無理な特注の回し方
「村を…村を救って欲しいのじゃっ!」
救ってと言われてもなぁ…。
フーチ村に滞在していた俺達を訪ねてきたじいさん。
なんでも隣の村の村長らしいが……。
「えっと……、落ち着いて下さい。救うってどう言うことですか?」
「はい…実は我々の村のすぐ側の洞窟に巨大な魔物が氷漬けにされて封印されているのです。」
魔物? 封印?
なんかきな臭い話になってきたな。
「我が村は定期的にその封印に魔力を供給し、守ってきました。しかし、先日封印に魔力を供給しようと村人が行きますと、封印の要となる宝珠が割れてしまっていたのです。このままでは魔物を捉えていた氷が溶けてしまいます。」
魔物を氷漬けにする魔法かぁ。
そんな凄い魔法もあるんだな。……て、話の流れからすると……。
「…えっ…ひょっとして、その封印を俺に?」
「はい。再度封印をして頂きたく。」
「な、何で俺になるんですか?」
「先日、エールを冷やされておりました。あれだけの量エールを、冷やす等並みの魔法使いには出来ない事。」
「いやいやいや……エール冷やすのと魔物凍らすのじゃ全然意味が違うでしょ。国やら冒険者ギルドに、頼めばいいじゃないですか。」
「この街の冒険者ギルドには行きましたが、残念ながら氷結や冷却を使える魔法使いはここには居ませんでした。」
「国は?騎士団とか宮廷魔術師とかいるでしょ?」
「はい。今別の物がそれは向かっております。しかし、魔物を討伐可能な規模の騎士団は首都チヨルドかイバリークまで行かねばおりません。騎士団が到着するのは早くて一週間、恐らく間に合いません。」
「そ、そんな事言ったって…、俺は冒険者でもないただの魔法具屋ですよ?」
「無茶なお願いなのはわかってます。ですが。もう他に方法がないのです。騎士団が到着するまで封印を維持するだけでも構いません。報酬は金貨10枚用意いたします。何卒……。」
封印を維持……て、氷を溶けないようにすればいいって事か。ベルチェで覆って冷やし続ける感じにすればいいのかな?
……ん〜。
ダッツ村長は頭を机に擦り付けている。
なんか営業とのやり取りを思い出すな。
あいつら短納期の仕事無理矢理受けてきては、ねじ込んできてなぁ。
「頼む、なんとか2.5カ月で……」
「2.5カ月って、今から速攻で設計して発注してってしても、物が揃うかどうかだぞ?」
「そこをらなんとか、コレが通れば全部で1000万の受注になるんだよぉ。」
そして、値段を言われると弱いんだよなぁ。そんで……
「分かったよ。取り敢えず回してみるが、リスクは持ってくれよ。」
「分かったっ。じゃよろしくっ」
シュバっと手を上げ足早に去っていく営業。あいつら俺たちに「分かった」って言わせたら勝ちだからなぁ。リスク持てって意味分かってんのかなぁ?
そして、今度は俺が外注や購買に短納期で回すための根回しを……。
っは……イカンイカン。つい妄想の中に入ってしまった。
見ると村長は頭を下げながら、上目遣いでこちらを見ている。……ええい、鬱陶しい。
「分かりましたっ。見るだけ見てみますけど何も保証出来ませんからねっ。ちゃんと避難の準備はしてくださいよ?」
「おおっ! 助けて下さいますかっ!ありがとうございます。ありがとうございます。 それでは準備もありましょうから、午後一に迎えに来させていただきますじゃ。」
また急だなぁ。まぁ、氷が溶ける前にって事だから急ぐのは仕方ない……か。
と、言うが早いか足早に村長は宿を出て行った。
その後ろ姿に在りし日の営業の背中がかぶる。
……長く話してやっぱ無理って言われたくないんだろうなぁ……。
「そんな、危険ですっ!」
部屋に入るとユリスが大反対だった。
「大丈夫だよ。ちょっと見て、危なそうならすぐ逃げるから。」
「そんな……なんでリジットも止めないんですかぁっ」
「主人の仕事に口を挟むのはメイドとしての分を超えます。」
その目は暗にあなたも控えなさいと言っている。さすが、ユリスのメイド師匠。
「うぅ……でもぉ。」
「何をしているのです?早く準備をしなくては」
そう言って旅支度を始めるリジット。
ユリスもしぶしぶと言った感じで用意しだす。
……て、ちょっと待て。
「何をしてんだ?行くのは俺だけだよ?」
「いいえご主人様っ!いついかなる時も主人の世話をするのがメイドの務め。コレだけは曲げられません!」
「そうです。私はご主人様の奴隷なんですから離れる訳にはいかないんですっ!」
え〜〜っ!
なんかうちの奴隷とメイド、立場強くない? ご主人様より立場、強くない?
しばし行くの行かないのの口論になるが、結局二人の意思は変えられず。
「ユーリッドとジーナは留守番な。馬の面倒を頼む。」
と、二人だけ残していく事になった。
ダッツ村長は昼御飯を食べて少ししたら宿にやってきた。
二人人数が追加になる事は特に問題ないらしい。
村長に連れられて街の入り口までくると小型の馬車が待っていた。一頭立てだし、積載量は俺達の馬車の半分くらいだろう。村長に頷がされて中に入ると、中には先客がいた。
「よう、お前さんが魔法使いか」
こちらの声を確認すると、先客は気さくに声をかけてきた。
「ご紹介します。今回護衛役に雇ったブライア・バセテールです。ウィル様を現場まで護衛いたします。」
「ブライアだ。ブルって呼ばれてる。よろしくな、色男。」
そう言ってブルが手をさしだしてくるので、俺も握り返した。
ブルは年は40〜50という所だろうか。頭頂部が綺麗に禿げ上がっていて、その代わりか髭を伸ばしている。
その風貌のせいで、それなりの歳に見えるのだが、表情は若い。意外と30台ということもありえるな。
ガタイはかなりいいな、プロレスラーって感じだ。
しかし色男って……。
「ウィル・ハーモニクスで…だ。あと。この二人は別にそう言うんじゃない。」
恐らく年上なので思わず敬語になりそうになるが、あくまでタメ口を使う。客ならともかく冒険者相手には舐められちゃ駄目だというのがドーハンの教えだ。
「そう言うんじゃないって…じゃ、何なんだ?」
「何って……」
思わず二人を見る俺。
「旅装束ゆえ正式な服装でなく失礼いたします。わたくし、ウィル様付きメイド長。リジット・フランカーと申します。以後お見知り置きを。」
…いつの間にメイド「長」になったんだ、お前……
「ウ、ウィル様の筆頭奴隷のユリスですっ」
お前もか…「筆頭」も何も俺に奴隷はお前しかいないんだけどな。
「おう、よろしくなっ!」
ブルが軽快に挨拶をして
「……で、何が違うんだ?」
「いや……何だろうな」
なんか言い訳出来なかった。
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ゴトゴトと馬車に揺られて進む。
ブルはタバコを咥えてボンヤリと外を眺めている。なんかドーハンとは雰囲気が違うな。本当に役に立つんだろうか?
武器は傍にハルバートを立てかけているからあれだろう。
なんとなく冒険者の武器というと剣というイメージがあったのだが、意外だな。
「ブルは護衛専門の冒険者なのか?」
「ん? いや普段は大物のモンスターなんかを狩ってる。今回はたまたま手が空いててな。なんか楽な護衛だってんで小遣い稼ぎだ。お前さんがなんかの封印をなおすまで護衛してりゃいいんだろ?」
ま、間違ってはいないんだろう。が、俺が封印を直せるかどうかは分からないって所は伝わってないだろうなぁ。
「止まれ〜〜ぃっ!」
ガタンガタンッ
馬車が突然止まった。
「な、なんだ?」
なんかどっかで聞いた声だったが…
御者台に顔を出すと馬車の行く手を巨大鎌を手にした女が仁王立ちして塞いでいる。そして、周りに武器を構えた男が2人。
ってかあれって…
「皆殺シスター、ロウエル・ローゼリアよ。命が惜しくば積荷を置いていきなさいっ。」
出た…また出たみなごろしすたー……。
と、そのしすたーと目が合ってしまう。
「あ……あ……あ〜〜っ!ハッタリ野郎!」
「その節は……」
一応会釈してみる。
「みーつーけーたーぞーっ! 良くも恥をかかせてくれたな。降りてこぉいっ!」
「そうだぞっ。姉御は貴様への復讐のために旅に出たんだぞ。」
「そうッス!しかも、みんなついて来たがったのを、個人的な復讐だからって最低限俺達だけをつれてきたんッス!」
……はあ、左様ですか……。それはご苦労様です。
「なんだ……ロロじゃねえか。」
「ゲッ……ブライア・バセテール⁈」
ブルが後ろから顔を出すと明らかにローゼリア一味の顔色が変わった。
「知り合い?」
「いや、知り合いってほどじゃねえけどな。この辺を縄張りにしてる盗賊団の頭だ。悪運のロロってな、割と有名人だぜ?」
そう言ってブルがハルバートを片手に馬車を降りた。
「ロロって言うな! ロウエル・ローゼリアだっ」
「そんな長い名前いちいち言ってられるかよ。でどうすんだ? やるのか? 俺の護衛する馬車に手出すってんなら手加減しねぇぞ?」
そう言って新しいタバコを口に咥えて火をつける。…魔法使えるとライター要らないから便利だよな……。
「うるさいわねっ、やっと見つけたそいつを逃がすわけないでしょ。お前たち、やっちゃいなさいっ!」
「「アラホラサッサ〜〜」」
男二人が剣を振りかざしてつっこんでくる。
ブォン…
無造作に振られるハルバート。気がつくと男二人の手から剣が離れ宙を舞っていた。
「技量云々言う前に握りが弱ぇ。」
と言ってタバコの煙を吐き出す。
「こ、このお…いいだろう。私自ら相手になってやる。」
言うやいなやローゼリア……、いやロロがサイズを構えてつっこんでくる。
右から左に振られる鎌を前に踏み込んでブルが躱し、柄の部分をハルバートでうける。
「甘いっ!」
ロロがサイズ引く。ブルの背中に鎌の刃が迫る。
「フンッ」
ガッ
ブルが片手でサイズ柄を握るとサイズの動きがピタリと止まる。
「こ、この……離しなさいよっ!」
「馬鹿か。」
ゴインッ! ……パタッ
ハルバートの柄がロロの頭を叩く。
あ〜痛そ〜〜。
案の定頭を押さえて悶絶するロロ。
「あ、姉御っ」
男二人に引きずられて距離をとる。
「こ、この卑怯者〜っ」
「何処がだよ……まだやるか?」
「く、クゥ、今日は引き分けにしといてあげるわよっ!」
そう言ってジリジリ距離を取る。
「ほら。忘れもんだ。」
ブルが手に持ったサイズ投げた。グルングルンと回ったサイズがロロの足の間に刺さるっ。
「ヒィッ……あ、危ないじゃないのよ‼︎ば、バーカッ‼︎」
そう言ってサイズ抜いて去っていくロロ一味。
「やれやれ……」
禿げた頭を手でペタペタしながらブルが馬車に戻る。
「強いなブル。」
「あんなの相手じゃ強いも何もないだろ?」
そう言ってやれやれと定位置に戻るブル。
でも、ロロの一撃とか俺には結構鋭くみえたんだけどな。
「どうして逃したんですか?」
リジットがブルに尋ねる。
たしかに、ワザワザ逃がす事ないだろうに…。
「あ〜…、あいつは悪運のロロって言ってな、実力はぜーんぜん無いんだが、何故か殺されもせず、捕まりもしないんだ。しかも、荒くれ連中にはなぁんか人気があるしな。」
確かに。やたら部下には慕われていたな。
「んでよ、実力はないんだが、一応尼さんの格好してるだろ? 神のご加護は本物かもしれねっていって、あいつ捕まえたり殺したりは縁起が悪いんだ。」
「え、縁起⁉︎」
「ま、そんなわけだ。あいつらなら100回襲ってきても問題ないから気にすんな。」
はぁ……確かになんか憎めない感じだったな。
ま、もう会うことはないだろう。
……その時は俺はそう思っていたのだが……
営業さんが何となく悪く見えるように書いてしまいましたが、営業にだって言い分はあるのです。
おまけにこちらが迷惑もかけている事もあるのです。
ま、結局お互い様だよね……と。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
感想、評価など気楽に入れて貰えれば、作者とても喜びます。
それでは、引き続きお付き合い頂ければ、嬉しいなぁ。