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剣と魔法とオームの法則  作者: なまぐさぼーず
第三章 新しい事にチャレンジしてみた!
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非安定なユリス

はぁ…

ユリスはご主人様に気づかれないようため息をついた。

この訓練にきてからここまで、全然仕事をさせてもらえないのだ。

ご主人様はトレーニングだがらと言うが、これでは自分は休んでいるようなものだった。

確かにゴブリンとの戦闘は怖いけど、それもドーハンやルメリアがいざとなれば助けてくれる。

ご飯の支度だの、食料の調達などは当たり前の事だ。ご主人様の分をやるならまだしも、自分の分の食事の支度など仕事とも呼べない。

テントで寝るのは初めてのだけど、路地裏で雨露をしのいだのに比べれば快適そのものだ。そりゃあ、宿屋ベッドとはいかないが、柔らかいマットと暖かい寝袋に包まれて眠れるのだ。ユリスにはなんの問題もなかった。その上、ドーハンとルメリアはユリスにも同じように様々な知識を教えてくれる。

もちろん、ご主人様がこういう知識を学ぶために二人を雇ったのは理解している。でもお金を払ったのはご主人様なのだ。なのに、私まで教えてくれるのはおかしいではないか。

知識とは貴重なものだ。それはユリスがご主人様から様々な知識を教えられる過程で理解したことだった。


また…与えられてばかりだ…。


それがユリスには怖かった。


イバリークに向かうため川沿いを歩くウィルとユリス。

日も上がり、少し暑いくらいの気温だったが、川沿いに吹く風は少しヒンヤリとして気持ちが良い。

ちょっと開けた場所にを見つけるとウィルは立ち止まった。


「そろそろ、昼飯にしよう。」

「は、はい。」

ユリスは荷物を降ろす主人につられるように自分の荷物をおろした。

そして、自分の昼分の食料を取り出す。

…って、これじゃあダメなのだ。

またなにも仕事をしていない。

「ご主人様、あの〜なにかお手伝いする事は?」

「あー…それじゃぁ、薪を集めてきてよ。俺はカマドを準備するから。」

違う、そうじゃない。

分業がしたいわけではないのだが、ココまでの流れで全部自分がやると言っても「訓練だから」と、認めてもらえない事は理解していた。

ふう…と、また微かに溜息をついてユリスは薪集めに向かった。


どうすればご主人様の役に立てるんだろう。

薪木を拾いながらユリスは考える。

と、少しそんな自分を不思議に思った。今までそんな事を考えた事は無かったのだ。今まではどうすればつらくないか、どうすればご主人様の怒りに触れないかばかりを考えていたのに。

でも…

多分それは、今の生活がいいからだ。

ご飯を食べられて、柔らかいベッドで寝られて…こんな恵まれた環境に今までいたことはない。

だからこそ、捨てられたくないのだ。

役立たずと思われたらいつ売られてもおかしくない。

少しでも。役に立たなくては…。


ユリスが決意を新たにしたとろで、視界の端になにか動くものをとらえた。

瞬間身体を低くして、そちらの様子を伺う。この動作もあの二人の冒険者から教わったものだ。

ぱっと見はなにもない。でも僅かに草が不自然に揺れている。


うさぎだ。野うさぎが草むらにひそんでいる。

やった。これでご主人様に少し美味しい昼ごはんを食べてもらえる。

ユリスは静かに背中の弓を取り、矢をつがえる。

ご主人に喜んでもらえる。そう思っただけで、ユリスの口元はほころんだ。

その瞬間に、うさぎが急に跳ねた。

慌てて矢を離すがもう狙っていた所に兎はいない、、矢は草むらに飛び込み、その音に兎は一目散に逃げ出す。

「お、待ってっ!」

ユリスは思わず、そう口にするがもちろんうさぎは待たない。ユリスと反対側に一目散に駆けていく。


本来ならここであきらめる所だ。

藪の中を駆け回られたらとても捕まえる事など出来ない。

だが、ユリスは追いかけた。

追いかけてしまった。

森の奥へと。


-------


追いかけたのはそう長い時間ではない。平地なら兎も角、こんな山道でうさぎを追ったところですぐに見失うのは自明だ。

ハア…

また溜息だ。最近溜息が増えた気がする。

諦めて薪木を拾って戻ろうと振り返り、そして視線が凍った。

今きた道を塞ぐようになにか立っている。

子供くらいの背丈の醜い容姿、ゴブリンだ。

いつの間に?

うさぎに夢中になって周囲を警戒していなかった。

「い、一匹くらい…」

震える声を抑えつつ剣を抜く。が…


ガサリ…


草むらから、木の陰から…ゴブリンが次々と出てくる。

5匹…6匹…そして、最後にほかのゴブリンよりも明らかに体格の良いゴブリンが現れる。大きさは成人男性と変わらない。肌も他のゴブリンが緑色なのにたいして、このゴブリンは青に近い。

ボブゴブリン。ゴブリンの上位種だ。

「ち、近づいたら打ち込むわよ」

ユリスは力場を展開しファイヤボールを6つ生み出した。

ご主人様に教えてもらった魔法だ。

ゴブリン達は一瞬怯み包囲の輪を広げるが、ホブゴブリンは動じない。寧ろ撃ってこいとばかりに近づく。

「こ、このっ」

作り出したファイヤボールを纏めてホブゴブリンに、打ち込む。しかし、火球はホブゴブリンの盾一払いでかき消されてしまう。

「そんな…」

ご主人様が言っていた。この魔法は虚仮威しにしかならないと。その時はユリスは意味がわからなかった。炎の球が飛ばせるならとても強力に思えたのだ。だが、そうでは無かった。只の火の玉など、払えば消えてしまうのだ。

そんな様子を見たゴブリンも再び間合いを詰め始める。

もうファイヤボールを、出しても怯まない。

もうだめだ…

ユリスの顔に絶望が浮かぶその時。


「デヤァーーっ!」

そんな叫びとともに誰かがユリスとホブゴブリンの間に割って入る。

誰か…そんな事はユリスの中では決まっていた。

ゴブリンの包囲切り裂いて飛び込んだ彼はそのままホブゴブリンと対峙する。

ホブゴブリンも新たな敵に構え直す。

彼は腰を低く落として剣を構えた。

彼我の距離は3mあまり、まだ剣の届く距離ではない。

と、彼の一瞬腰を沈めたと思うと、もの凄い勢いでホブゴブリンに間合いを詰める。

あまりの早さにホブゴブリンは全く反応出来ない。彼はホブゴブリンとすれ違い様に構えた剣を振り抜く。

かろうじて身をよじるホブゴブリン。剣は胴体を逸れ、ゴブリンの右腕を剣ごと切り落とした。

そして、土煙を上げてやっと止まった彼は膝を着いた姿勢のまま、ゴブリンの集団を肩口に見据える。


…まだやるか?


その目はそう言っているようだった。


ヒギャーッス


ホブゴブリンは腕をなくしながらも声を上げた。それは退却の合図なのだろう。ゴブリンは一斉に退いた。


ユリスはその人物を見る。

今、ユリスを救った人を。

今までユリスを救ってきてくれた人を。

ご主人様を…。

ウィル・ハーモニクスを…。

ユリスは眩しいものでも見るように目を細めた。

そして、

「ご主人様っ」

ユリスは自らの主人に駆け寄った。

「ユリス…大丈夫だった?」

「は、はいっ。ご主人様凄いです。あんな剣。今まで見た事ありません。」

訓練でも見せていなかった。一体このご主人様は何時私を驚かせたら気がすむのだろうか。ずっと実力を隠していたのだろう…。


…パタリ…


ウィルがその場に倒れこむ。

「え、え…?ご主人様?」

慌てるユリス。

と、震えるウィルの声が

「両足イっちゃって…、もう、一歩たりとも歩けまシェン…」

「え…、え〜〜〜っ⁈」



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