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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第四章 街を追い出された!
34/66

フレミングは左手から攻撃

立ち上る白煙

そして白煙をまとって出てくるは獅子、山羊、そして蛇の頭

圧倒的な力を思わせる出で立ちは、今の俺にとっては死そのものを思わせた。


ハハ…。

いつかのクマなんて目じゃないな…こりゃ。


右手に剣を持ち術式を展開、インパクトブレーカーを全力で起動しておく。今の俺が全力で放てるのは8発が限界だ。8発放つとこの間のようにヘロヘロになってしまう。

両足にもフォスの魔法を待機させる。前にやった時は足の骨が折れてしまったが、今は調整と練習したおかげでそんなことにはならない。とは言え実戦使用は初めてだ。右足のフォスで踏み込んで、左足のフォスで逃げる。ヒット&アウェイを狙う。


「俺が正面を引き受けるから、お前らしっかり援護しろよ。」

「了解っ」

「ふん、分かったわよっ!」


キマイラの3つの顔が咆哮を上げた。

100年ぶりの怒りの雄叫びは腹に響く。

「来るぞっ」


キマイラが一足飛びにとびかかってきた。

「ぬぉぉぉっ!」

ブルが正面からハルバートで受け止める。なんて膂力だっ⁈


「てぁっ!」

左からロロが切り付けるが尻尾の蛇によって阻まれる。


俺はブルの脇をすり抜けて一気にキマイラの懐に入ると、獅子の横腹めがけてインパクトブレーカーを起動する。

「どうだっ」

鈍い音とともに体がくの字にはじけ、一瞬後大きく後ろに飛び退いた。


「おぉ、やるじゃねぇか。でもよ、もっと遠距離から撃てねぇのか?」

「いや、これは近距離専門なんだ。」

「マジか…また、おっかねぇ魔法だな。」

まったくだ。威力は高いのだが、射程が短すぎる。

…しかし…思ったより効いてないな。全力で人間に放ったら完全に粉砕骨折させられる威力なのだが、キマイラの動きにダメージは見られない。

「おいロロってめぇも気張りやがれっ!」

「うっさいっ命令すんな!!」

そういってロロがサイズを構えなおす。

「私は皆殺みなごろシスターロウエル・ローゼリア。こんなところで死ぬ人間じゃないのよっ」

それを聞いてブルが少し笑った。

「お前の魔法に、あいつの悪運がありゃ、案外なんとかなりそうな気もしてくるな。」

「悪運頼りかよ…」

「そう捨てたもんじゃねぇぞ、あいつの悪運はっ!」


キマイラが再び突っ込んでくる。今度のターゲットは…俺かっ⁈


突っ込んでくるキマイラを慌てて左足のフォスで横っ飛びに回避。しかし、とっさの動きに着地を失敗してしまう。

くるりとキマイラは向きを変えて、再びこちらにつっこんでくる。


「あまいっ!」

ロロが横っ面を思いっきりサイズに殴る。その間にブルが俺とキマイラの間入り、正面からハルバートを振り下ろす。

まるで金属同士のぶつかるような音が響きわたる。

キマイラの前足とハルバートが交錯する。と、獅子の顔がパカリと口を開けた。


!?

「やべぇ!」

一瞬の間の後、獅子の口から炎を吐き出される。

すんでのところで躱すブル。追撃を加えようとするキマイラをロロがサイズでけん制する。

俺も再び懐に飛び込むがキマイラはその瞬間大きく後ろに跳び距離をとってしまう。どうやら、警戒されているらしい。撃てなかったは残念だが、これはいい情報だ。インパクトブレーカは効果があるという事だからだ。


しかし、そこからは膠着状態だった。

基本ブルが正面にたってキマイラの攻撃を受ける。その隙をサイドから俺とロロで攻撃するのだがなかなか有効打与えられない。

右前脚と左わき腹に一発ずつインパクトブレーカーも当たっているのだが、大きなダメージとなっている様子もない。1発かわされたのもあって4発使っている。あと4発…。


と、ブルが山羊のかみつきを躱した拍子に前足の攻撃を受けそこない、吹き飛ばされる。

「っく…しまっ……。」

追撃に突っ込むキマイラ。動けないブルに降り降ろされる右前脚…

「さぁせぇるぅかぁっ!!」

ガインッ

という音を響かせて前足が止まる。サイズをひっかけるようにしてロロが前足を止めた。

ガラ空きの獅子の左顎に俺は飛び込むと、インパクトブレーカーを叩き込む。


顔面クリーンヒット!


さすがに顔を吹き飛ばされ、もんどりをうつキマイラ。しかし、すぐに立ち上がる。

歯や牙が何本か折れているのは見える。さすがに効いているみたいだ。

「ウソ……あの一撃でもすぐに立てるなんて……。」

ロロの驚きは俺も同じだった。脳震盪くらいなってもいいはずだ。あるいは魔物にはそういうものはないのか?

……いや……違う。

よく見れば獅子の目はまだ焦点が合っていない。代わりに山羊の顔頭が体を制御しているように見える。

なるほど、緊急時はコントロールを変えられるのか、しかし、山羊は獅子ほど体を扱えないようだ。

その証拠に一人倒れて攻撃チャンスのはずなのに追撃してこない。

「まったく…とんだ化け物ね、キリがない。……ねぇ、あんた。アレ…出来ないの?」

アレ……か。おそらく最初にロロに襲われたときにこけおどしで使ったやつだろう。インパクトブレーカー並列起動。

「出来なくはないが一回撃ったら動けなくなる。おまけに威力はあの時の半分以下だ。」

「ふん……あの時の死に掛けのガチョウみたいな歩き方は傑作だったわっ」

「ロロの土下座も見事だったよ。」

「ロロって言うなっ、ロウエル・ローゼリアだ!!……あとで絶対殺すからな……。」

こんな場面で殺す宣言されてもなぁ……。

と、後ろから声がかかった。

「面白そうな話じゃねぇか、俺も混ぜろよ。」

「ブルっ、大丈夫か?」

「ああ、ちょっと受けそこなっただけだ。お前らに助けられるたぁ、俺もヤキが回ったもんだな。それより話せよ。なんかとって置きがあんだろ?」

とって置き…というほどの威力はもう出ないだろう。

今、俺が打てるインパクトブレーカーはあと3発。まとめたところで威力はたかがしれる。

……いや……まてよ……。

「わかった。一瞬でいい。あいつの動きを二人で止めてくれ。そしたらあいつの獅子頭を俺がつぶす。」

……多分、できるはずだ。

「そしたら体の動きは止まるはずだ。二人で蛇と山羊の頭をつぶしてくれ。」

「止めてって……、簡単に言ってくれるわねっ」

「天下の皆殺みなごろシスターなら簡単だろ?」

「あ……、あたりまえじゃない。私が心配のはブルのほうよっ」

「俺かよ…はは、こりゃほんとにヤキが回ったもんだ。」

「よし、それじゃ俺は魔法を準備する。頼んだぜっ。」

俺は魔法陣を展開。インパクトブレーカを「10個」並列起動したのち、回路を改造する。

そうこうしている間にキマイラも立て直したようだ。怒りの形相でこちらをにらむ。


怒り狂うキマイラに正面から突っ込むブルとロロ。…はたから見ると狂気の沙汰だな……。

俺ももう一回飛び込まないといけない。しかも、一撃必殺。

……はは、メチャ高額な特注の納品前一週間の気分を凝縮した感じか……な。


ロロが会心の一撃を決めた。サイズがキマイラの左前足に突き刺さりそのまま床穿たれる。

「これで左足は動かせないわっ!……キャっ!」

蛇がムチのようにしなりロロを吹き飛ばした。

「ロロっ!」

ロロは起き上がろうとしている。とりあえず大丈夫そうだ。

「気にすんなっ!!右足も抑えたぞっ!」

そういってブルが武器を捨て、右前脚にしがみつくように抑え込む。キマイラと力比べできるってブルって本当に人間なんだろうか……。

いや、それどろじゃない。俺の出番だ。俺は右足フォスのスペルで一気に加速しキマイラに正面から突っ込む。

と、抑え込まれて動けないキマイラの獅子の口がカパっと開く。


⁉︎ ヤバい炎だっ。……いや、チャンスだっ。


俺はかまわず

獅子の頭めがけて突っ込んだ。

左足のフォスを起動。一気に獅子の顔の高さにとびかかる。

炎は熱いだけっ炎は熱いだけっ!

自分に言い聞かせて、吐き出される炎に、顔を手でかばって正面から突っ込む。

一瞬の閃光の後、俺の目の前、手の届くところに獅子の双目があった。

「もらったぁ!!」


インパクトブレーカー10連起動!


俺の残った全魔力、それに封印用に持ってきていたアメジストに込めていた魔力をすべて使いきる。

グシャっという音がして獅子の顔がつぶれた。


どさり…

俺の体はそのまま重力に従って落ちる。

山羊の頭を切り落とすブルの動きが見える。

よし……これで蛇の頭だけ……。


…蛇の頭は俺の目の前にあった。

や、やばい。動けない。

蛇は鎌首をもたげ狙いを定めると俺にかみつっ


ガシッ


その瞬間ロロの手に蛇の首はつかまれた。

「よくもこのロウエル・ローゼリア様にやってくれたわね……。」

そういうと、ロロは手に持った剣で蛇の首を掻っ捌く。


……あ、あれ俺の剣だ。


どうやら落としたのをロロが拾って使ったらしい。

…って、あれ、これ俺のピンチ続いてね?


返り血に染まったロロが俺のほうを見る。

あ…やばい……今は逃げようが……


「……ふん」

カラン……

ロロは剣を手放した。


……ふぅ……どうやら助かったらしい。


て事は…勝った……のか?


「ハハっ…いやぁ、なんとかなるもんじゃねぇか。」

そういってブルが煙草に火をつける。


勝ったんだ……なぁ。


全身の力が抜けていくのを感じる。

「「姉御ーーっ」」

声のする法を見ると入口のところにトーキーとベンスがいた。後ろに町長を引きずっている。

あいつら、うまく町長を見つけられたみたいだな。


3人が鍵を開けて入ってくると、キマイラの死体を見て目を丸くする。

「……ま、まさか倒してしまうとは……。」

町長の驚きようが一番で、腰を抜かしている。

トーキーとベンスは姉御を大絶賛だ。

「さすが姉御ッス!!まさかこんな化け物やっちまうなんて…。」

「いやぁ、俺も驚きました。すごいです。」

「フフ……そうだろ。この皆殺みなごろシスターの伝説にささやかな1ページが追加されたのさ。」

「「すげーーー」」

……みなごろしすたーのでんせつ……

いや、いいけどね。確かにこれはすごい事だとは思うけどね。

「っと…あの野郎、まだ生きてますぜ。とどめを刺しましょう。」

トーキーが俺のほうを見て言う。

「……いいんだよ、トーキー。今日のあたしは機嫌がいいんだ。見逃してやるさ。」

「さすがッス姉さん、度量が広い!胸はないけどっ!」

ゴスっ

「いちいち余計な一言が多いんだよっ!」

トーキーがロロにしばかれる。

……そうか、あれは鎧で抑えてるわけじゃないんだな……。

「あたしらは行くよっ。騎士団とかきたら厄介だからね。あんた…いや、ウィルっ。今度あったら容赦しないからねっ。」

「……へいへい。」

俺はそういって寝たまま手をひらひら振る。いや横着したわけじゃなく、それしかできないのだ。

「お、ロロ、ちょっと待てよ。」

ブルがロロを止めると、おもむろにナイフでキマイラの死体を切り裂く。そして、切り口から手を突っ込むと中から何かを取り出した。

「ほれ、これもってけ。」

ブルはそれを冒険者ロロに放る。

……それは光る石のように見えた。

「これはキマイラの魔石……いいのか?」

「俺らは領主からなんかもらえるだろ。だから、それはお前の分だ。」

そうか…ロロは盗賊だもんな。

「ウィルもいいよな?」

「ああ」

まったく何も問題なかった。



-------------

村長宅に戻るともうユリスとリジットが大騒ぎだった。

「どうしていつもご主人さまは無茶するんですかぁ!!」

「まったくです。ちょっとは自重していただかないとっ!」

……いや、無茶したくてしてるわけじゃないんだけどなぁ。


俺の恰好を見るなりこうだった。

俺は完全に魔力切れ、おまけに全身に火傷も負っていた。

キマイラのブレスによる炎は通常よりも温度が高く、少し触れただけでもこうなってしまうらしい。


……知ってたら飛び込めなかったなぁ。


そして、キマイラを退治してきたというと、卒倒する勢いで驚かれ、3割り増しで怒られてしまった。

「もう絶対!一人でいかせませんからっ!」

「わたくしも考えを変えました。ご主人さまを危険な目にあわせることこそメイドの名折れです。」

……まいったなぁ……。


結局、一日村長の家で休んだのち、俺たちはキマイラの肉だの骨だのを持ってフーチの街に帰還した。因みに解体はブルがやってくれた。流石に本業見事な手際だった。


この状況は早馬で首都チヨルドに伝えられた。ちょうど騎士団が出発するところだったらしい。情報は大層驚かれたが、早速見分部隊が派遣され、事実であれば俺たちは褒賞がもらえるらしい。チヨルドについたら城に出向くようにとの連絡があった。

俺たちは、怪我完治してから向かうことにする。チヨルドまではブルも同行してくれるそうだ。

怪我の回復には1週間もあれば大丈夫ということなので、1週間後に町の出口で待ち合わせをして、ブルとは別れた。

ズタボロの俺の姿を見て、ユーリッドとジーナは驚いたが、キマイラを倒したと聞いてさらに驚いていた。

ユーリッドはちょっと英雄を見るような目で俺を見て、なんか気恥ずかしい。実際、それほどのことをしたつもりはない。っていうか、ブルが凄すぎたんだ。あの化け物相手に正面から戦えるなんて人間じゃない。それに、ロロだって……。

ちなみに、ユーリッドとジーナが売っていた冷凍バックとひんやり服は飛ぶように売れたらしい。

実は、同じような物は以前からほかで売られているものだったらしい。だが、既存のものより消費魔力が少ないのと安いとういうことで、人気爆発だそうだ。ユーリッドからは利益の50%という事で金貨10枚を支払われた。10%でいいといったのだが、ユーリッドが譲らなかったのだ。

村長のハーゲン・ダッツからは俺とブルそれぞれ金貨50枚ずつをせしめた。っていうか、俺たちをキマイラの檻に閉じ込めたのだからこれでも安いくらいだ。村長は当分借金まみれになるそうだが、知ったことではない。


……ふぅ……しかし、こんな危険があるなら、もうちょっと戦闘用の魔法を開発しないといけないなと思い知った。インパクトブレーカだけでは、汎用性がなさすぎた。

ま、それもこれも、怪我が治ってからの話だ。

今は怪我を直そう。

かいがいしく世話をしてくれるユリスとリジットに全てをまかせ、俺は昼からベットで惰眠をむさぼった。


----------------------

ブライア・バセテールはフーチの街の行きつけの酒場に入った。

ここは、冒険者のような荒くれがあつまる酒場だった。ブライアにとってはこういう酒場のほうが落ち着く。

「ようブル、一人でキマイラ狩ったんだって?すげぇじゃねぇか。」

馴染みのマスターがいつもの酒をだしてくれる。西方の酒で飛び切りアルコール強い。

それにちびりと舌に乗せると香りが鼻に抜けてくる。この感覚が好きだった。

「いや、一人じゃねぇよ。頼もしい仲間がいたのさ。二人も……な。だから大したことじゃねぇのさ」

そう言ってブライアは訂正した。

「へぇ…天下のモンスターハンター『ブライア・バセテール』をして頼もしいなんて言わせるのはいったいどいつだい?」

ブライアは二人の顔を思い浮かべて、そして笑う。

ちょっとした小遣い稼ぎのつもりが大捕り物になっちまった。

しかも、あの二人ときたら……。

「ま、その話はまたそのうちな。」

そういってまた酒をなめる。

熟成されたいい香りだった。きっとあいつらも時が経てばもっと面白い味が出てくるに違いない。

ブライアは楽しみで仕方がなかった。




初めてのマトモな戦闘回でした。

迫力ある戦闘シーンをかける人ってすごいなぁとつくづく思います。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

感想、評価など気楽にお寄せいただければ、作者とても喜びます。

それでは、引き続きお付き合いいただければ、嬉しいなぁ。

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