理解を深め合うわけですね。」


ウィル「まぁ、ほかにも実現可能か、もっと良い方法はないのかについても議論されるな。」


ユリス「なるほど、こうしてインプット仕様書がブラシアップされていくんですね。」


ウィル「まぁ、そういうと聞こえはいいんだけどな。この段階において設計者は仕様に対して超~っ否定的だ。いかにその仕様が実現できないかという話ばかりする。これは電気も機械もソフトも同じじゃないかな。」


ユリス「え~っ、どうしてそんな意地悪するんですか。」


ウィル「まぁ、一つに設計者は仕様をみたときにまず考えるのは、それを作るにあたっての課題、リスクを考えるからだな。これは分かるか?」


ユリス「まぁ、自分で設計するんですから、どの辺が難しそうかは考えますよね。」


ウィル「そういう事。そして、できる限りハードルを低くしようとする。なぜなら、インプットレビューを通したら、基本的に実現させる責任が設計者側には発生するからだ。」


ユリス「でもそうすると、新しいことが出来なくないですか?」


ウィル「いやいや、そうじゃないんだ。もちろん技術的なチャレンジ項目はあってもいい(本当はチャンレンジ項目はチャレンジ項目として初期研究をしておくべきではあるが)だが、無駄に高いハードルはただの足かせでしかないだろう?例えば電卓なら20桁まで計算しろ…とかね。仕様を決めた人は桁を多くしておけばどんな計算も対応できて安心だと思う。でも、実際に作ると、異常に電力に食ったり、桁数が多すぎて見にくかったりと実用に向かなくなってしまう。電卓の話をしてたらいつのまにかPOSシステム作ろうという話になったのも、これに似てるかな。要は開発の本質は何で、何が無駄な要素かって話になってくるな。」


ユリス「うぅ……便利そうだと思ったんですぅ……。でも、インプット仕様書を書く人はよく考えて書かないといけませんね。」


ウィル「ま、よく考えないといけないのは間違いないけど、でも難しそうだからと初めから難易度を下げる必要もないんだよ?」


ユリス「え?そうなんですか?」


ウィル「基本仕様書を書く人は各分野(機械、電気、ソフト)の専門家じゃない。何が出来るか出来ないかの判断は各専門家がすればいいんだ。初めから要求レベルをさげたら、下がったレベルのものしか出来ない。インプット仕様書以上のものが出来るなんて基本的にないからな。」


ユリス「ん〜、難しそうです〜。」


ウィル「実際バランスのとれた仕様書を書くというのは本当に難しいことだよ。まぁ、インプットDRでは設計者側も否定的と言いつつも落とし所を探っていくような姿勢が大事だな。ま、これがインプットDRだ。」


ユリス「インプットDRは大変だって事が分かりました。」


ウィル「次はいよいよ設計だ。まず概要設計を行う。

(場合によっては先ほど少し話に出た機能仕様書を設計側で書く場合もあるが、まぁ今回は省略だ。)

電卓で言うなら表示用LCDがあって、「0~9」と「+-×÷=」のボタンがあって、それを制御するPCB(プリント基板)があって、電池があって、電池ボックスがあって…。それぞれをどのように結線して…。といった、電気系の全体図のだな。」


ユリス「なるほど…。電卓も結構いろんなものからできてるんですねぇ。」


ウィル「そうだな。そして部品を選定する。LCDとかボタンとかを、どこのメーカのなんという型番のものにするか…なんてことを決めていくんだ。これがあらかた決まったら機械設計者にその情報を回す。ちなみに決めたといってもこの時点では最終決定じゃない。PCBなんて図面もまだできてないんだけど、予測値を伝えておく。」


ユリス「なんでそんなに慌てて伝えるんですか?」


ウィル「この情報がないと、機械設計部隊が設計を進められなくなっちゃうからな。何が付くかもわからないのに設計はできないだろ?」


ユリス「……なるほど。正確な情報が出るまで待ってたら、すごく効率が悪くなっちゃうかもしれません。」


ウィル「仕事の回し方次第ってのはあるけどね。さて、そして、これが一番電気設計のイメージなんじゃないかと思うんだが……、PCB(プリント基盤)回路の設計だ。」


ユリス「魔法回路の設計ってことですね。」


ウィル「ま、そういうことだ。図面の中に抵抗だのトランジスタだのを書き込んで線をつないでいく。あと、それぞれの抵抗やらコンデンサも、どこのメーカのなんという型番かも決めていくぞ。」


ユリス「抵抗とかコンデンサってすごい量ありますけど、これ全部決めていくんですかぁ?」


ウィル「そうだよ。回路の中には定数や型番が決まっていない素子なんてないからな。そして、ファームウエアが必要な場合はIOポート表なんかも作って、ソフトの設計部隊にまわすな。」


ユリス「ファームウェア?」


ウィル「あ、そっか。ファームウェアっていうのは装置に組み込まれたCPU用のプログラムだな。LCDに数字を表示させたりの制御をプログラムするんだ。」


ユリス「ご主人様、魔導計算機の時そんなの作ってましたっけ?」


ウィル「だから、小規模マイコンが欲しかったんだ〜っ!論理回路でシーケンサだのデコーダだのってどんなバツゲーム……(血涙)」


ユリス「ま、まぁまぁ、ルーシアさんも喜んでましたから。」


ウィル「はぁはぁ…、ま、まぁソフト部隊が動くのは大規模なファームウェアが必要な場合だな。電卓くらいなら電気設計が作ってしまう事も多い。で、ここまで出来たらアウトプットレビューを行う。」


ユリス「こっちがご主人様が前に言ってた奴ですね。」


ウィル「そういうことだな。前も言ったが電気設計部隊内で行われるDRと、開発関係者に対して行われるDRを行う。部隊内でのDRで電気回路として正しいかどうかを、開発関係者とのDRで、要求にマッチしているかを確認していくのだが…」


ユリス「…だが?」


ウィル「ここで議論していくうちに、仕様が追加になる事が稀に良くある。そう…仕様の追加……、納期……変わらず……、材料費は変更できず……」


ユリス「あ、あれ……な、なんか何処かからか怨嗟の呻き声が聞こえるようなっ⁈ ご、ご主人様っ、やめましょう! 次っ、次の話題に行きましょう!」


ウィル「あ…ああ。そうかよ……その変更やるのかよ……。今からそんな機能変更したら初めから設計やり直しじゃねえかよ……。もう、部品手配走らせちまってんだぞ……。だからあの時要らないのかって聞いたじゃねぇか……」


ユリス「いやぁっ、なんか怨嗟の声が強くなってるぅっ!ご主人、帰ってきて〜っ!!」


ウィル「あ……、あぁ…。すまない、ちょっと『思い出』に耽ってしまったようだ。すまないが続きは今度でいいかい?」


ユリス「は、はい。それでは今度で、よろしくお願いします。」


ウィル「……野郎……大体最初に納期短いから変更効かねえって言ったじゃ……何が客の要望だから〜だ……ブツブツ……」


ユリス「あ……なんかご主人様がブツブツ言いながら行ってしまいました……。

皆さんも技術者の暗黒面に囚われないように気をつけて下さいねっ!

それでは、また次回『なぜなにユリスちゃん』でお会いしましょ〜。」




番外編第2回でした。

今回は電気屋さんの会社での仕事の流れです。

中々学校で電気の勉強してても、仕事の流れは教わらないので、一例として紹介してみました。

もちろん、他にもいろんなパターンがあると思いますが。

それにしても、思ったより長くなってしまい終わらなかった……。

続きはまた本編の切れ目にお送りする予定です。


ここまでお読み下さりありがとうございます。

感想評価は気楽にしていただけると、作者喜びます。

それでは、引き続きお付き合いいただけると、嬉しいなぁ。

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