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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第三章 新しい事にチャレンジしてみた!
25/66

ゼロの除算

さて、とりあえず、足し算引き算だけ出来る電卓はルーシアに引き渡した。

めっちゃ、喜んでたな。

だがしかし。

掛け算、割り算が出来ない電卓など、電卓とは認められないのだ。ていうか、それなら算盤でいいではないか。

…いや、算盤でも割り算出来るけどさ。てか、平方根だって出せるけどさ…。


…あれ?算盤でいいんじゃね?



い、いゃ、一瞬それでいいかと思えたが、それでは電気技術者、いや、魔法技術者の名が廃る。最低でもマジカル算盤はつくりたいところた。



…マジカル算盤てなんだよ…

それはそれで、面白そうだが…


と、取り敢えず気をとりなおして。

掛け算回路と割り算回路だ。



------ココから回路の話〈いきなりかっ〉-----


さて、電卓の名を冠するため、おれは掛け算回路に取り組む。

と、いっても掛け算はそれほど難しくない。桁上がりの処理さえしっかりすれば、ANDとORの組み合わせだ。桁ごとに処理する必要があるので多少めんどくさいけどね。


問題は割り算回路だ。

割り算のなにが問題なのか。

それは、加減乗除のうち除算だけは整数で表しきれないのだ。つまり小数が発生してしまう。

人間が筆算する場合は、小数でもあまり問題にはならない。しかし、デジタルの場合、桁数という問題がまず出てくる。小数点以下何桁まで表示するか、だ。

一般的にデジタルにおける小数点表記には固定小数点と浮動小数点がある。

固定小数点は簡単だ、整数表記に対して、ある桁数以下を小数とする。

例えば今回の電卓ならば、7桁表記のうち下2桁を少数と扱うわけだ。

これは簡単なのだが、整数部分の表示桁数がガクッと減ってしまう。少数も2桁では使い物にならない。

まぁ、それならば表示したい所まで桁数を増やせばよいのだが、その分リソースを食ってしまう。


もう一つの浮動小数点数は指数表記を利用する。プログラムの変数型でいうならdoubleやfloatだな。

たとえば

0.2

を基数10の指数で表記をするなら

2×10e-1


0.0017

ならば

1.7×10e-3

と表記出来る。

この時基数はシステムで共通にしてしまえば、記録する数字は1.7と-3だけですむのだ。

この方法は表示桁に対して、小数点の位置を自由に変えられるので、桁数を無駄にせず有効に活用出来る。

だが…指数の計算プロトコルを、作るのがめんどくさいのだ(血涙)


ああ、そうそう「ゼロの除算」への対策も必要だな。

「ゼロの除算」…プログラム部の奴らがよく苦しんでたなぁ…。


…はっ、思わず遠い目をしてしまった。

まぁ、気をとり直して、現実的な所では固定小数点でやるのが手っ取り早いだろう。桁数をあげても回路が増えるだけだ。メモリだけ増やして、計算処理は上位ビットと下位ビットを分けて計算させれば今まで作った物を流用出来る。


…ん〜、それでいいのかなぁ…


-------回路の話ここまで-----


何となく、自分が決めた方針に納得が行かず、俺は悶々としていた。

なんかスッキリしない、見落としがある気がする。

あ〜、DR(デザイン レビュー)がしたい。


DRとは設計したものがそれで良いかどうか、みんなで検討する会議の事だ。うちの会社の場合、同じ電気部隊のなかでのDRと、システム開発の関係者(システム統括、機械、ソフトの設計担当や生産担当等)を集めてのDRがある。前者は主として電気回路が間違っていないかの検討、後者はシステムの中において要求事項を満足出来ているかを検討する。一度このDRを通ればその後になにか間違いが見つかっても「だってみんなでDRしたじゃん!」と言って、責任転嫁出来る…気分にはなれる。(実際には当然逃げられない)

会社にいた頃はメンドクセとか思っていたが、他の人の目で指摘してもらえるというのはやはり大きいのだ。


「みんな、どうしてるかなぁ…」

机に頬杖をついて町並みを眺める。

そろそろ日が傾きはじめたな。

煙突から煙が上がっている。みんな夕飯の支度にはいったのだろうか。

…ん?なんかよく見ると夕飯という感じじゃないな。みんな、街の中心部にある広場に向かっているようだ。


コンコンコン…


部屋をノックする音と共にユリスの声がした。

「ご主人様、お茶をお持ちしました。」

「ああ、開いてるよ」

ユリスが音もなく扉を開ける。

そして、静かに俺の前にお茶を置いてくれる。大分メイドの所作も様になってきた。たまにリジットがメイドの作法を教えてくれるらしいが、その賜物だろうか。本当にあのバレバレハニートラップメイドは何がしたいのだろうか。

…ま、それはさて置き街の事をユリスに聞いてみよう。俺は怪我が治るまでという事で外を出歩いていないが、ユリスは買い物に出ているからな。


「なぁ、ユリス。今日って外でなにかあるの?」

俺の質問にユリスは少し窓の外を見る。

そうすると、俺の質問の意図が分かったようだ。

「あぁ、今日は月天祭なんですよ。」

「月天祭?」

「はい、月を愛でるお祭りです。今日は広場に屋台や大道芸人が集まってみんなで飲んで食べて大道芸を楽しんで….しかも、全部領主様のおごりでなんです。だから、今日だけは奴隷もお腹一杯ご飯が食べられるんですよ。」

「なんだ、そう言う祭りがあるのか。あ、それならユリスも行ってきていいよ?」

「いえ、私はいつもお腹一杯食べさせて貰ってますから。それに…」

「それに…?」

と、そこに音もなくリジットが現れた。

忍者かコイツッ。

「あら、ユリスはお祭りに行きたいのですか?でしたら遠慮なさらず行ってらして下さいな。ご主人様のお世話はわたくしだけで大丈夫ですから。」

「ご、ご主人様はあなたのご主人様じゃないっていつも言ってるじゃないですかっ!それに、私はお祭りに行きたいと思ってませんっ!」

「あらあら、それにしてはいつもお買い物の時お祭りの準備を楽しげに見てたじゃないですか。」

「そ、それは、今までは唯一の楽しみだったから…。でも、今はっ」

「でも、ここに居たら願いの鈴は聞けませんわよ?」

「う……」

言葉に詰まったユリス。

どうやら、願いの鈴なる物をユリスは聞きたいらしい。

「こ…ここでも聞けるかもしれないじゃないですかっ」

「ここで?流石に聞こえないと思いますけど…」

ふむ、それほど大きい物ではないのかな?

「なぁ、願いの鈴ってのはなんだ?」

俺が聞くとリジットが答えてくれた。

「願いの鈴と言うのは、月天祭のクライマックスですわ。深夜、月が天頂に来た時、大司教様が教会の塔で鈴を7回鳴らすのです。その鈴の音が消えるまでに月に願い事をすると叶うと言われているんですよ。」

なるほどねぇ。

初夏のお祭りというと七夕ってイメージだけどな。

「なぁ、もしかして、別れた恋人が会う…なんて話しもあったりする?」

「ええ、ご存知でしたか。天の二つの国の王子と王女が一年に一度だけ星の壁を越えて会えるのです。その時、二人が会う合図が月に向って七度鈴を鳴らす事だと言われています。」

…星座の形が同じなだけでなく、七夕伝説まであるとは、はてさてどう考えるべきかな…。

「なるほどねえ。ユリスは何を願うのかな?」

「奴隷の望みは奴隷からの解放しかないと思います。」

俺の問いにリジットが代わりに答えると、ユリスが大きく首を横に振った。

「ち、違いますっ。私はっ…その…」

「あら、それではなんなのです?」

「そ、その…ひ、ヒミツですっ!……ぅ…カフッ…」

い、イカン。ユリスの奴隷の首輪がユリスの首を絞め出した。どうやら命令違反と捉えたらしい。

「ま、まてっ。今の無し。今の命令じゃないからっ!」

慌てて言うと、ユリスの首輪が緩んだ。

「す、すまない。大丈夫だったか?」

「は、はい。びっくりしましたけど、ちょっと締まっただけです。」

まったく、どういう判定してるんだよ、この首輪はっ。

まぁ、どうやらユリスは祭りに行きたいは行きたいみたいだな。願い事がないなら「ヒミツ」なんて言わないだろうし…。

「じゃあさ、今夜は祭に行って夕飯にするか。」

「えっ?」

俺の提案にユリスの表情がパッと明るくなった。

本当に最近は表情が豊かになってきたな。

「あ、で、でも、ご主人様、足の怪我が…。」

「もうほとんど大丈夫だよ。そろそろリハビリがてら外も歩かないとね。」

「はいっ!」

「あ、そ、それじゃぁ、わたくしも…」

「リジットはこの宿のスタッフなんだから勝手に出て行っちゃマズイだろ…」

「…そ、そんなぁ……」

あれ?リジットが涙目だ。どうやら、本当はリジットも行きたくてしょうがなかったらしい。

…ま、いっか…

「分かったよ。ブルーテスさんには俺から話してみるから、一緒にいくか?」

「は、はいっ!」


こうして、俺たちは三人で祭を愉しむ事になった。

リジットの事はブルーテスはすぐにOKしてくれた。宿の客は自分達だけな上に、みんな祭で食事をするから食堂も暇との事だ。ちなみにルーシアは早々に祭に行ってしまったらしい。

ブルーテスも行くかと声をかけたが、

「そんなガラじゃねえよ。」

と、断られてしまった。

まぁ、一応店は開けるみたいだから、誰もいないわけにはいかないか。


しかし…女性二人つれてお祭りとか…リア充かっ!

とりあえず、爆発させられないよう気をつけよう。



-----


こうして、俺たちは街に繰り出した。二人とも今日はメイドの服ではなく普段着だ。

ユリスは俺が最初に買った服だ。緑色のシャツとベージュのスカート。そういえば、ユリスはあまりこの服を普段着てないな。あんまり趣味じゃなかったのかな?と、思って聞いてみると

「そ、そんな事ないです。でも、…なんだか勿体なくて…」

なるほど。まぁ、考えてみれば自分で選んだんだし趣味じゃないって事はないよな。…いや、自分で買ってても何でこんなの買ったのか分からなくなる時はあるか…。

ふと自分の黒歴史を思いだし、慌てて頭から追い出す。


…ゴホン…


対してリジットはタイトなパンツスタイルだった。上に着ているブラウスはメイド服のものとは違い飾り気のないシンプルなものだ。いつもは上げている髪も、今日は下ろして後ろで軽く纏めている。なんだか、女性ってこういうので印象がガラッと変わるよな…。ただ、ラフに纏めたように見えて、きっとこれはラフではないのだ。俺には気づけないけど、拘りが随所に散りばめられているに違いない。俺には気づけないけどっ。


広場に近づくにつれ、宵闇の街は昼間のように明るくなってきた。

そこかしこに篝火が焚かれている。出店が立ち並び、おいしそうな匂いが立ち込める。


「あれ?ウィルじゃないか。外に出てきてももう平気なのかい?」

突然声を掛けられて振り返ると屋台の中からルーシアが声を掛けてきた。

「こんな所で屋台やってるんですか?」

「そうだよ〜。どうせ宿は暇なんだし、ここで稼がないとね。この屋台の食物は有料だけど、その分イイもの出してるからさ、なんか買ってよ。」

「なんだ、だったらブルーテスさんも一緒にやればいいのに。」

「馴染みが夜に来るんだってさ。祭の日に男同士で引きこもって辛気臭いったらないよね〜。なんか買ってよ。」

「なるほど、それじゃ店は閉められないですねぇ。」

「そうなのよ〜。なんか買ってよ。」

………

「…買うの?買わないの?」

「あ…その…、これと…これ下さい。」

果実水と揚げパンをチョイス。…クッ…ルーシアの迫力に負けてしまった…。

まぁ、サッパリした果実水はチェイサー代わりにはちょうどいいかもしれない。

揚げパンは、ボール状のパンを油で揚げて砂糖をまぶしている。ドーナッツみたいなものだな。

「でも、これ8個入りですね。」

ルーシアが看板を見ながら言った。

看板には確かに8個入りと書いてある。

てことは3人で食べると2個余ってしまうな。


…あれ?

2個余る?


余り…


…あ、そっか…。



「まったく。ユリスちゃんにはかなわないねぇ。ほら、1個オマケだ。仲良く食べなよ。」

俺が一人で惚けていると、ルーシアが一個オマケしてくれた。

それを見ながら、俺は笑ってしまっていた。


広場の噴水前にはエールを配る出店があり、赤ら顔の住人が列をなしている。その周りには丸テーブルがズラリと配置されており、みんな思い思いのテーブルにグループをつくり酒を酌み交わしている。なんだか、夏のビアガーデンみたいな感じだな。

「ご主人様〜、ユリス〜。ちょうどこちらが空いてますよ〜。」

テーブルを確保してくれたリジットが手を振っている。

「ナイスだリジット。」

俺がVサインを送ると、リジットもVサインをかえしてくれた。

「そうしましたら、ご主人様はこちらでお待ち下さいな。わたくしがお食事を取ってまいります。」

「あ、そしたら私は飲み物を。」

そう言ってユリスとリジットはそれぞれ食べ物と飲み物の列に並んでいった。


俺は背もたれに体を預けて「ふぅ」と息を吐いた。

空にはまん丸の満月が浮かんでいる。

そういえば、今日は一年で一番昼が長い日らしい。つまりは夏至、正確に言えば夏至付近の満月の日だな。七夕は7月7日だが、夏至は6月の末。つまり、元の世界の七夕とは時期が少しズレているようだ。

なんとなく周りを見ていると、若いカップルはソソクサと路地裏に消えて行くのがみえる。


…若いねえ…


…いやいや、俺もまだ若いっ。若い…ハズだっ。

パッションだ。もっとパッションを持たなくては。


「あらあら、どうしたんですか?そんなに腕を振り回して。」

リジットが食べ物を抱えて戻ってきた。

「いや、パッションは大事だよなって。」

「ぱっしょん?」

「あーっと、つまり情熱…かな?」

そう言うと、リジットは顎に指を当てて少し考える。

「あー、そういう事ですか?ウィル様さえ言ってくださればいつでもお相手しましたのに…。」

「い、いや。それは高くつきそうだからイイ…」

「まぁ、女性に向ってそれは失礼ですよ?プンプン」

…うん、失礼かもしれないけど、撤回する気になれない…。

「ご主人様〜〜。エールで宜しかったですかぁ?」

と、そこにジョッキを抱えたユリスがやってきた。

「全然OKだ。よくやったエリス。」

「えへへ〜」

相好を崩しながら、ユリスがエールの入ったジョッキを三つ並べる。

「あらあら、わたくしのも持ってきてくれたんですか?」

自分の前に置かれたジョッキをみて、リジットが言うと、ユリスはプイッと顔をそらす。

「…今日はお祭りだから…」

チョット拗ねたように言うユリス。

その様子にリジットは微笑みを浮かべる。


…こういう顔が出来る奴なんだな…


「さぁ、それじゃあ乾杯しましょう。」

リジットがジョッキを掲げる。

よしっと俺とユリスもジョッキを…


…ちょっと待て?


「なぁ、ユリスって酒を飲めるのか?飲める歳なのか?」

「エ、飲メマスヨ。飲メル歳デスヨ〜」

……

「…リジット?」

「はい、この国では飲酒は20歳からとなっております。」

「没収〜」

「あ〜っ!イイじゃないですか。今日はお祭りなんですからぁ。」

「だーめーだ。代わりにユリスはこれだ。」

俺はルーシアの所でチェイサー代わりに買った果実水を渡す。

「う〜…」

受け取るも、不満そうなユリス。でも駄目だ。

ま、あと数年したら一緒に飲もうぜ。

「ほれ、改めて乾杯しよう。」

「う〜〜……はいっ!」

ユリスも機嫌を直して杯を構える。


「「カンパ〜〜イ」」


------

カカァン…

グラスの当たる音が、周りの喧騒に染み込んだ。

人びとの笑い声と、篝火の揺らめきと、夜空の闇がトロリと溶け合う。

フワフワと流れる心地よい時間に身を委ねて

みんな、笑っていた。


やがて、月が天頂に向かうと、人々の喧騒はまるで潮が引くように静まる。

篝火が消され辺りは月の青い光に染め上げられる。

見上げると教会の尖塔に一人の男が立っていた。

多分あれが大司教なのだろう。

さらに視線を上げれば、尖塔の先に真円の月がぽっかりと浮かぶ。



月の光に似た

静かな時が流れた。









凛……



小さな鈴の音が響いた



凛……



人々はこうべを垂れる



凛……



両手を握り合わせ祈る



凛……



俺は一人



凛……



ただ見上げていた



凛……






凛……



前回短かったので早めに投稿です。

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