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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第四章 街を追い出された!
31/66

ペルチェ効果の風物詩


それから数刻、夕暮れ時の少し前だが、太陽はまだ燦々と輝き、フーチの街をジリジリと焼いていた。

そんな中、俺達は露店を開いているユーリッドとジーナを発見した。直射日光から逃げるためにタープを張って日陰を作っている。

「うー、暑いよ〜。お兄ちゃん。」

「うるさい。我慢しろ。まだ一個も売れてないんだぞ。」

「こんな暑くちゃみんな服も鎧も買わないよう。みんな裸んぼだって〜。」

「望むところだ。」


…んなバカな。


「調子はどうだ?」

俺が声をかけると二人が気がついた。

「あ、師匠!」

「ししょ〜、あついです〜。」

気張った返事のユーリッドに比べてジーナは大分へばっている。まぁ、暑いからな…。

みると、商品はカバンや鎧なんかの革製品と。ジーナの作った服だ。ま、確かにカバンはともかく、鎧なんかは着る気になれない暑さだ。

「売り上げは?」

「それが…全然…」

落ち込んでいるようだ。

分かる…分かるぞその気持ち。

俺もマッサージ玉売り出した直後に味わった。

「ま、これでも食って元気だしな。」

俺はそう言ってさっき作ったものをコップに入れて二人に渡した。

「これは?……冷たいっ!」

「あれ?ししょー。これ氷?」

「ああ。氷を細かく砕いたものだ。」

「これをかけて食べるんですっ!とっても美味しいですよっ?」

そう言ってユリスは氷に白い液体をかける。そう、シロップだ。と、言っても砂糖は高いので、ミルクと蜂蜜を混ぜたものだ。それだって結構高かったけどな…。

ユリスも先ほど食べさせたのだが、それはもう感激してた。感激し過ぎて一気に食べて頭を抱え込んでしまっていたが…。

ユリスに言われユーリッドもジーナも恐る恐る氷を口に運ぶ。

「! 冷たいっ。美味しい! お兄ちゃんっ。これ美味しいよっ⁉︎」

「本当に…でもこの暑い日に氷なんてどうやって?」

「まぁ、魔法でな。」

そう言って皮袋入った氷を見せた。

「凄い、こんな沢山の氷を作る冷却魔法なんて、かなりの魔力消費なのに…」

そう言ってユーリッドは感嘆してくれる…が、実はそこまで魔力消費はでかくないのだ。確かにまともに冷却魔法を使うと魔力消費は膨大らしい。(らしい、と言うのは俺がまだ冷却魔法なんて使えないからだ。)

だが、ペルテ…いやペルチェの魔法ならそこまで魔力は必要ない。


------電気の話…っていうよりペルチェ素子の話-----

ペルチェ素子は便利な温度制御素子だ。その特性は「温める」でも「冷やす」でもなく「熱を移動させる」というものになる。つまり、板状のペルチェ素子の表面の熱量を裏面に移動できるのだ(ペルチェ効果)。熱量奪われた側は冷えるし、与えられた側は温まる。ただし一つのペルチェ素子で作れる表面と裏面の温度差には限界があり、限界に近づけば近づくほど移動出来る熱量は減っていく。この為、ペルチェ素子で効率の良い冷却をするのは少し難しい。


具体例を上げよう。

環境温度20度で最大40度温度差を作れるペルチェ素子を駆動して、ペルチェ表面を冷やしたいとする。

駆動直後は表面の熱量は奪われ裏面に行く為。表面は急速に冷えていき、逆に裏面は加熱される。そして、表面と裏面に温度差が出来ると移動出来る熱量は減っていき、限界温度差に到達すると熱量の移動は止まる。これだけならば表面は0度、裏面は40度になるはずだ。しかし、様々な要因によりペルチェ素子はこの温度に到達してくれないのだ。


まず、ペルチェ素子自身も発熱する。この自己発熱をプラス10度とすると、ペルチェ素子の表面は10度、裏面は50度になる。


さらにさらに、環境温度と差がある為に、周りからも熱量が需給が発生する。その供給される熱量とペルチェ素子の移動出来る熱量が平衡するところまでペルチェ素子の作れる温度差は削られてしまう。40度まで作れた温度差が30度まで削れたとしよう。すると、ペルチェ素子の表面は15度、裏面は45度になってしまう。


結局温度差最大40度作れるペルチェ素子を使っても、環境温度から5度しか下がらない…というわけだ。


挿絵(By みてみん)


ならばどうすればいいのか。

答えは簡単、加熱側を冷ましてやればいいのだ。

…え?だから、冷やす方法をきいてるんたろって?

いやいや、そう言う事ではないのだ。


今度は俺が魔法で氷を作った方法を例にあげよう。

俺は皮袋に水を入れるとそれを川に沈めたのだ。

そして皮袋にペルチェの魔法をかけた。皮袋の中身は冷やされて、外側が暖かくなるようにな。魔法を起動すれば当然、皮袋の外側は加熱されるが、川の水がすぐに熱を吸収してしまう。だから、皮袋の外側の温度は常に川の温度と同じになる。さらに皮袋で中身は囲まれているので、流入熱量も考えなくてよい。(さらに魔法は自己発熱もないようだった。電気なら自己発熱分は加熱される。)よって、川の水を15度とすると、ペルチェの内側は作れる最大温度差でマイナス25度まで冷やせる…というわけだ。

要は、加熱側を冷ますと言っても冷却させる必要はなく、うまく放熱させればよいという事だな。ちなみに実際に作る場合は加熱側に放熱板をつけるか、水を流して冷却したりする。


余談だが、以上の理由によりペルチェ素子でパソコンのCPUを冷やす時も。放熱をしっかりしないと却ってCPUを温めてしまったりするので注意が必要だ。


-----ペルチェ素子の話 ココまで-----


それはさておき、ユーリッド達の売り上げは芳しくないようだ。

なにか一工夫必要なんだろうな。いっそかき氷をセットで売るか?

いや、売れるかもしれないが、それはかき氷が売れるだけで、ユーリッド達の商品ではない。


ふーむ。


と、ユーリッドが氷を作った革袋を凝視してる。

「どうした?」

「師匠……、これ僕の鞄にも同じ魔法をかけられないでしょうか?」

「氷を作るのか?」

「いえ、魚とか肉とか、冷やして運べる鞄がつくれないかなと。」

……ふむ、冷凍バックか。確かに可能そうだな。

魔力の持続時間さえ確保できれば結構いい線いけるかもしれない。

「よし、夕飯食ったら実験的に作ってみるか。」

「はい、よろしくお願いします。」

「あ、そしたら私、涼しい服を作ってみたいです。ししょー」

涼しい服…服にペルチェを仕込むのか。実際のペルチェでは出来ない魔法ならでは発想だな。

「よし、それもな。」

「やったーっ!」


宿に戻るとリジットが荷物整理を終え、さらに部屋の掃除までしていた。宿屋の部屋まで掃除することないのに、リジットのメイド能力は非常に優秀だな。


……なのに、それ以外はなんで残念なんだろう……。


全員合流した俺たちは、そのまま町の酒場までやってきた。

中は旅商人や冒険者やらでごったがえしている。なかなかの活気だな。

席に着くとウエイトレスのお姉さんがメニューを置いて行ってくれた。

「ふむどれどれ。肉に魚にと結構メニューは豊富だ。お、チーズリゾットなんかもあるな。」

……あれ?ユーリッドとリジットがメニューを見ていない。

「どうした?あんまり食欲ないか?」

「いえそういうわけではないのですが……。」

「私たち…その……。」

……ああ、そういうことか。

二人……いや三人は押しかけてた手前、勝手に注文してよいのか悩んでいるのだろう。

ちなみにユリスとジーナはもうメニューに夢中だ。

ユリスはともかくジーナ……お前すごいな。

「気にするな。旅の仲間を飢えさせるわけにもいかないしな。そのくらいの金はだすさ。」

「ご主人さまの下にいると、いつもおなか一杯なんですっ!」

そういって、なんかユリスが誇らしそうだ。

まぁ、最低限の衣食住くらいはな。

「は、はい、ありがとうございますっ。」

「ただし……ユーリッドとジーナは稼いだら返してもらうからな。」

「は、はいっ」

「えーーーっ」

……ジーナは本当にいい根性してるな。


結局、みんな思い思いのメニューを頼むことになる。

ちなみに俺はイーナのパイ包み焼きとさっきのチーズリゾットにした。イーナとは川魚らしい、淡泊な味だがトマトソースと共にパイにくるまっていたため、ソースの味がしみ込んでいてとてもおいしかった。

パイにチーズにリゾット…ちょっとカロリーオーバーかもしれないが……。

そして、大人な俺とリジットは当然エールを頼む。

俺はわくわくしながらペルテの魔法でエールを冷やしてみる。


……う、うまい。


炭酸とエールの泡がひんやりと喉に流れ込んでくる。エールの香りが鼻に抜ける。


やっぱこれだよ!


こっちの世界にきてからエールはいつも常温だった。そして、それはそれで旨い。

……が、やはり日本人の俺としてはビールといえばキンキンに冷えたジョッキビールなのだ。


「リジット」

俺はリジットに冷えたエールを差し出す。

「どうなさいました?……これは?」

「ま、一口どうよ?」

「え?同じエールでは?……ま、まぁ、ご主人のお勧めならば……いただきます。」

「グッといけ、グッと!」

そうして、リジットは喉を鳴らして一口飲む。そして目を見開いた。

「ん………こ、これはっ!!」

「どうよ?」

なぜか俺はどや顔だ。

「この暑い店内、むさくるしい野郎どもに囲まれた中で、まるでひと時の清涼…。いえ、それでいてエールが私の体を火照らせて……。」

「……だろう?」

むさっくるしい野郎どもに俺ははいっているのかなぁ?入っているだろうなぁ……。

と内心思ったのは内緒だ。


んぐ…んぐ…


あ、あれ?リジットさん?それ俺のエール……


ぷはぁ!


「ご主人さまっお代わり!」


あ……はい。


「ご主人さまいいなぁ……。」

「ししょー、私も飲んでみたいです。」

ユリスとジーナまでそんなこと言い出す。


と、隣の席の冒険者にも見つかった。

「なんだ、面白そうな飲み方してんな?そりゃうまいのか?」

「飲んでみて下さいよっ。この甘露!」

といって、リジットが「俺の」エールを冒険者に渡してしまう。

「どれ……こりゃすげーっ!!おい、みんなこっち来いよ。すげーうめーエールが飲めるぞ!」

あ、ちょ……ちょっと。

「なんだこりゃぁ。夏にはたまらねぇじゃねぇか。」


そして、俺はジョッキにペルチェの魔法をかけるマシンと化したのだった。


……金はしっかりとったけどね。

ついでに店はエールが完売したって大感激してたな。おかげで俺たちの食費はタダになったしまぁいいか。


--------------------

翌朝。

本当は夕べやる予定だった冷凍バックと冷却服の作成を行った。

といっても、回路はできているので、ベースの宝石に魔法を書き込んで縫い付けるだけだ。

ベースはさすがにガラスでは充填魔力が足りなくなるのでラピスラズリを選択。これで冷凍鞄なら1日くらいはもつはずだ。

ちなみに冷凍鞄は作ってわかったのだが、周りがすべてペルチェで囲まれるため、外部からの熱流入がない。そのため、一度冷えてしまえばあまり魔力をかけずに温度を維持できるのだ。

一応、あまり冷えすぎないようにテンプセンスの魔法で、一定以下の温度になったら止まるようにした。

服のほうも回路は同じだが、冷凍鞄よりもさらに低パワーにしている。要は体が少し冷えればいいのだ。あまりパワーをかけたら寒いし、凍るし、周りが熱い。

体感2度から3度下げられるくらいの設定にしてある。

これらの魔法をパッケージして、呪符にしたものをユーリッドとジーナに渡す。

「ありがとうございます。ししょー。必ず売ってきて見せます。」

「私も、これなら売れるきがしますー。」

うむ、頑張ってもらいたいものだ。


と、そこに少し顔が青いリジットが部屋に入ってきた。リジットは例によって二日酔いだ。冷えたエールに感激して飲みすぎたのだ。

ちなみに、俺は魔法をかけるのに忙しくてほとんど飲めなかったから問題ない。こういうのも不幸中の幸いというのだろうか?

「ご主人さま、……下にご主人さまにお会いしたいという方が……ウプ……。」

青い顔しながらもキッチリメイド業はこなす。社会人の鑑だな。いやまっとうな社会人なら翌日仕事なのに深酒なんてしないか……。

「……だれ?」

「はい、近隣の村の村長らしいのですが、ご主人さまにご相談したいことがあると……。」

……相談?なんだろう……。

「わかった。すぐ行く」


宿の受付前まで下りると見たことのない初老の男が座っていた。

恰好からして農民だろう。

「お待たせしました。」

リジットがそういってその男に会釈する。

「お、おお……。あなたが……。」

「初めまして、ウィル・ハーモニクスです。あなたは?」

「わしは隣の村の村長。ハーゲン・ダッツと申すもの。どうかウィル様を優秀な魔法使いと見込んで頼みがあるのじゃ」

……ハーゲン・ダッツ?なんて、おいしそうな名前だ。

って、それどころじゃないか。

「頼み…と言いますと?」

俺が言うと、村長は立ち上がって言った。

「村を……村を救って欲しいのじゃ!」





今回簡単な解説図を入れてみました。

文章だけではイメージが難しいかと思い追加してみましたが如何だったでしょうか。

ペルチェの解説については、自己発熱の熱量循環などを省略してますので例によって厳密な話ではありません。ちゃんとした話は教科書を、どうぞ。(相変わらず丸投げ)


それでは今回もお読み頂きましてありがとうございます。

評価、感想などありましたらお気軽に入れていただきますと、わたくしとても喜びます。

それでは、今後もお付き合いいただけたら、嬉しいなぁ。

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